中国一人っ子政策の暗闇                                  岡森利幸   2012/7/6

                                                                  R1-2012/7/8

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2012/4/28 国際

中国山東省の活動家・陳光誠氏が自宅を脱出し、アメリカ大使館に逃げ込んだ。陳氏は地元当局による不妊手術や中絶の強制を告発したことで、服役し、刑期を終えた後も、地方当局によって自宅軟禁にされていた。

The Japan Times 2012/6/28 asia-pacific/world

国際的な抗議の声が上がった強制的中絶での、胎児の中国人父親デン・ジュアン(30歳)は殴打され、強制的に連れ去られ、一方、その妻や家族は住民たちに裏切り者として烙印を押された、と父親の妹デン・ジカイさんは証言した。

母親は死んだ子の写真が、ネット上に配信されたことで、地方政府を震撼させ、三人の職員が停職を余儀なくされた。彼ら三人は、中国の一人っ子政策のルールに違反し、今月初旬、強制的な中絶を行ったためだ。

その家族がジャーナリストに接見したことで、地方政府は明らかに怒り、それ以来、家族に対する仕打ちを組織的に行い始めた。彼らを裏切り者と名指しし、管理下においた、とデン・ジカイさんは話した。

「私たちはすでに、赤子をなくして悲嘆している。どうして裏切り者になるのか?」と彼女は言う。

家族は第二子を持つための40,000元(6,300ドル)の罰金が払えなかったため、デン・ジュアンの妻、フェン・ジアンメイ(23)さんは、妊娠7カ月で中絶を強いられた。

安康市の地方政府は公式には謝罪し、三人の職員を停職にし、調査することを約束した。しかし、当局はその家族をあからさまに取り締まっている、とデン・ジカイさんは証言している。約12人の見張りたちが病院内のフェンの部屋の外でたむろし、家族たちの後をつけ、手洗い所に行くときにも病院を出るときにも追尾している、と彼女は言う。彼女の兄がジャーナリストや弁護士に会うために北京に旅しようとしたが、「100人以上の人や10台以上の車が、兄を押し止め、一人の男が突然兄の腹を蹴り上げた」とも語った。

日曜日には、町民たちが病院の近くで横断幕を掲げた。それは家族を裏切り者と呼び、退去を要求するものだったという。オンライン写真では、一つの横断幕は「裏切り者を叩きのめせ、追放しろ」とあった。

デン・ジカイさんは、彼女の兄が同日に姿を消したと言う。「私たちはすでに困惑している。地方政府は兄を見つけ出したらどうなの?」

陳光誠氏の問題はアメリカと中国の外交問題に発展し、中国は、陳氏がアメリカに留学するという妥協的な条件で、出国を許した。彼は、新聞などのメディアで、黒いサングラスの姿で連日のように紹介されたから、ご存知の方も多いと思う。陳光誠氏は盲目ながら、人権活動家として、中国内の人々の苦境を取材していた。数年前、当局(地方政府)が一人っ子政策を楯にして住民に対して不妊手術や中絶を強制していたことを告発したら、言いがかりのような罪をなすり付けられ、刑務所に入れられてしまった。彼は出所後も、自宅で厳重な監視下に置かれていた。逃げ出すしか、自由はなかったのだ。つまり、その告発に対して、地方政府が怒り狂ったのだ。地方政府トップの役人の逆鱗に触れたかのようだ。

第二の記事に示したように、陜西省でも、地方政府によって無理やり中絶させられた家族が声を上げたら、周囲から迫害の嵐にさらされたという親族の証言がある。すべては地方政府の指示によるものであることは明白だ。

若い夫婦が第二子を妊娠したが、第二子を生むための「罰金」40,000元が払えなかった。三人の役人たちは、見せしめのごとく、その妻を病院に連れて行き、中絶させた。しかし妊娠七カ月の胎児は、ほとんど「人間」の形をしている。胎児を殺された夫婦は、「それは不当だ」とジャーナリストに訴えた。その事実がネット上で明らかにされると、役人に対する非難の声が湧き起り、三人の役人たちを処分するしか収まりがつかなくなって、地方政府は陳謝した。ところが、頭を下げたその顔は牙をむいていたのだ。その家族に対して、地方政府が主導しての(おそらく人々に金を与えて)「数々の嫌がらせ」が始まった。

この記事は、地方政府による強制堕胎を告発して、陳光誠氏のように自宅軟禁された人が、まだ多くいるとうかがわせるものだ。

なぜ地方政府がそんな訴えを圧殺することにやっきとなっているのは、それが大きな人権問題だということを知っているからだろう。一人っ子政策を強引に推し進める地方政府が槍玉(やりだま)に上り、地方政府のトップにいる高級官吏自身が責任を取らなくてはならない事態に発展する可能性があるのだろう。無理やり妊娠七カ月の中絶をしたとなれば、国際的な世論が騒ぎ出すのだろうし、一人っ子政策に不満にもつ中国国内の人々が、その不満を噴出させるかもしれない。

 

おそらく中央政策は、表向きには人口問題には寛容を装いながら、各地方の人口統計をにらみつつ、実効ある一人っ子政策のため、各地方政府の後ろから糸を引いているのだろう。中国では一人っ子政策に関して、1970年代からスローガンとして長年叫びながらも、人権問題にうるさい国際社会に気兼ねして、明文化していなかった。しかし、2002年9月に、『人口および計画育成法』を施行した。やはり国際社会を意識してか、これは一律に一人っ子政策を徹底させるものでなく、それぞれの自治体の事情に柔軟に対応できるように規定し、第二子についても条件次第で可能としている。言い換えれば、地方政府は、その条件を甘くも辛くもできるわけだ。計画的に一人っ子政策を推し進めるのは、地方政府のやり方次第になっている。実効性がないと、地方は中央ににらまれるのだろう。地方行政を任された高級官僚たちは、指導力がないとされて、出世が望めなくなるのかもしれない。

陜西省のように、第二子を生むための「罰金」40,000元(約50万円)を徴収するやり方は、地方政府にとって、それが「いい収入源」になっている可能性もある。罰金を払わないで第二子を生んでは、示しがつかないのだ。

『人口および計画育成法』の建前では、地方政府による強制的な産児制限や権力乱用を禁止しているから、告発されているようなやり方がばれてしまうと、地方政府にとっては、たいへんである。国内でも問題になる。そのため、地方政府がやっていることを告発するようなやからは、地方政府にとって危険人物であり、徹底的な弾圧しなければならないわけだ。お上にたてつくような、ふらちなやからは、力で押さえつけてしまうのが、中国の作法なんだろう。でも、そのやり方が激しいものだから、それがまた大きな人権問題になってしまっている。

 

 

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