イラン核開発で焦るイスラエル                           岡森利幸   2012/2/13

                                                                  R2-2012/3/16

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2012/1/9 総合面

イラン指導部が「原油制裁なら、ホルムズ海峡を封鎖する」と、地元紙が報道。

毎日新聞朝刊2012/1/10 国際面

イラン中部の地下施設でウラン濃縮作業始まる。原爆を製造するためにはウランの濃縮度を90%以上に高める必要があるが、約20%に達すれば、濃縮工程全体の大半を終えたことになるといわれている。

毎日新聞朝刊2012/1/13 国際面

イラン・テヘランで核科学者が爆弾テロで殺害された事件を受け、バラトロ・テヘラン州知事「過去の事件と手口が同じでシオニストの犯行だ」と断定した。イラン側がイスラエルを名指しし、非難した。

イランが核開発を止めようとしないので、国際的な制裁の輪が広がっている。イラン経済にその影響が出始めているという。イランが「地下施設」でウラン濃縮作業しているのは、イスラエルが空爆して施設を破壊するのを防ぐためだ。イスラエルの爆撃機(あるいは戦闘機)がイラン領空に侵入し、空爆するのは、十分にありえることなのだ。イランが原爆を製造するのも近い将来ありえることで、原爆のための濃縮ウランも、ほぼ自前で用意できたと言っていい。イスラエルが空爆するのが早いか、イランが原爆を製造するのが早いか、ほとんど競争になっている。

イランが核兵器を開発することは、イスラエルにとって、とんでもない脅威になっている。それまでにも、周辺諸国の核開発には神経を尖らし、それを阻止するため、過去には建設中の原子力施設を空爆する強硬手段もとってきた。間接的な手段として行われているのは、原爆製造に関わる核科学者を抹殺することだ。イランでは核科学者には厳重な警備体制が敷かれているとされるが、それでも、何人もの核科学者が拉致されたり*1、爆死させられたりしている(おもに、車に爆薬が仕掛けられる。同様の爆破事件が、2010年以降5件発生し4人が爆殺された)。イスラエルにとって大儀のためには、科学者の命の一つや二つ、物の数ではないらしい。そんなイスラエルに対して、イラン側では、「シオニスト」(イスラエル建国論者)という言葉に強い嫌悪感を込めるとともに、ほとんど「テロリスト」と同義語として用いているようだ。

イランの核開発が進み、ここへ来て、イランから核ミサイルがイスラエル領内に飛んでくることの悪夢がますます現実味を帯びてきているから、イスラエル人にとって夜も眠れないような脅威になることだろう。イスラエルは、イランがイスラエルを嫌っていることをよく知っているから、深刻なことになっている。国際的なスポーツ大会でも、イランの選手はイスラエル選手との試合を放棄するほど、イランのイスラエル嫌いは徹底している。それは差別的感情に近いものだが、イスラエルは嫌われるだけのことをしてきた事実もある。

その昔、1948年中東の地に割り込むようにパレスチナ人を押しのけて(大量の難民を出した)イスラエルを建国し、四次に渡る中東戦争(1948−1973)では、米国譲りの近代兵器で周辺諸国に大きな打撃を与えたし、現在でも、ガザ地区の実効支配勢力ハマスに手を焼き、地区の住民すべてを巻き込む「兵糧攻め」(物流を制限する)を行うなど、なりふりかまわない(手段を選ばない)強引さが、私の目にも横暴に映る。イスラエル人にとって中東での建国は悲願だったとしても、その強引さが紛争の大きな火種になった。

イランはイスラエルを国として認めていないし、宗教的にも相容れない。イランにとってイスラエルは宿敵中の宿敵であり、「アラブの地」からイスラエルの人々を追い出すことを公言してはばからない。奪われた「アラブの地」を取り戻そうとする意識は相当に高く、執念深いほどだ。その手段として核爆弾が「一番有効」だと考えているのだ。イスラエルを標的として核開発しているしているのは明らかだ。イスラエルに核爆弾を運ぶための中距離ミサイルも開発ずみだ。その開発には北朝鮮が協力したともささやかれている*2。核兵器の開発にはパキスタンが一役かった疑いがある。ひそかな国際協力の下で、イスラエルに核爆弾を撃ち込む準備を着々と進めている。イランのアフマディネジャド大統領の性格(常に、反イスラエル感情をむきだし、「イスラエルを世界地図から消してやる」と息巻く)からして、核開発が完了したら、すぐにでもミサイル発射ボタンを押しそうな勢いだ。彼にも、〈アラブの大儀〉があるのだろう。核開発のためには核実験を実施するのが普通だが、そんな実験をしてみるのはまどろっこしいとばかりに、いきなりイスラエルの地を核実験場にするという恐れもあるだろう。イランの政局においては、大統領派よりさらに対外政策に強硬姿勢を見せているハメネイ師派の勢力が台頭しつつあり、ますます雲行きが怪しい。イスラエルにとって、想像もしたくないような状況が迫りつつあるわけだ。

イランによる核攻撃が現実味を帯びてきたから、イスラエルでは、危機感でいっぱいになっている。イスラエルは国家の存亡、民族の生き残りをかけてイランの核兵器を阻止したいのだ。〈核を撃ち込まれる前に、何としてでもそれを防ぎたい、そのためには先制攻撃も辞さない〉という追い込まれた境地にある。イスラエルのネタニヤフ首相は、3月2日の会見で「我々は自衛の権利がある」と述べたように、自衛の名の下に先制攻撃を正当化している。ただし、下手に先制攻撃すれば、報復が攻撃が行われ、両国が全面戦争に突入する恐れもあり、イランだけでなく、周辺のイスラム諸国や世界各国を刺激するから、そのタイミングは難しそうだ。識者の中からは、ベストのタイミングを逸したという見方も出ているのだ。

イラン核兵器の恐怖におののくイスラエルは、先制攻撃の準備とともに、一方ではアメリカ政府にも圧力をかけ、国際的にも圧力の輪を広げてイランの核開発を阻止する努力をしている。アメリカにとって、中東での武力衝突は対岸の火事では済まされない。アメリカにはユダヤ人(イスラエル系)が約600万人いて、その割には政治的に大きな発言力を持っているから、政府を突き動かす。アメリカにとって本来、イランの核開発は脅威でも何でもないはずだが、ユダヤ人の本国が危機にさらされれば、何とかしなければならないと考えてしまう。周辺地域の大量破壊兵器には、常に神経を尖らせている(ホロコーストのトラウマがいつまでも消えないようだ)。今回の問題でも、アメリカはイランからの石油を買わないなどの経済制裁を推し進め、イランの核開発にブレーキをかけようとしている。しかし、それはますますイランに敵対する行為であり、関係を悪化させる要因にもなっている。なお、将来アメリカ国内の人口比率で、イスラム系がイスラエル系を上回ると予測されているから(*3)、いつまでもイスラエルの肩を持つわけに行かなくなるだろう。

イスラエルが既に核兵器を開発済みであることは、公にされていないが、国際的に周知の事実になっている。自分たちは核兵器を隠し持っているのに、イランに〈核開発をするな、核兵器を持つな〉というは、おこがましいことだ。ぜんぜん説得力をもたない。そんな核兵器は、対抗意識の強いイランに対して抑止力にもならず、イランの核開発を急がせただけだろう。

イスラエルが「アラブの地」で近隣諸国とうまくやっていくためには、いつまでも強硬路線を行くのではダメだろう。核爆弾を打ち込まれてから、それを知るのでは遅すぎる。

 

*1 読売新聞朝刊2010/4/1国際面に、イラン科学者、米に亡命。米ABCテレビが、米中央情報局(CIA)の働きかけで米国に亡命していたと報道した。

*2 毎日新聞朝刊2008/9/24国際面に、イランの反体制派組織「イラン国民抵抗評議会」は「イラン現政権は、長距離弾道ミサイルに搭載可能な核弾頭の開発を進めている」と指摘。さらに北朝鮮の専門家が支援していると明らかにした。

*3 毎日新聞夕刊2011/11/21「アメリカンぼちぼちライフ」より、国際面全米で260万人のイスラム人口は20年後は620万人にまで増えると予測されている。

 

 

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