ガードレールと防音壁の間隙(かんげき)                              岡森利幸   2012/6/15

                                                                  

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2012/4/30 一面・特集

4月29日午前4時40分ごろ群馬・関越道で高速バスが防音壁に衝突した。乗客の7人が死亡、38人が重軽傷を負った。

運転手「疲れて居眠りしていた」

毎日新聞朝刊2012/5/2 社会

関越道バス事故では、壁とガードレールの10センチの隙間(すきま)が被害拡大させた(可能性が大きい)。

98年以降の新整備道では、(隙間をなくす)対策をしている。

その大破したバスの映像を見れば、すさまじい衝突だったことが容易に想像できる。縦に切り立った防音壁に、バスが時速80キロ以上の高速で突っ込み、薄い防音壁の端がバスの前面から当たって、車体のやや左側半分を切り裂くように、バスの後部まで食い込んだ。バスの左側列の乗客席の大半が、乗客もろとも、押しつぶされてしまった。

これほどの大事故のきっかけは、運転手の居眠り運転だったことは、その供述や乗客の証言からはっきりしている。居眠り状態の運転手がハンドル操作を誤ったのだ。この運転手は、運転を開始する前から、休息が十分でなく、寝不足の状態だったという。車を運転するときは、体調を万全にして望まなければならないというのに、運転手としての自覚がかけていたことになる。しかし、運転要員がほかにいなく、体調が悪くてもハンドルを握らなければならなかった運転手の事情も伝えられているから、彼ばかりを責めるわけにはいかない。この運転手は実質的に「日雇い勤務」をしていたわけで、バスの運転手の勤務としては、それは法的に禁止されているのだ。安い「日雇い賃金」でも、彼は働かなければならなかった。そんな条件で、そんな状態の運転手を長距離バスの夜行運転をさせたバス会社側の管理責任が一番問われなければならないだろう。

夜行の高速バスで、北陸・金沢から浦安の東京ディズニーリゾートへのツァーを計画・実施した旅行会社にも、元請としての責任が問われている。それが、料金を切り詰め、ずさんな運行計画でバスを走らせた疑いがあるし、バス会社を選定するのは旅行会社だから、そんなバス会社を使ったことが間違いだったことになる。安いバス会社は、料金が安い分だけ、安全運行の管理が行き届かないことがあるわけだ。

さらに、長距離バスの運行を規制する法律の不備や、その法律の下で指導・監督する行政の責任も問われるのだから、問題が広がっている。こんな大事故がないと、規制の一つ見直そうとしないのが日本の省庁の悪い癖でもある。

 

私が注目したいのは、記事にも指摘されているように、壁とガードレールの間に10センチの隙間があったことだ。この事故は、本来ならばガードレールが有効に働いて、車線からはみ出したバスがその車体を壁と接触させただけの軽微な損害ですんだはずだ。少なくとも死亡事故にはつながらなかっただろう。たまたま、隙間があったものだから、バスの車体が隙間を押し広げ(ガードレールは切れ目のところでは、跳ね返す力が弱いので、たゆむ)、直列した壁と激突したのだ。

その危険性は、東日本高速道路(当時は日本道路公団、現在は政府100%出資の株式会社)は知っていたらしく(国交省からの通知があった)、98年以降の新整備道では対策していた。それ以前の高速道路では、設計段階でそんな危険性も考えられずに、ほとんどのガードレールと防音壁の間には、隙間があったという。しかし、対策の必要性も考えずに、それらを放置していたのだ。彼らは、道路を新設することだけ熱心だったのだ。あるいは、〈たまたま、隙間に衝突する車など、めったにないだろう〉などと高をくくっていたのだろう。確かに、数キロメートルのガードレールに対し、その切れ目が10センチほどだったら、確率的にかなり小さい。ただし、ガードレールに切れ目があると、たわみやすいから、切れ目から数メートルの範囲は危険領域だ。すると、確率は1000分の1だ。仮りに、年に100件のガードレール接触事故があるとすれば、10年に一度、このような大事故が起きてしまうことになる。

この事故で問題が指摘され、東日本高速道路があわてて対策を始めた。分かっていて対策していなかった怠慢ぶりが、露見したわけだ。この大事故の再発防止には、その対策が一番効果的だろう。

 

 

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