行け行けどんどん新幹線建設                                    岡森利幸   2011/12/17

                                                                    R2-2012/1/11

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2011/2/10社会面

新潟県知事が北陸新幹線の負担金支払いを拒否表明した。

毎日新聞朝刊2011/11/22一面、経済面

リニア中間駅の建設費用を、全額JR東海が負担する。

JR東海の東京-大阪間の負担額は、従来想定の84400億円から9300億円に増える。JR東海の財政悪化が懸念される。

毎日新聞朝刊2011/12/16 総合面

民主党は15日、整備新幹線(北海道の新函館−札幌、北陸の金沢−敦賀、九州・長崎ルートの諫早−長崎)の3区間の着工を認可する方針を了承した。国土交通省は3区間の総事業費を約2.7兆円と試算している。

1.借金まみれで建設を強行するJR

リニア建設においては、ずいぶん太っ腹なJRである。借金が8兆になろうと9兆になろうと、かまうことはないらしい。それまでリニア新幹線の中間駅に関しては、地元負担を原則としていたはずだ。地元に費用を出し渋られたり反対されたりしては、建設の進捗に支障が出るとの判断で全部自分で出すことにしたようだが、そんなにあせって建設する必要があるのだろうか。現行の東京−新大阪間の「ひかり」でも、十分に速いではないか。

リニア建設のために、本州・中央部の3000メートル級の山脈をぶち抜かなければならず、ほとんどトンネルと橋ばかりの線路を敷設するには、大変な工事と大金がかかる。JRにとっても大きな賭けであるわけで、慎重さが必要だろう。採算ベースに乗せることができなかったら、その巨額な金を使い込んだツケは、JR東海だけの問題ではなく、日本全体に影響する。借金の重みをぜんぜん感じないJRの「無感覚」ぶりには、異常なものを私は感じる。借金に対して神経が麻痺しているかのようだ。その辺の感覚は、国鉄時代以来伝統的なものらしい。

また今回、整備新幹線として着工を認可される3区間は、特に採算性や必要性に問題のある箇所で、それまで凍結されていたのだ。認可する方もおかしいし、認可申請を出したJRの経営陣は何を考えているのだろう、と私は首を傾げざるを得ない。JRは民間会社でありながら、政治的な圧力にめっぽう弱い企業体質があるのだろう。JRと国土交通省は、ほとんどグルである。国土交通省がJRの背中を押した結果が、リニア新幹線や整備新幹線の建設着工の動きだろう。後者のローカルな区間を建設するためには、国土交通省試算で2.7兆円もかかるのだ。JRの資金調達の裏には、国土交通省がついているというあてがあるのだろう。大震災の復興にかこつけた建設ラッシュに便乗したかのようだ。しかし、資金調達は可能としても、そんな巨額な費用をかけて、採算が取れる見通しがあるのだろうか。記事にもあるように、財政悪化が懸念されるわけだ。それどころか、私には、経営破綻の道に突き進んでいるように見える。

 

2.採算性の疑問

JRは、今後の少子高齢者社会の中で、巨額の借金を背負って運行が継続できる見通しがあるのだろうか。

採算性を度外視しての建設だろう。数字の上では採算が取れるとしても、それは建設を推し進めるためにでっち上げた(ほとんど詐欺的な)甘い計算によって得られたものでしかない。現に、地方の新幹線が黒字だという話は聞かない。そんな計算をしてきた国土交通省やJRだから、地方に建設された新幹線は、建設後いつまでたっても、当初の見通しの旅客量を下回っているのだ。今でも採算が取れているのは、東海道新幹線だけだろう。それでもトータルな経済効果があるから運行する意義があるんだと、国土交通省は「精神論」で言い訳をするのだろうか。

高速鉄道を利用するような、急いで旅する必要のある人は、実際のところ限られている。東海道新幹線と羽田―関西の航空路線便を利用する人の一部が、リニアに流れるだけと予測したい。わざわざリニアに乗るために旅する人は、物好きな人だけで、リピーターにもなり得ないだろう。乗車料金を「ひかり」と同じ程度に抑えたとしても、9兆の借金を返すには、何年たっても無理だろう。利息を返すのがやっとというのが、関の山だろう。JRが反論したいなら、堅実な計算資料を示してほしいものだ。どうせJRのことだから、東海道新幹線の乗客がその分、減ることはまったく計算に入れていないのだろう。

リニアが東京―名古屋間を開業したとしても、そんな乗客がわざわざリニアを利用するメリットはほとんどなくて、低調な営業が続くだろうから、本格的な東京―大阪間を開業して順調に運転を行うまで、巨額借金を抱えたまま、一銭も元本を返せない状態が続くと私は予測している。つまりその間、雪ダルマ式に借金が膨らむ恐れが十分あるのだ。最悪、日本航空のように、経営破たんさせ、公的資金をつぎ込んで負債を埋め込むよりほかはなくなってしまう。(そういえば、国土交通省は、都道府県に、定期路線が数本しかないような閑散とした地方空港をいくつも作らせてきた。日本航空には、採算が取れないまま、そんな定期運行を継続させたから、赤字を膨らませた。)

整備新幹線にしても、一時期、その無謀な計画への批判が強まり、建設が凍結されていたのだが、ここへ来て、そのタガがゆるみ、急坂を転げ落ちるように、走り出そうとしている。新幹線とは名ばかりの「新ローカル線」を増やそうとしている。今まで作ってきた新幹線建設の借金を払い終えてもいないのに、さらにまた巨額な借金を積み重ねて作ろうとしている。そんな巨額な借金は、だれが返すのかというと、今生きている我々ではない。間接的にも直接的にも、我々の子供や孫の代の人たちが背負うことになるのだ。

 

3.見積と実績では大きく異なる建設費

新幹線の実際の建設費は、当初見積りより大幅に膨れ上がることも、気になるところだ。日本では、ゼネコンが着工前に見積った建設費用は、常に最小限に見積られたものだ。現場での、あるいは工事が進むにつれて明らかになるような不確定要素についてはまったく見積られていない。例えば、トンネル内で水が多く出たとか、敷設する地中に産業廃棄物が埋まっていたとかの「想定外」に対しては1円も見積りに含まれていない前提だから、現場で次々に想定外の修正要因が発生して、工事完了時には1.5倍、あるいは2倍以上に膨れ上がるのが常なのだ。容易に想定される要因であっても、ゼネコンは入札価格にはわざと算入しないのだ。あとから発生した分はすべて追加工費としてJRに請求することになる。JRとしてもそれが常識になっているから、追加工事が発生したとなれば、JRはゼネコンに言われるがままに、慣例のごとく全費用を支払ってきた。その追加工事をしないと、建設が完了しないものだから、出さざるをえない。工事が完了するまでどんどん建設費用が膨らむ仕掛けになっている。結果的に、建設前にJRが出した費用見積などは甘すぎることになる。当初予算どおりの費用で建設された(ためし)がないのが公共工事だろう。

今年、開業にこぎつけた北陸新幹線も例外ではなく、国が定めた分担比率の「取り決め」を楯にしてその追加分の一部を地元の新潟県に無条件に負担させようとしたことに反発し、「へそ」を曲げた新潟県知事が拒否したことがあった。それが上記の最初に示した記事だ。その後、結局、新潟県はしぶしぶ出したようだ。

 

4.行政

建設着工になれば、地元にも、そのおこぼれ的な金や仕事が回ってくるし、人の往来が増え、駅周辺の地価が上昇することや地方の活性化につながるというメリットを期待して、地元は大歓迎だ。それを要望する地方からの声は大きい。政権与党としては、選挙結果に影響するからそれを無視できないところだろう。しかし、地元は受益者であっても、資金を負担するのは嫌がる。結局はその多くをJRや国が負担することになる。いまやJRや国には、そんな金はないから、公共投資資金として捻出するために建設国債という「体裁のいい借金」に頼ることになる。それに、デフレよりインフレの方がいいと思っている日本銀行がいくらでも金を出してくれる。

建設国債を発行すれば、どんどん金を使いまくれるという高揚した気分でいっぱいなのが国土交通省の官僚たちだろう。公共事業を推し進めることによって彼らは利権をにぎり、自分たちの懐を潤すことにつながるのだ。彼らの心のうちを想像すると、

「消費税率アップのメドがようやくついたし、国土交通省には震災復興という大義名分でたんまりと予算が出ているし、原発を稼動させるためだった金(原子力マネー)もこっちに回って来そうだぞ。ここ数年、公共事業費が減らされてきた鬱憤(うっぷん)を晴らすチャンスだ。ぼくらはあれこれ巨大事業を立ち上げて、国庫から金をどれだけ引き出せるかが、ぼくらの腕の見せ所になっているもんね。整備新幹線は、表向きはJRが主体の事業だが、我々のバックアップがあってこそだ。これで土木建設関係の仕事が増えるぞ。土木建設はもはや日本の基幹産業だもんね。それに金を回せば、景気が少しはよくなるというものだ。景気が悪くけりゃ、消費税を上げることに反対されるからね。だいたい、金を出し惜しみして、しみったれていたんじゃ、景気はよくならんよ。JRにはどんどん金を使わせよう。JRが使い込んだ金を、運賃収入で稼いで返えせるようになるのは、遠い先のことになるだろうなぁ。気が遠くなるくらい……。それは、ぼくらが退任してから(天下りしてから)のことだから、関知することではないね。返済できそうもなければ、将来の納税者に付けを回せばいいんだもんね。え? 旧国鉄の累積債務の残高がまだ20兆円近く残っているって? 知らんよ、そんなこと、財務省の管轄だろ?」

国土交通省はゼネコンとのつながりがあるから、建設したくて、うずうずしている行政機関だ。国土交通省の中には観光部があることを私は最近知ったが、新幹線ができれば、観光客も少しは増えると期待できるから、建設したがるわけだ。国土交通省には建設にブレーキをかける部署などなく、費用の試算にしても、着工したいがために常に安く示す。

 

5.生活コストの上昇

新幹線の乗車料金は、通常の何倍も高い。在来線で行くより高が10分早いだけで、あるいは1時間早いだけで、JRはやたらに高い料金を設定して、国民の金を浪費させようとする魂胆があるかのようだ。それでは国民一人ひとりの財布が軽くなるばかりだ。長距離を行く人にとっては、新幹線を利用するより航空機のほうが料金的にも時間的にもずっとよいケースが多々ある。あるいは高速道路を車やバスで行く選択肢もあるから、ぜいたくな乗り物である新幹線に乗ることに躊躇せざるを得ないのは、私だけではないだろう。

新幹線ができることで逆に不便になってしまう問題もある。急がない人は各駅停車の列車で旅をすればいいのだが、並行して走る在来線は、ますます(さび)れ、本数も減らされる。JRグループから見放され、第三セクターでかろうじて運行している路線が増えてきたし、それが新幹線着工の条件になったりしている。さらに、在来線は運行を維持するためには、料金を高くするか、地元市町村の公的な金で補助してもらうか、廃止するかのどちらかになってしまう。遠くへ行くときには便利になっても、近隣の村や町に行くためには、一般の鉄道がますます不便になってしまうから、高額な維持費がともなう車などを購入せざるを得なくなるだろう。新幹線のストロー効果で大都市に人が吸い取られる可能性も指摘されている。地元の人々は、りっぱな新幹線ができることで、近隣の移動が不便になったり、コストの高い生活を強いられたりするデメリットを覚悟すべきだろう。コストの高い生活をするためには、しっかり働かなければならないわけだ。

え? 土木建設業で働けばいいとあなたはおっしゃる?

 

 

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