着氷した速度計の異常と航空機事故の関係                   岡森利幸   2009/3/13

(「バッファロー空港近くで失速した旅客機」を改題)                    R2-2009/9/15

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2009/2/14 社会

2月12日午後10時20分ごろ米ニューヨーク州バッファロー郊外で、コンチネンタル航空機(カナダ・ボンバルディア社製の双発プロペラ機)が墜落、民家を破壊。搭乗の全員49人と地上にいた1人が死亡。事故当時は雪で、風があった。

米運輸安全委員会は、操縦士が主翼に着氷を確認した点をあげ、事故原因として可能性が高いとの見方を示した。

着氷が原因で墜落とは、興味深いことだ。いまどきの旅客機がそうなるものだろうかと、多少の知識をもつ私としては、その可能性に疑問をもった。

主翼に氷が付くと、その重さのせいだけでなく、機体の浮力が失われ、抵抗力が増すから、確かに飛行が難しくなる。古い時代の飛行機では、事故が起きたこともあったようだ。でも、いまどきの飛行機は、着氷対策としていくつかの装備が施されているはずだ。エンジンの排気ガスを利用するなどして氷を溶かしたり、主翼のエッジ部分にゴムを張り、圧縮空気で膨らませたりして氷を割る手段を備えていた機種もあった。操縦士が着氷に気づいたら(センサーが知らせる)、すぐにそれなりの対応をしたはずだから、それが直接的に事故原因に結びつかないだろう。

午後10時20分というと、真っ暗だ。操縦士の疲労もピークに達していたかもしれないし、雪と風の天候の下では、小型の旅客機にとって、最悪の飛行条件だったかもしれない。次の報道では、自動操縦の問題が指摘されていた。

The Japan Times 2009/2/13 World/Classified

バッファロー近くに墜落した短距離機は、凍てつく天候の中で降下していく前、自動操縦になっていたことが分かった。連邦基準では、凍りつく天候の中では自動操縦にしてはいけないことになっているが、操縦士がそれを無視した可能性がある、と調査員の一人が言った。

墜落する直前に、自動安全装置が自動操縦モードから手動操縦モードに切り替えた。

フライトレコーダーからの情報では、航空機は31度上向きのピッチングとなり、すぐその後に45度下向きになったことが示されている。左へ46度傾き、すぐに右へ105度の急激なローリングも発生した。レーダーは5秒間に海面上550メートルの高度から300メートルに急降下したことが記録されていた。

この機の除氷システムは、離陸後11分後から飛行中ずっと効かされていた。二つのエンジンも墜落時には正常だったという。

この機種は、自動操縦モードでは対応できないような条件では、突然、自動操縦モードを放棄して手動操縦モードに切り替え、操縦士に一任してしまうという。自動操縦モードで事故でも起こしたら、全面的にメーカーのせいになるから、責任を操縦士に被せるために、そんな仕掛けを作ったのだろうか。

航空機の操縦システムが「自動操縦にしてはいけない」条件を検出したならば、モードを切り替える前に、何らかの警告なり、表示をするのが普通ではないか。航空機の操縦システムと操縦士との間で、「意思疎通のようなもの」が悪すぎるのではないか。

私は、自動操縦システムが、航空機の速度が下がったために「職務」を放棄したように思えた。自動操縦モードでは航空機の速度が十分保てず、システムが失速の危険を察知したようだ。主翼の着氷の影響だろうか。速度が十分でないまま、機がバッファロー空港に近づいた時、手動操作をいきなり任された操縦士は、どんな対応をしたのだろうか。フライトレコーダーの記録では、機体に異常が発生したかのような、むちゃくちゃな操作が示されていた。急に手動操縦モードにされて、操縦士は、どうしていいかわからず、とんでもない操作を行なったようだ。

The Japan Times 2009/2/20 World/Classified

ウォール・ストリート・ジャーナルの18日の報道によると、事故調査員たちは、主翼の着氷のせいでなく、操縦ミスが50人死亡の事故を招いたと推定される証拠を見つけた。

旅客機は空港に近づいていた時、安全でない速度まで低下したため、自動失速警報を発した。操縦士は、機首を下げて速度を上げるべきところなのに、航空機の操縦装置を引き戻し(つまり、操縦桿で機首を上げる操作をした)、エンジン出力を上げた。

その操作が機体を失速状態におとし入れ、墜落させたものという。

自動操縦システムから手動操縦モードに切り替わった直後に、自動失速警報が作動したようだ。自動操縦システムは着陸に備え、機の高度を下げ、速度を落としていたはずだが、想定以上に速度が低下していたのだ。その航空機が「安全でない速度まで低下した」のは、やはり主翼に着氷があり、その除氷が不十分だったことが一因かもしれない。

自動失速警報が作動するほど、速度が下がっていたのは、操縦士の思いもよらぬことだったろう。操縦士は、機体を上昇させる操作をした。機首を上げることによって浮力を得ようとしたのだ。操縦士は自動失速警報にあわててしまい、「飛行高度が低下しすぎている」と思い、「高度を上げる方が安全だ」とでも、とっさに考えたのだろう。しかし、低速度の状態で浮力を得ようと機体を上昇させる操作をすれば、抗力(空気抵抗)も増大するから、速度がますます下がってしまう危険がある。エンジンのパワーを上げたとしても、プロペラ機では、すぐには機体の速度を上げることはできない。速度が下がれば、浮力も失われる。機首を上げすぎたことによって、失速の状態になり、制御不能→墜落ということになったわけだ。

飛行速度を上げたいのなら、機首を下に向けるべきだった。しかし、真っ暗な、雪が舞う夜空の中で、街の明かりが眼下にちらほら見え始め、それが徐々に近づき、建物の形がぼんやりと大きく見えてくる状況では、機首を下に向けることは機体を降下させることだから、「本能的にできない」ものなんだろう。自動失速警報の作動がきっかけとなり、操縦士が操縦を誤って失速させたとは、皮肉な結末だ。

操縦士をあわてさせた航空機のシステムにも問題がありそうだ。いまどき、失速して墜落するような旅客機は、技術的に恥ずかしい。操縦士がどんなにでたらめな操作をしたとしても機体を失速させないように、メーカーは機首の上げ角度を制限するなどの仕組みを航空機に作り込むべきだろう。

それにしても、墜落原因の推定が二転三転して報道されたことが興味深い。原因によって責任を取るべき会社(航空機メーカー、航空会社、空港会社、あるいは航空管制機関)が異なり、補償の対応が違ってくるので、特にアメリカでは、事故原因に人びとの関心が集まるようだ。

 

毎日新聞朝刊2009/6/2 社会面

エールフランス航空のブラジル・リオデジャネイロ発パリ行き447便のエアバス330−200型機(乗客216人、乗員12人)が、6月1日行方不明になった。

仏航空当局などによると、動機は、リオを5月31日午後7時過ぎに離陸。その約4時間後、「暴風圏に入った」という機長の連絡と電気系統の異常を示す自動通報があり、その後、消息を絶った。エールフランス航空幹部は同機が落雷にあった可能性を示した。

毎日新聞朝刊2009/6/8 国際

大西洋上でエールフランス機が墜落した事故から1週間。犠牲者と見られる五つの遺体が6日に初めて発見され、関係者は悲しみを新たにしている。事故機は消息を絶つ直前、速度計に異常を示していたことが分かったが、深海に沈んだブラックボックスの回収は困難とみられ、事故原因の解明は難航が予想される。

 仏航空当局などによると、事故機は、遭難直前の5分前に、機体異常を示す24の信号を自動送信していた。解析の結果、信号の一部は三つの計器が異なる飛行速度を示すものだった。事故機はこの信号の送信直後、自動操縦を解除した。

 エアバス社のA330や他の機種に、飛行時の着氷が原因と見られる速度計の異常が発生しており、同社は数年前から航空各社に機器交換を求めたり、操縦士に対応マニュアルを送っていた。同社は6日、A330のほかA340のすべての機器交換を行う方針を示したが、同日付の仏フィガロ紙によると、事故機はこれら機器の改善・交換をしていなかった。

航空当局幹部は、「機の欠陥が事故を招いた可能性について、「機器を交換しなくても危険性はない」と指摘した。だが仏ルモンド紙は、航空当局者の話として「事故機は不適切な速度で暴風圏に入った」と指摘。航空関係者の中には、気が速度計の異常下での手動操縦で適当な速度が保てなかったため、乱高下などの悪天候による機体への衝撃が極端に大きくなり墜落したのでは、との見方が出ている。

「落雷による墜落説」が的外れであったようだが、情報が限られていた段階では、やむをえない。それはともかく、自動操縦の航空機が、なぜ失速の危険が生じる速度にまで落として飛んでいたのか。

その答えとして、速度計の異常がもっとも有力な原因だと私は考える。その速度計は実際の速度より速い数値を自動操縦に示していたことが重要なキーワードだ。つまり、航空機は複数の速度計をもっているのだが、すべての速度計が異常になったわけではなく、主導的な役割をしていた一つの速度計が、じょじょに着氷したことにより実際の速度より速い数値を示し始め、自動操縦がそれに合わせて速度を落としていったのだと考えられる。

一つの速度計が異常な速度を示していることを他の二つの速度計との関係で判定するのは、コンピュータでやっているはずだが、事故機の場合、実際の速度をかなり落としていたから、「異常」と判定するのが遅すぎたと私は推測している。

操縦士は、機械にまかせっきりで、操縦室の中でくつろいでいたのだろう。三つの速度計を見比べたりもしない……。操縦士には速度が遅いことなど体感できないのだ。夜11時ごろの大西洋上では、外は真っ暗だから、操縦室の計器以外は何も見えない。星が見えていたかもしれないが、星は止って見えるから、方角しかわからない。体感できるのは、エンジンの音がいつもより静かということぐらいだろう。

いきなり自動操縦が自分の任務を投げ出すように、解除された。操縦士は、わけがわからず、操縦かんを握らされ、あわてて機体を立て直そうとしたが、逆に不安定にさせてしまった――ことが容易に推測される。「一つの計器」は十分に速い速度を示していたのだから、操縦士も、異常に遅い速度で飛んでいることに気づかなかっただろうし、機体を失速させる危険のある無理な迎角にはさせないはずの安全機構も「一つの計器」の数値を信じて、働かなかったのだろう。暴風圏にあっても、通常はぜんぜん問題ない上昇の操作をしたこと(結果的に、急上昇させたこと)が機体の失速につながったというストーリーが、事故発生のメカニズムとして大きく浮かび上がる。ブラックボックスが発見・回収されたら、それが裏づけられるだろう。

管状の速度計の内側に着氷すると、空気の流路が狭まるから、その速度が増すことは大いに考えられることだ。その対策も技術的には可能だろう。その機器の欠陥がエアバス社では数年前からわかっていて、交換を進めていたというのだが、遅すぎたわけだ。

事故が起きて、あわてて「同社は6日、A330のほかA340のすべての機器交換を行う方針を示した」のだ。〈速度計を三つ備えているから、一つが異常でも、重大事故にはつながらない〉という思い込み(過信)が事故を招いた。

速度計が異常値に示す要因はいくらでもあるから、単に着氷対策するだけではだめだろう。速度計を三つ備えているのなら、一つの速度計がおかしな数値を示していることを常時監視し、他の二つとの差があるならそれを信用しないとする方法やGPSを利用して地表との相対速度を考慮するなどが考えられる。技術的にもう一工夫する必要がある。現行機種に適用するのはメンドーだろうけど……。

 

 

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