米高官が自国の学生たちの前で沖縄県民の悪口           岡森利幸   2011/4/8

                                                                  R1-2011/4/11

以下は、新聞記事の引用・要約。

朝日読売新聞朝刊2011/3/8 社会面

米国務省のケビン・メア日本部長が、沖縄は「ゆすりの名人」、「怠惰でゴーヤーも育てられない」。

昨年12月、米国の大学生相手の会合での発言が沖縄で一斉に抗議の声が上った。

毎日読売新聞夕刊2011/3/8 社会面

米日本部長ケビン・メア発言で、沖縄県議会が抗議、「県民の心を踏みにじり、県民を愚弄し侮辱した発言。断じて許せない」

米国務省の日本部長というと、日本通の高官が選ばれるものだろう。日本と日本人をよく知り得る立場にいたケビン・メア氏の眼に映った沖縄県民は「やっかいな存在」だったようだ。その会合では、沖縄県民を側面から見た一人のアメリカ人の率直な感想が言葉に出たものだろう。

ケビン・メア氏は、12月に沖縄で、その総領事として話をする会合に出席した。聞く側は米国からやってきた14人の大学生たちだったから、それは公的な業務から離れた、小さい会合であって、日本をよく知るための、ケビン・メア氏を実務経験豊富な政府高官と見込んでの勉強会のようなものだったろう。率直な意見を求められて、彼はここだけの話のつもりで、日頃考えていたことを口にしたのだろう。他の人の耳に入ることはないと信じ込みながら……。彼は同国の学生たちに対して気安く本音を語ったのだろうが、それは沖縄県民に対する罵詈雑言になってしまった。彼の言葉を集約すると、以下になる。

Okinawans are “lazy”and “masters of manipulation and extortion of Tokyo.”(沖縄の人々は怠惰であり、日本政府を操ることと脅すことの名人だ)

 

ただし、彼の言葉が罵詈雑言だったかもしれないが、その意味するところには一理あるように私は思う。

彼が怠惰だと言っているのは、農業に関してだ。日本政府が長年、沖縄県民だけでなく、日本中どこでも農業従事者を甘やかしてきたことはよく知られている。彼らが政府からの補助金や助成金なしでは田畑に出て農作業をやろうともしない姿を見てきたから、ケビン・メア氏は「農民は怠惰だ」と結論付けたのだろう。なにしろ、政府が減反政策を推し進めるから、米農家は「コメを作らない」ことの見返りに金がもらえる制度まであって、怠惰を助長させているのだ。さらに各地で耕作放棄された農地が広がっている。ゴーヤーに関して、今年は不作だったから、ケビン・メア氏がいうように、「怠惰でゴーヤーも育てられない」ことが一因という可能性も考えられる。おそらく、農業関係者は不作の原因をすべて天候のせいにしているのだろうけれど、ケビン・メア氏の鋭い目には「怠惰」に映ったのだ。

基地移設問題に対して、沖縄県民が、知事を始めとして、被害者意識に凝り固まり、政府の移設案にことごとく反対し、滑走路の本数や角度にまで口を出し、あれこれ要求している(ゴネている)場面を何度も見てきて、「手なずけやおどしの名人」の印象を深くしたものだろう。普天間基地移設問題は、いまだに決着が付かない。それに付随して、軍用機の騒音被害が裁判に持ち込まれ、その賠償金もだんだん高額なものになっている。広大な米軍基地のために地元の土地を借り上げているが、その地主には手厚い土地使用料が支払われている。そして、基地のある地域には振興策のために政府が特別の支出をしている……。ケビン・メア氏の目には、それらは、沖縄県民が日本政府から金を脅し取っているように見えたのだ。

 

ケビン・メア氏の説が正しいかどうかはさておいて、それがケビン・メア氏の個人的な見解だったとしても、ケビン・メア氏はアメリカ政府高官の肩書きを持つ身分だから、その手厳しい言い方が個人の見解として聞き流されることにはならなかった。ケビン・メア氏が悪口を並べ立てたことは、聞いていた学生たちにしても、心証を悪くしたようだ。彼らは〈メア氏が沖縄県民を差別している〉と断定した。特にアメリカ社会では、差別する者が問答無用で悪者にされる。学生たちの中には、沖縄出身の日系4世アメリカ人も含まれていたというから、その彼が最も憤慨した一人だろう。他国民に対する言葉といえども、悪口がすぎたものだから、学生たちは反発して、その発言を書き留めたメモをインターネットに乗せて、他の人の目にも止まるようにした。その会合で「他言無用だ」とは言われていなかったことを口実にして……。学生たちは不特定多数の人々に告げ口をしたことになる。それが広く世に知られるところとなり、世間が騒ぎ出し、日米の外交問題にまで発展してしまったわけだ。

彼の罵詈雑言を知って、沖縄では「謝罪しろ」の大合唱になってしまったが、高圧的な態度で、怒りをぶつけるのはフェアとは思えないし、ケビン・メア氏が何か誤解しているというのならば、その誤解をとく努力をすればいいのだ。双方で話し合いをすることが最もよい解決方法だったはずだ。沖縄県民は、怒って見せるより、「指摘されたことは違う」ということを実証してみせればいいのだし、「政府に圧力をかけたり、おどしたりしていないこと」や「農作業をちゃんとやっている姿」を実際に見せればいいのだ。反証を示せば、「謝罪しろ」と言われなくても、ケビン・メア氏は心から陳謝するだろう。

ケビン・メア氏自身が謝ったという報道はなかったようだが、アメリカ政府の、彼の上司に当たる高官(カート・キャンベル氏)があわてて日本に謝りに来た。結局、ケビン・メア氏は、責任をとらされた形で、すぐに日本部長の役を下ろされた。

その後、彼は国務省を去った。沖縄県民の「おどしの名人」ぶりに改めて印象を深くしながら……。

 

 

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