放射能は魚には蓄積しないと言い張る水産庁                岡森利幸   2011/5/24

                                                                  R1-2011/6/25

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2011/5/13 社会面

水産省資料で、放射性物質の影響についての魚介類で記述の修正があった。

「放射性物質は食物連鎖を通じて魚体内で濃縮・蓄積しない」としていた記述を「蓄積し続けるわけではない」と変更していた。専門家から「まったく蓄積しないというのは誤り」と指摘する声が上がっていた。

問題の水産省資料は、原発事故後の3月に発行されたもので、専門家からその記述は誤りとする指摘を受けていた。1カ月以上たってからようやく「濃縮・蓄積しない」の記述部分を「蓄積し続けるわけではない」と変更したが、言い方を変えただけであって、「言い分」を変えたわけではない。放射性物質は魚の体内に蓄積しないという「水産省説」をまだ唱えているわけだ。

 

生物が外界から物質を取り込み、排出しているとき、体内での物質の濃度が外界での値の何倍になっているかを表す生物濃縮係数(CF値)について、海洋の放射性物質の場合、国際原子力機関は、海産のプランクトン、海藻類、甲殻類、軟体動物、魚類、一部の哺乳類などのCF値をまとめていて、条件によって異なるけれど、放射性セシウムの場合、平均的に魚類で100とされている――東京大学理学系研究科・理学部ニュース2011年5月号、理学のキーワード「生態系における濃縮(生物濃縮)」より引用・要約。

つまり、魚類は海水中の放射能の100倍の濃度で放射能を持つようになると考えるのが、妥当なところだろう。放射性物質の生物濃縮については具体例が少なく、まだ研究が不十分なところがあるらしく、100倍という数値は不確実だとしても、放射性物質の生物濃縮は魚介類でも確実にあると考えるべきなのだ。特に、放射性ストロンチウムは骨に沈着するものだから、もっと高濃度に蓄積されるはずだ。「蓄積されない」とするのは不正解であって、水産庁の楽観過ぎる思い込み、あるいは錯覚のようなものだろう。

水産庁の魂胆は、「魚は安全だ」と消費者に思い込ませて、放射性物質を含んでいようと、いまいと、魚を消費者にたくさん食べてもらいたいということだろう。水産庁の説によれば、そんな放射性物質が人の体内に取り込まれたとしても、蓄積されず、すぐに排出されるから、だいじょうぶだという理屈になる。消費者が魚を敬遠しては、水産業者が困るので、確信犯的に、そんな「デマ」を流しているのかもしれない。

現に、すぐに福島県や茨城県沖の魚(コウナゴ)で、基準値以上の放射線レベルが検出されたというニュースが流れた。水産庁としてはそれを数少ない例外として打ち消したい、あるいは「風評」として決め付けたいところなんだろう。水産業が衰退してしまっては、水産庁の存在感が薄くなるわけだから……。

 

 

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