朝青龍は大関に降格だ                                     岡森利幸   2010/2/4

                                                                    R1-2010/3/7

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2010/2/2 一面、総合

警視庁麻布書は、朝青龍が初場所中の1月16日未明に飲食店勤務の知人男性(38)を殴り、鼻の骨を折る一カ月の重傷を負わせたとみて傷害容疑で捜査している。当初被害者とされた個人マネジャー(31)や朝青龍の運転手から暴行時の状況や経緯などについて事情を聞いている。

朝青龍の乱暴狼藉ぶりは、相撲道に反することだろうし、社会人として反省してもらわねばなるまい。

深夜、酒場からの帰り、車の後部座席の二人が口論になった。何が気にさわったか、朝青龍が激高し、相手の顔などを数発殴りつけ、鼻骨を骨折させる傷害を負わせた。単に暴力を振るっただけでなく、脅迫じみた暴言を吐いたとされる。運転手に「車を川に向けろ。川で殺す」などと、すごんだという。被害者は顔面から血を流しながら(おそらく涙も)、停車した車から逃げ出し、たまたま近くで交通事故処理をしていた警官たちに助けを求めた。朝青龍はよく現行犯でつかまらなかったものだ。(警官たちは、事故処理の仕事で手が一杯で、自分の担当外の余計な雑務?はできなかったようだ。)

事件の直後、「謝れば許す」という被害者(一説には、金を出せば許す、と言ったとされる)に対して、朝青龍は無視し、わびもしなかった。だから、被害者が骨折の診断書を持って警察に相談したのだ。それでメディアにも知れ渡り、事件が世間に発覚した。

当初、朝青龍は、マネジャーがその相手だとし、内輪のもめごとのように言い張り、ごまかそうとした。すぐばれる嘘をついたことは、姑息で卑怯なやり方だ。事件が知れ渡り、世間が騒ぎ始めてようやく、朝青龍はことの重大さに気づいたらしく、しぶしぶ示談に応じたのだ。事件が世間に広く知られなければ、朝青龍は謝りもせず、治療費を払う気もなかったのだろう。朝青龍としては、殴ったことにそれなりの理由があったのだろうけれど……。

示談が成立した後は、被害者も朝青龍も、そして有力な目撃者であるはずの運転手も、口裏を合わせたように、「事件はなかった」かのように語り始めた。真相を話すと、それぞれ不利になるようだ。朝青龍が廃業でもすれば、運転手やマネジャーは職を失うから、うかつなことは言えない立場にある。彼は、「二人は後部座席で大声で言い合っていたが、モンゴル語も交じっていたので、何と言っていたか分からなかった。運転していたから、後ろは見ていなかった」などと、三猿のごとく、しらばっくれていた。被害者と朝青龍の関係は、よく分からないのだが、朝青龍が廃業しては困る人たちの一人にはちがいない。当事者三人の証言からは、もう真相は得られそうもない。

警察や相撲協会がそんな状況をどう判断するか、注目されるのだが、うやむやにしてしまえば、朝青龍はますますつけあがり、社会をなめてしまうというものだ。これは、警察がどう判断しようが、骨折の診断書がある限り、傷害事件には違いないのだ。

朝青龍がメディア関係者などに時折見せる傲慢さや専横ぶりは、私は気にはなっていたが、これでは社会的に許される範囲を超えている。朝青龍の性格的なものとして、片付けられるものではなくなった。今回の暴力傷害事件は、土俵外の出来事ではあっても、私としては相撲界での「懲罰に値する」と思うのだ。「横綱としての品格」に欠けるとする向きもあるのだから、ここは相撲協会が懲罰として朝青龍を降格させるべきところだろう。本場所の開催中にもかかわらず、東京・西麻布で深夜に酒を飲んで遊んでいたことも、プロ力士としての自覚に欠けることだ。次の日、二日酔いの状態で土俵の上に立ったのだろうか。大関に落として、「一から出直せ」とカツを入れるべきだ。そういえば、あの希代の大力士、雷電為右衛門は大関で終った。

 

毎日新聞朝刊2010/2/5 一面、スポーツ面、社会面

初場所開催中の1月に東京都内で知人男性(38)に泥酔して暴行、鼻の骨を折る1カ月の重傷を負わせたとされる問題の責任を取った。引退会見では珍しく涙も見せた。

(会見で語った朝青龍の一節)「皆さんは品格、品格と言うが、土俵に上がれば鬼になるという気持ちがあったし、精一杯相撲を取らなくてはならないという気持ちもあった。」

廃業または引退という選択肢も考えられていたのだが、それは衝撃的なニュースだった。私にしても大きな驚きだった。

朝青龍の突然の引退は、相撲協会10人の新理事会の意志によるものであって、本人の意志ではなかった。その日の朝にインタビューしたテレビの取材陣に対しても、まだまだ相撲を続ける意志を語っていたという。その日、理事会に呼ばれ、朝青龍は引退を強く示唆されたのだ。記者会見の席で、自分の意志ではない引退の表明をしたのは、朝青龍自身、くやしい思いを抑えながらのことだったと推察される。

そして多くの相撲ファンの意志ではない。今回の事件で何らかの制裁は必要だったと思うが、理事会が引退という重い処罰を科したのは、ファンを無視したやり方だ。ファンから「朝青龍の相撲はもう見たくない、朝青龍を辞めさせろ」と言う声が大きかったわけではなかった。土俵外の不祥事は、当事者での決着状況、あるいは警察を含めた司法の判断をみてからでも、遅くはなかったと思う。これでは、多くのファンをがっかりさせることになる。協会にしても、看板力士の一人を失うことは興行的に損失が大きいはずだ。格闘技のプロの世界に、朝青龍のような悪役は貴重な存在なのだ。

悪役力士を「見せしめのごとく切捨て」てしまうところに、相撲協会の古い閉鎖的な体質がみえる。相撲協会では、弟子に対して「力」による指導しかできないのだ。今回の事件でも、世間から自分たち相撲協会幹部の管理責任を問われるのを恐れたことによる決定だろう。今回も、「親方の弟子の教育が悪い」、「周囲が横綱を甘やかしすぎた」などという相撲協会側への批判が出ていた。その批判の矛先をかわすためのものだろう。体面をつくろい、責任逃れのようなことをやっていたのでは、角界は少しもよくならない。力士本人に責任を取らせるのでなく、責任を取るべき人は他にいるだろう。

 

 

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