地図上から送電線が消える理由                            岡森利幸   2012/2/2

                                                                  R1-2012/2/11

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2012/1/30 総合面

地形図から送電線が消える。電力10社が、情報提供を拒否した。テロ対策が理由。登山が不便になりそう。

ある教諭「時代錯誤も甚だしい。あまりにも秘密主義過ぎるのではないか」

毎日新聞朝刊2007/6/19 まち面

WHO(世界保健機関)が電磁波に基準を設ける。高圧送電線近くで生活すると、小児白血病が2倍になる可能性がある。

電力会社の10社すべてが、示し合わせたかのように、送電線の情報提供を拒否したとは、かなり強硬な姿勢がうかがえる。地形図を作製する側としては、電力会社からの情報提供がないと、表記するわけにも行かないようだ。電力会社が送電線の位置情報を提供しないのは、サービスが悪すぎるし、あまりにも不親切なことだ。その電力会社の狭い了見に憤りを感じる人も多いようだ。登山する者は、送電線を一つの目標にして行動することも多いのだ。送電の鉄塔はよく見えるから、地形図と照らし合わせて自分の位置を知ることもできる。ときどきヘリコプターが送電線に引っかかり、墜落したという事故*1も起きているから、地形図にあった方がいいというレベルではなく、その表記が必要なくらいだ。送電線がどこにあるか分からないのでは、低空飛行はできなくなる。電力会社には「ヘリコプターが引っかかっても、知ったことではない」らしい。

テロ対策という理由だが、今までテロリストが送電線をターゲットにし、実行したという例は知られていない。紛争地域で石油のパイプラインが爆破されたということは確かにあるが、送電線や電力設備まで狙われるのは、戦闘の状況が相当に悪化してからだろう。そんな戦闘が起きるとは考えにくい日本で、今になって送電線のテロ対策とは、考えすぎだろう。心配症的な対応だ。送電線を地図上から消しても、その存在は遠くからでも分かるものだから、テロリストが本気で送電線を狙うならば、地図など当てにせず、実物を見て決行するだろう。つまり、一般的な地図上から消すことが「テロ対策」に有効だとはとても思えない。テロリストから送電線を隠したいのならば、それを地下に埋めるしかないだろう。

だいたい電力会社は送電線の一本・二本が故障したりして送電できなくなっても、大規模な停電にはならないように二重三重の送電網が整備されているはずだから、たとえテロリストが一部の送電線を断ち切ったとしても、影響はほとんどないか、あるいは限定的な小さいものになる。大規模なテロでない限り、電力会社自身の実質的な被害も高が知れている。そもそも、テロの被害で一時的な停電が起きたと仮定しても、だれも電力会社を責めたりはしない。そのときは、幹部が「送電線が破壊されるとは、想定していませんでした」と胸を張って言い訳することができるはずだ。

小さな破壊で社会的に大きなダメージを与えたいテロリストにとって、送電線を狙うのはあまりにも効率(費用対効果)が悪すぎる。破壊工作するならば、もっと効率のよい目標が、日本にはたくさんあるだろう。

 

隠蔽体質に凝り固まった電力会社は、最近、テロ対策を口実にすることが実に多い。真の理由を述べことにはばかられるとき、テロ対策を持ち出す。テロ対策を口実にして、「(くさ)いものに(ふた)」をしているのだ。電力会社が地図上に送電線を載せたがらないのは、テロ対策以外に、世間に知られたくないような理由があるのではないか、と考えるべきなのだ。そこで思い当たるのが、送電線による健康被害のうわさだ。

上記に引用した記事はやや古いが、送電線の下では電流に伴って発生する電磁波のために、何と、白血病の発症頻度が2倍に上がるとのデータがあるという内容だ。世界的に権威のあるWHOがはっきりと発表したのだから、信憑性は高い。ただし、2倍といっても、白血病の発症の基数は少ないから、全体的な数値の中ではかなり微妙な差があるだけだ。ともあれ、ある種の電磁波が健康に害を与えることは定説になりつつある。また、はっきりと診断できる白血病の症例だけでなく、送電線下の住民の中には、なんとなく気分が優れないという向きもあるらしい。そんな不定愁訴など、病院での医者は、「どこも悪くありませんよ。気のせいですよ」などと言って患者をなだめるのが関の山だろう。しかし、医者の中には、趣味の登山に用いていた「古い地形図」を広げて、〈おや? この患者も送電線の近くに住んでいるね〉と気づくことがあるかもしれない。

――そんなうわさが広まると、電力会社としては、この上ない不都合な事態になる。送電線の高さや送電量が規制されてしまうことになりそうだし、不安がる住民たちに対しては、放射性物質を大気中にばらまいたときのように、「直ちに健康に影響するものではない」と言い張らなければならなくなる。新しい送電線の建設など、住民の反対にあって、できなくなるような、やっかいなことに発展するかもしれないから、電力会社は「古い地形図」を隠ぺいしたいわけだ。住民の健康などよりも、自分たちの会社の「利益」の方がずっと大切なのだろう。電力会社の経営者たちには、住民の健康が損なったとしても知ったことではないのだろう。

送電線の健康被害を知っていてそれを隠そうとするなら、もっと性質(たち)が悪いのだ。

 

*1 例えば、2010年8月に香川沖で海保ヘリが送電線に接触して墜落した。

 

 

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