AIJが消失させた年金資金                            岡森利幸   2012/3/28

                                                                  R1-2012/3/29

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2012/2/24 一面・社会面

企業年金を中心に約2000億円の資産を運用する投資顧問会社「AIJ投資顧問」が、企業から預けられた(委託された)年金2000億円の大半を消失させていた。

毎日新聞朝刊2012/2/29 総合面

中小同業者が、運用環境の悪化で、高利回りにつられ、集中して資金をAIJに委託していた。

毎日新聞朝刊2012/3/2 一面

AIJが運用実績偽り、成功報酬を受領していた。数百億円を得た疑いがある。

毎日新聞夕刊2012/3/3 一面

AIJに資金運用を委託するよう(企業の年金基金関係者に)勧めていた旧社保庁OBは、AIJからコンサル料として年600万円を受領していた。

毎日新聞朝刊2012/3/19 社会面

AIJ問題、問題発覚前に金融当局へAIJを疑問視する情報提供をしていた複数の金融関係者が、毎日新聞の取材に対し、金融当局の対応の遅さを批判している。不審な4点をなぜ放置していたか。

取引高の多さ

AIJの事業報告書などによると、約2000億円の年金資産を運用する一方、取引高は述べ57兆円。金融関係者の一人は「今日買って今日売る『日計り』を繰り返しても、2000億なら月に市場が開いている20日間で12カ月運用して48兆円(だから、計算に合わないほど頻繁な取引をしていたことになる)」

資産管理会社が身内

管理会社は投資顧問会社から独立していることが前提とされるが、今回のケースでは管理会社の役員をAIJの浅川和彦社長が兼ねていた。この管理会社は英領バージン諸島に設立された「エイム・インベストメント・アドバイザース」。金融関係者は「身内だけで固められたら、いくらでも損失を隠し通せてしまう」と顔をしかめる。

少なすぎる運用報酬

(AIJの報告書によると)運用資産2000億円に対し、運用受託報酬が7900万円(10年)。少ないことに、金融関係者は疑問視する。一般的に14億円にはなるという。

現金保管場所は不明

「証拠金取引」のための現金を保管している金融機関について、金融関係者が質問したところ、AIJは「言えません」と答えたという。この金融関係者は「グループの中で融資しているのか、あるいは資金が横流しされている可能性を考えた」

毎日新聞朝刊2012/3/28 社会面

年金消失問題で強制捜査を受けたAIJ投資顧問会社の浅川和彦社長(59)は27日、衆議院委員会で、運用実績の改ざんを認めつつ「損失を取り戻せると思った」と強気の姿勢を見せた。

「リーマン・ショックではプラスが出ていた」。AIJ社長は強調した。だが、監査法人の監査報告書と、AIJのファンドを受託した香港の投資銀行の出入金記録を基にした監視委の調査では、AIJは金融派生商品の失敗で毎年損失を計上。02年度から9年間で黒字は一度もなく、損失額は計1092億円。関係者は「リーマン・ショックを含んだ時期(08〜09年)ではばくちのような運用に失敗している。(その発言は)ご都合主義の言い逃れ」とみる。また、浅川社長はAIJ側の報酬45億円のうち27億円は関連のアイティーエム証券(ITM)に手数料として支払ったと証言。

顧客に内密にしてきた投資事業組合を利用した払い戻しの仕組みが今後の調査の焦点になっている。浅川社長は二つの投資事業組合を通して新規顧客からの受託資金をそのまま解約顧客の償還金に当てた疑いがある。損失隠蔽のための仕組みだった疑いが強い。この仕組みには解約・転売の窓口としてITMが介在していた。

年金が消えたのは、「投資に失敗した」からと言い訳されている。しかし、AIJの場合、単に「投資に失敗した」のではない実態が浮かび上がっている。

そもそも、AIJ投資顧問会社にとって年金資金の運用に伴う手数料や成功報酬が得られればいいわけで、運用をまかせてもらえるならば、運用に失敗しようが成功しようが、どうでもよいのだ。運用する資金は「他人の金」であり、それが丸ごとなくなっても顧問会社に実損はないわけで、あまりに欠損を出してしまい、顧客がよりつかなくなってしまったときは、会社をたたむ(廃業する)ぐらいでよいのだ。会社をたたむまでに、顧客からいくら手数料が得られるかが勝負だろう。

それはともかく、AIJはまともに投資をしていなかったことが次々と分かってきた。投資による利回りを期待していたのかどうかもも疑わしい。香港の投資銀行には、ほとんど丸投げして金を預け、金融派生商品の売買でマネーゲームをしていた事実もある。金融関係者たちが首をかしげることをしていたのだ。結果として、投資顧問でありながら、投資のプロにふさわしくない多額すぎる損失を出している。02年度から9年間で黒字は一度もなかったいう負けっぷりは、ひどすぎる。元手を失うような失敗を故意に繰り返していたとしか思えないほどだ。しかし、監査や監督官庁の目を逃れ、そんな損失を隠ぺいし続けたのは、巧妙というべきだろう。前掲した記事にあるように、

・AIJ投資顧問会社と管理会社が「同じ穴のムジナ」である

・その管理会社が英領バージン諸島にある

・香港の投資銀行にファンドを託している

・秘匿性の高い投資事業組合(匿名で投資できる)を二つも活用している

など、監督省庁の目の届かないところにわざわざ拠点を置いたり、監査できないような団体・組織を利用しているのだ。逆に、AIJがそんな仕組みにしていることが、〈関係者から見れば、一目で怪しい会社〉ということになる。

その年金資金がどこへ消えたか、主なところを列挙すると――

(1)高額配当として基金側へ

AIJは高額な配当を出しているという評判の会社だった。ろくに運用していないのに、預けた直後から、高額配当をだすのも、典型的な詐欺の手口なのだ。

投資の場合、その投資効果が現れるのは、つまり投資によって事業が軌道に乗り、利潤をうみだすまでには、相当長い年月がかかるものだ。何十億もの大きな投資ほど、その効果が現れるまで長い年月がかかる。それまで投資家は辛抱していなければならないはずだ。すぐに高額な配当が得られるはずがない。たとえば、企業の事業拡大に伴う社債を買ったならば、その償還期限まで社債もっていなければ(途中解約したりしたならば)、まともな利益にはならないし、高配当をうたう海外の国債を買ったとしても、実質的に利益が得られるのは10年後だろう。短期的な金融商品では利益は薄い。短期的に高配当がつくとすれば、それなりにリスクが伴うものだ。

年金資金を預ける側としては、高額配当が得られたことに単純に喜んではいけないし、「評判」どおりの実績にほくそ笑んではいけない。高額配当だけで、「投資がうまく行っているのだな」と思いこんではいけないのだ。債権がディフォルト(債務不履行)になる危険がはらんでいるから、目先の利回りがよいのかもしれないのだ。

好実績をうたい文句にして新たに集めた年金資金を、それまでの年金運用の配当として回していたという典型的な「自転車操業の手法」が、AIJでも行われていたことがわかってきた。

問題の発覚前に解約できた基金は、先見の目があったということだろう。

 

(2)運用益の成功報酬としてAIJへ

運用実績を改ざんして利益があったように見せかけることは、AIJはその利益の何割かは成功報酬として「まとまった金」を得ていたはずだ。高配当を出すほどの運用実績があるとすれば、AIJ側にも成功報酬が得られる契約になっている。運用実績が好調だとすれば、新たに年金基金を勧誘し、受託するためのいい宣伝材料にもなる。AIJにとって運用実績を改ざんするメリットは大きい。つまり、運用結果の数値を操作して運用成功を装うことは、AIJの大きな実利になる。その投資に失敗しようがしまいが、利益があったことにすれば、AIJにはその利益の何割かは「分け前」としてAIJに入るのだ。浅川社長が運用実績の改ざんを認めたことは、不当に成功報酬を得たということであり、横領あるいは詐欺を認めたに等しい。

投資実績では、「02年度から9年間で黒字は一度もなかった」のに、利益があったと言い張ってAIJは成功報酬を毎年のように手に入れていたわけだろう。委員会の質疑で、その報酬は、関連会社のITM(アイティーエム証券)と「山分け」したという意味のことを社長は語っている。ITMは、AIJの「協力会社」と言っていい。両社はグループ会社といっていい間柄で、ぐるになって年金資金を食い物にしていたことになる。さらに、旧・社保庁OBがAIJから報酬的な金をもらって、資金集めに一役買っていたことが明らかになっている。

「ここだけの話ですが、AIJの運用成績の数値はいいですよ。高利回りが期待できます」などと、年金資金を委託したい基金の理事たちにささやく……

 

(3)証券取引手数料としてAIJグループへ

具体的な取引の頻度や回数は明らかになっていないが、取引高・年57兆円というのは、めちゃくちゃな取引だ。国家予算に匹敵する大金を動かしていたわけだ。なぜAIJが計算に合わないほど頻繁に取引をしていたかは、取引手数料稼ぎであることが容易に想像できる。証券市場で証券マンが取引を仲介するわけで、証券や金融派生商品を売ったり買ったりする取引には、かならず手数料がかかる。それらはすべて証券会社の合法的な営業利益になる。その証券会社はITMだから、AIJは「協力会社のITM」に儲けさせていたわけだ。つまり、AIJからITMへ手数料という形で、金を流していたのだ。ほとんど垂れ流し同然で、年金資金という「他人の金」から引き出して、自分たち「グループのもの」にしていたことになる。年金資金の「損」は、AIJグループの「儲け」という構図だ。でたらめな取引をして、「他人の金」に差益が出ようと差損が出ようと、知ったことではなかったのだ。そんな取引で差益が出ようはずがないが、「取引に失敗した」という言い訳にはなる。

 

 

いまどき高配当の金融に金を出すことは、「投機」の部類になることであり、元金がすべてなくなってもいいという覚悟が必要だ。ポケットマネーならともかく、年金資金という老後に支給を約束し、保管しておくべき金を「投機」に使うのは、とんでもないことだ。今回の事件は、年金資金をもっと地道に運用しなければいけないという教訓になるだろう。

高利回りに目がくらみ、そんな泡沫(ほうまつ)会社に年金資金を丸ごと預ける方も、どうかと思う。政府は、公的資金を出して、投資に失敗したという年金基金の損失を補償する方針らしい。(AIJがそこまで計算に入れていたとしたら、立派なものだ。) ただし、それぞれの年金基金には、年5.5%の運用益を出さなければ、金組合員に約束した額を支給できなくなるという重い制約があって、高利回りで運用してくれる投資顧問に走ったことは、やむをえない事情だったとも言える。5.5%の運用を前提として将来の支給額を決めていることが、現実離れしている。「すべての年金基金は5.5%で運用できるだろう」という甘すぎる数値を掲げているのは、相当におかしい。バブル経済のころの数値を引きずっているようだ。今では1%でも怪しいものだ。

年金基金としては、支給額の約束を守ることは、計算上からも困難だろう。今後、運用利回りの数値を是正するとなると、働く世代の負担はますます重くなりそうだし、老後の支給額がますます軽くなる……。

 

 

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