デジタル家電価格の急落                              岡森利幸   2013/2/15

                                                               R2-2013/2/20

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2012/11/2 総合面

デジタル家電を主戦場にしてきたパナソニック、シャープ、ソニーの3社が経営不振のトンネルから抜け出せない。デジタル家電部門の不振が日本メーカーの足元を揺らしている。デジタル家電は日本メーカーが世界シェアの上位を独占した花形商品だったが、ここ数年は韓国、中国勢の大量生産による低価格攻勢に、日本メーカーは太刀打ちできなくなっている。

調査会社BNCによると、液晶テレビ、デジカメ、パソコンの12年3月の価格が6カ月後には35〜50%(の価格下落率で)急激に落ち込んだ。

              

2012年3月時点の主要なデジタル家電の価格が、見る見る落ち込み、6カ月後には、テレビで35%、デジカメとパソコンでは、何と、50%下落したという。液晶テレビは、先年にはテレビ放送のデジタル化(2011年7月のアナログ放送終了)による特需があっただけに、昨今、テレビの売れ行きの衰退は目を覆うばかりだ。デジカメやパソコンは、これと言った大きな背景要因もないのに、大きく下落してしまった。

最新の家電が半年で半額になってしまうとは、メーカーとしては悲鳴を上げてしまうところだろう。これだけ急激に落ち込んでしまっては、「やってられない」ほどの深刻な状況だろう。この業界では、デフレもいいところだ。半年で50%ということは単純計算すると、半分の半分だから、年率で75%のデフレということになりそうだ。この率ではそのうち、タダに限りなく近づいてしまうのだ。デジタル家電品がタダ同然で買えるなら、消費者としてはこんなにうれしいことはない。ただし、型が古いのは、我慢しなければならない。

デジタル家電がこんなに安く売られてしまっては、利益が出ないだろう。メーカーの中では、とくにシャープの経営が悪化し、ほとんど自社施設の「身売り」状態になってしまった。その3社だけでなく、大手家電メーカーは軒並み悪い。家電といえば、日本の屋台骨を支えてきた産業の一つだから、日本経済に与える影響が大きい。成長産業と言われてきたのに、あやしくなっている。

液晶テレビ・デジカメ・パソコンは、日本が最も得意としてきた分野の製品だ。製造に高い技術を要し、日進月歩の進化に対応できるメーカーの高い開発力が必要だったはずだが、韓国、中国、台湾など海外メーカーに市場を明け渡しつつある。彼の国に技術力がついてきたのだろう。日本企業自身において開発を自国で行っているにしても、コスト低減のため製造を海外の工場で行なうことが常識化してきている。日本で家電を製造している工場の存在がめずらしいほどだ。製造工場はやがては絶滅危惧種のようになるのかもしれない。国産メーカーの名前がついている製品であっても、よく見ると、製品の裏側に「メイドイン xxx〔他国名〕」と書かれているのだから、失望させられる。もう国産はメーカーの名ばかりで、実質的には東南アジア諸国の製品であるわけだ。

日本の経済成長期に一番、躍進めざましかった家電メーカーが、いまや衰退してきた現状をみると、日本の将来を憂いざるをえない。しかし、単に、デフレだ、円高だ、というのは、的が外れているだろう。日本のデジタル家電が売れない理由を考えたい。

記事の中で指摘されているように、中国・韓国などのメーカーが出している低価格な製品に価格競争で負けてしまうというのも一因だが、日本の市場では日本メーカーのブランド力は健在だから、それだけではない。

消費者としては、半年前に2倍もしていた製品だと思うと、こんなにうれしいことはない。喜んで買いそうだが、半年待てば、半額で買えるとなれば、少しぐらい家電の性能が良くても、急いで今買う必要はぜんぜんないとして、安くなっても買わないのかもしれない。昨今の消費者の多くは、熱に浮かされたような買い方はせず、必要なものを買うのだ。やたらに物を買うと処分にも困ることになる。消費者の多くはそんな家電に購買意欲がわかない、という点も要因の一つだろう。

 

デジタル家電には、モデルチェンジが激しい特徴がある。技術革新によってより高性能・高機能の製品が作れるからでもあり、新モデルが消費者の心を捉えて、たくさん買ってもらえるかもしれないという淡い期待があるからだ。

自動車の世界では、新モデルを発表するサイクルが長くなっているようだが、家電では新モデル・新製品の発売が相変わらずのペースで行なわれている。次々に新しいモデルが出されているので、ついて行くのがたいへんだ。

製品を開発するのは、本来、コストと時間がかかるものだから、短期間に次々に新製品を出していくことに、メーカーの焦りと苦労がしのばれるし、私もかつて同様な開発競争に携わったものとして、開発担当者は常に日程に追われたりして、その苦労は大変なものだろうと同情してしまう。

新モデルを次々に出そうとすると、どうしても質的に粗製乱造になりがちだ。消費者に少しでも魅力的と思われる機能を小出しに付加し、外観をとりつくろうだけの新モデルも見かけられる。中には、名前だけ変えたような、ほとんど意味のないモデルチェンジもあるのだ。

新製品の発売する際、メーカーは標準価格を設定する。(オープン価格として、価格を示さない製品もある) その価格設定が高すぎることが一つの問題点だろう。市場価格とかけ離れた価格で設定しているとしか思えないものがある。中韓等の外国メーカーが参入しているというのに、市場の価格には不釣合いなほど、高く設定している。新製品の発売当初は、ぼったくり的な価格設定をしているのだ。確かに新製品にはメーカーが標榜する技術的な進歩や機能・性能の向上が見られるが、よく見るとほんのわずかな違いだったり、外形が変っていただけだったりする。それにしては新旧の価格差は大きい。

高く設定する理由として上げられるのは、

・安くなった価格を、なんとしても、引き上げるために、中身はほぼ同じで外観だけを変えた新製品を出す。

・メーカーとしては、できるだけ高く売りたい。新発売の当初期間だけでも高くしないと、もうけが出ない。

・新製品を発表すれば、消費者の中には「新しもの好き」がいて、高くても、新しいものにすぐ飛びつくことが期待できる。

・そんな高い新製品それと比べて旧製品(前モデル)の価格は、「お買い得」に見えるから、近々高額な新製品が出るとなれば、前モデルの在庫一掃的な大量販売が見込める。

 

高すぎるから、市場では、結局受け入れられない。新製品として高く売り出しても、半年もすれば、もうその輝きはくすんでしまう。メーカーは、再び高値にもどすためにも、せっせと次の新製品を出さざるをえない。

メーカーは、そんな価格下落は織り込み済みのこととしているのかもしれない。下がることを見越して、新発売の価格を高くしているところがある。価格急落の要因の一つとして、メーカーの自業自得的な、あるいは自作自演的な要素がありそうだ。おそらく、2012年3月には、メーカーが高めに設定した価格の新モデルの発売が多くあったから、それらがみるみる値崩れしたのだろう。それを業界では「経済的なデフレのせいだ」と騒いでいるのだ。

 

 

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