軍事政権の支配が続きそうなミャンマー 岡森利幸 2010/4/1
R1-2010/4/3
以下は、新聞記事の引用・要約。
読売新聞朝刊2010/3/30 総合面 スー・チーさんの党、国民民主連盟(NLD)は、政党登録を拒否したことで、総選挙に不参加となる。 軍政に有利な制度で行われる選挙に関与し、形式だけの「民政移管」に加担すべきでないとの指導者アウン・サン・スー・チーさんの意向で、ボイコットを決めた。 総選挙は事実上、「野党不在」で行われる。軍政体制が恒久化され、ミャンマーの民主化をさらに遠のかせる危険もはらむ。NLDが今後、政党資格を失って非合法な存在になれば、軍政はNLDを解散させる一方、スー・チーさんや党員の政治活動を全面的に禁止する可能性が高い。 |
読売新聞朝刊2010/4/1 国際面 ミャンマーのアウン・サン・スー・チーさん率いる最大野党、国民民主同盟(NLD)が、年内に予定されている総選挙のボイコットを決めたのは、選挙に参加することで軍事政権主導の選挙に正当性を与えることを嫌ったためだ。 |
選挙は権利でもあるし、国民の義務でもある。それを放棄するのは意味のないことだ。政党にとって選挙は、政治権力を得るための重要な手段でもあるし、正当性を示すことができる証明でもあるのだ。政党がそれを放棄するのでは、もはや「政党」とは呼べない、単なる「不満分子の集まり」でしかない。
ボイコットすることによって、どれだけのメリットがあるというのだろうか。相手を喜ばせるようなボイコットでは何の効果も得られないし、自滅的、あるいは自虐的なボイコットをすることになる重大な判断なのに、記事にあるような「ささいな理由」では、私はとうてい納得できない。党利党略を考えてのことだろうか。いや、それも考えていないようだ。軍事政権主導の選挙に正当性を与えたくないという「情念」(意地のようなもの)に動かされているようにみえるし、あるいは、世界からの「受け」狙いのボイコットにみえるのだ。
軍事政権側にとっては、最大野党が総選挙に不参加となれば、こんなに都合のいい話はない。むしろ、国民民主同盟が選挙に参加するのを妨害したいぐらいなのだ。対抗勢力が選挙に出ないなら、楽勝だろう。軍事政権の人選による、思惑通りの選挙が公式に行われることになる。国民民主同盟は、軍事政権が世界の圧力に押され、しぶしぶながら総選挙を実施するというのに、政治の舞台に上がろうともしないのだから、復活のためのせっかくのチャンスを逃がすことになる。
民衆が政党を支持するのは、その政党が政治力を発揮して社会(自分たちの生活)をよくしてくれるという期待があるからであって、その政党が選挙で政治力を得ようともせず、放棄するようならば、もう、そんな政党は要らないことになる。軍事政権に対抗できるのは、選挙によって議員を増やし、議会の中で力を結集した政治勢力しかないだろう。議会の中で発言権がない者が、議会の外でいくら主張しても、押しつぶされるだけだ。選挙をボイコットすることは、民衆の期待を裏切る行為であり、得るところは何もない。自ら政治の舞台から降りるだけになってしまう。ボイコットを続けている限り、自分たちの声を政治に反映させることもできない。今回のボイコットで、彼らが生きている間にすら、民主化が実現することが難しい状況になってしまった。
私は、惜しいと思う気持ちより、「彼らは何をやっているのだ」という叱責したい気持ちだ。特に、スー・チー氏の責任は重い。党の中央執行委員会では、その主要メンバーの20人が意見を異にしていたが、彼女の考えを伝え聞いてから党内の流れが変り、ボイコットを決めたという。スー・チー氏は長い間、今でも自宅で軟禁状態にされ、党内での議論に加われない事情があるにしても、視野の狭い、独断的な考えを党に押し付けたことになる。これまでにも、国民会議をボイコットしたりして(1997年11月)、彼女とその政党は、結局は不利な立場に追い込まれていた。
スー・チー氏といえば、1991年のノーベル平和賞受賞者である。彼女一人の存在が国際的に注目され、目立っている。彼女は軍事政権の「被害者」としての自分を演じ続けているかのようだ。それが彼女の「打算」だろうか。私には、そんなボイコット戦略を続けてきた彼女がノーベル平和賞に値したとは、とても思えない。彼女が民主化を遅らせたことはあっても、ミャンマーを「平和な国」にした事実や実績は何もない。軍事政権の「安泰な国」にしたという事実なら、ありそうだが……。
彼女よりも、軍事政権に支配されたミャンマーの一般国民が一番不幸だ。たとえば、2008年5月に沿岸部でサイクロンによる大災害が発生したとき、軍事政権はその復興に力を入れようともせず、その被害状況すらも国際的に隠そうとしたことが、まだ記憶に新しい。これでは、ますます軍事政権をのさばらすだけだ。ミャンマーの民主化が遠のくのは間違いない。国民のことを考えたら、総選挙をボイコットするという選択肢はなかったはずだ。選挙をボイコットするようでは、民主主義の成立はありえない。
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