ゆりかもめ脱輪事故の原因考察                                                          岡森利幸   2006.4.25

R3-2006.5.16

2006年4月14日午後5時ごろ、新交通システムの「ゆりかもめ」の一列車が、「船の科学館」駅を出発した直後、6両編成の4両目の車輪の一つが脱落したため、緊急停止した。この車輪は、タイヤを履いているタイプで、一車両に2軸4輪あるうちの一つ、左前輪だった。そのタイヤをハブに固定するための金具――フランジの部分が、車軸のハブに沿って円周状に破断していた。乗客の1人によると、事故の瞬間、車体の下から花火のような大量の火花が出たという。火災にならなくてすんだのは幸いだろう。

その後の調査で、破断面の一部には、さびが付いていたことがわかった。つまり、破断面は、前々に(おそらく数カ月前)発生したひびが徐々に円周状に広がったものと推測できる。長期的な金属疲労で、ひびが入り、破断に到ったものにちがいない。私が新聞に掲載された写真を見たかぎりでは、フランジの厚さは十分に厚そうだから、本来相当な強度をもっているはずだ。しかしながら、その設計技師にとっても、思いがけない脆弱性を示したものだろう。事故車両は90万キロ走っていたが、このフランジの寿命は、100万キロが目安とされていた。緊急調査で、「ゆりかもめ」の他の車両でも、フランジの周縁部に同様な亀裂が、3カ所見つかったという。

実は、この脆弱性は、他の新交通システムの同形式の車両で、わかっていた。その運営会社は、昨年8月、事故車両と同様の車両部品を使用している他車の車両に亀裂が見られたという報告を国土交通省から受けていたという。彼らは事の重大さを認識していなかったようだ。事故が起きてから、点検しても遅い。点検の労を惜しんだ経営者の判断は甘い。100万キロという目安は疑しいと考えるべきだったろう。

私がその写真を見て気になった部分があった。フランジがタイヤのかなり外側の面についているところだ。つまり、タイヤホイールの内側には、ディスクブレーキが組み込まれている関係で、ホイールをハブにボルトで固定するためのフランジが外側になっているのだ。それは、自動車では珍しくない普通の配置だけれど、重量のある車両で長い距離を走行する場合には、金属疲労を招く要因になりそりそうだ。大型トラックでも同様な問題(取り付けのボルトがゆるむ一因か)がありそうだ。

なぜ、このフランジがこんなに弱かったのか、私は憶測してみた。金属疲労が、キーワードだろう。

 

 

図1は、車輪部分の断面を推察して描いた図(イメージ図)を示す。このような構造になっているようだ。

図2は、その半径rのタイヤホイールとフランジに関して、車軸を支えている力を示している。車軸に対して、フランジの上面は主に引っ張る力で、フランジの下面は主に押し上げる力で支えている。便宜上、代表して、タイヤの中心線上のホイール最上部の点をU、最下部の点をBとし、それぞれに引っ張る力と、押し上げる力が働くと仮定する。この場合、引っ張る力と押し上げる力は、半々と推定しよう。つまり、車軸にかかるWの力を2点が半分ずつ受けもつものとする。(注、自転車のホイールの場合、ほとんど引っ張る力だけで車軸を支えている。) 支点からUを通る線分と、車軸中心線との角度をθ(シータ)とする。

図3は、さらに模式的に抽象化し、UとBの位置とそれぞれの力のベクトル方向を示している。Uにおいて上向きに引っ張る力、ベクトルWuの成分は、二つに分解できる。そのうち、中心から外に働くFuは、単に引き伸ばす力であって、フランジにダメージを与えるものではないだろう。問題となるのは、てこの原理でモーメントの力(トルク)が働くところの、支点を中心として半径aで、左回りに加わる力、Ruの大きさである。それぞれは、次の式で表される。

a=r/sinθ

Ru=Wu・cosθ

U点で作用する力のモーメントMuは、

Mu=Ru・a だから、すなわち、

Mu=(Wu・cosθ)・(r/sinθ)=Wu・r・(cosθ/sinθ)=Wu・r/tanθ

B点で作用する力のモーメントMbは、同様に、

Mb=Wb・r/tanθ

となる。

ただし、中心軸を回転して、U点がBの位置になったとき、Rbのベクトルの向きが、Uとは180度異なり、支点を中心として半径aで、右回りに加わることに注意を要す。図3ではRuとRbは別方向のベクトルに見えるが、回転すると、一直線上の相反するベクトルになる。つまり、ホイールが上から下に半回転すると、力のモーメントが逆向きになる。ホイールの回転は、折り曲げの振動のように、フランジに「力のモーメント」を加える。

rは、おそらく20センチぐらいの半径だろう。そして、車体10.5トンで、全6両に230人の乗客が乗っていた(乗務員は乗っていない)というから、平均すると1両あたり2.7トンが加わり、合計13.2トンの総重量を4つの車輪で支えている。車輪当たり3.3トンになる計算だ。Wuは、その半分の力だ。つまり、θ=45度ならば、tanθ=1だから、1.65トンの力(1.65×10³kgf 16170(ニュートン))で20センチほどの長さの「バールのようなもの」で、車輪の回転とともにフランジを内側方向と外側方向に交互にぐりぐりと揺さぶっていたことになる。そのために金属疲労がフランジにたまって、とうとう「()を上げて」しまったものだろう。

当面の対策は、フランジの耐久性を50万キロほどにして、新しいものに交換することだろう。フランジなど、大して高価な部品ではないだろう。根本対策としては、θを90度に近づけるような設計変更を行うべきだろう。90度ならば、モーメントはゼロだ。ただし、それでは、タイヤが外側にはみ出すようなことになるから、ほどほどにすべきなのだろうが、θの角度を少しでも大きくすれば、それなりの改善効果が得られるだろう。

ところで、タイヤ一つパンクしても、「ゆりかもめ」は、全線が止まってしまうのだろうか。

 

参考:以下は、ゆりかもめ事故の関連情報として、毎日新聞2006年4月17日朝刊を引用する。

 

 

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