放射線を浴びた理由で断られた献血                              岡森利幸   2011/6/9

                                                                  R1-2011/6/11

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2011/6/7 社会面

東京都赤十字血液センターが、福島県いわき市から来た男性の献血を断ったことで、男性の妻から「原発事故による放射線被ばくを理由に断られた。(検診医に)放射線で遺伝子が傷ついているかもしれないなどと言われた」などという抗議が寄せられたという。

日赤は4月1日、全国の血液センターに対し、累積被ばく量が100ミリシーボルトを超えた原発作業員については「本人の健康状態への配慮」を理由に半年間、献血を制限する方針を通知した。しかし、一般の福島県民については「通常、100ミリシーボルトを超える被ばくは考えられない」として制限していないという。

日赤側は「遺伝子が傷つくという話は一般論として説明したようだが、誤解されたのかもしれない。検診医の配慮は過剰だった可能性もあり、通知の趣旨を改めて徹底する」としている。

この記事は、新聞の社会面の中央に大きく載せられていた。日赤が一人の男性の献血申し出を断ったというだけの「些細なこと」にしては、けっこう扱いが大きかった。それは人々の関心が高い放射線被ばくに関することなので、時節がら、マスメディアが敏感に反応したためだろう。

血液センターが献血を断る理由は大きく二つあって、一つは本人の健康のためにならないケース、もう一つはその血液がウイルスに汚染されていたりして使用できそうもないケースだ。

人びとが献血するとき、まず入り口で検診医に「簡単な」問診や血圧検査などされてから、パスした者が血を採られることになる。血圧などは高すぎても低すぎてもだめで、せっかく献血しようとしたのに断られることは、「献血には向かない健康状態である」ことを知らされたようなものであり、だれでもショックを感じるものだ。実際、私もその昔、血液センターからの専用バスが来たとき、献血を断られてがっかりしている人を見たことがある。それから、「HIVに感染した可能性について、身に覚えのある人は申し出てください」などという注意書きが、目に付くところに張られていたりした記憶がある。(定かでない。)

パスすれば、少量の検査用血液と献血用の400CCが抜かれる。それだけ「大出血」するのだから、健康でないといけないのだ。献血にはリスクがあるのだろう。大部分の人は問題ないにしても、一部の人に健康に影響が出る可能性があるのだ。検診医は、そんなリスクを避けるために、福島から来た男性には本人のためを思って献血を辞退するように勧めたはずだ。男性の身を案じて採血しなかったと解釈すべきである。日赤は慎重に血液採取の作業をやっているわけで、人が献血を断られたとしても、平然としていればいいのだが、そうは言っても、放射線を被ばくした理由で断られたのでは、納得できなかったのだろう。

ただし、放射線を被ばくしたら、遺伝子が傷つくという話は信じていい。日赤側は「誤解だ」として男性の妻をなだめたが、その話は本当である。確率的に、「まれに遺伝子が傷つく」ことがあり、がんになってしまうこともあるのだ。放射線を被ばくしたら、細胞レベルでダメージを受ける。それでも、ヒトには耐性があり、大部分の人は平気な顔をしてすごせるものだが……。

男性の妻が抗議したのは、日赤が被ばくした男性を「差別した」という意識だろう。「夫がウイルス保菌者と同列に扱われた」あるいは「夫が放射能に汚染されたということで、のけ者にされた」という不満が、抗議につながったわけだろう。

差別問題にもつながるから、下手に献血を断ると、あとが怖いのだ。

 

 

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