パソコンが壊れるとき                                   岡森利幸 2013/3/21

R1-2023/3/22

物を捨てられない性分だから、所有するパソコンがいつの間にか5台にも増えて、やっと去年そのうちの二つを処分した。そのきっかけは、誤動作にあり、せっかく入力した文書データを失ってしまったからで、何事もなければ、使い続けたかもしれない。少々奮起しないと、思い切って捨てられないのだ。

「くっそー、手間をかけさせやがって、もう捨ててやる! この裏切り者め」などと、ののしりながら……。ただし、声には出さなかった。

製品はすべて信頼性が大事であり、特にコンピューターは誤動作したりしてはいけないのだ。でも、完璧なものを求めるのは無理というものだろう。「形あるものは必ず壊れる」という格言どおりだ。コンピューターのエンジンともいうべきプロセッサーや大容量の記憶素子などの半導体部分を始めとして、すべての部品は劣化するものであり、高い温度条件で使用すると、その劣化が加速されることがわかっている。なかでも、パソコンのハードディスク(HD)が壊れやすいものの筆頭に上げられる。ただし、部分的な壊れに対してはそれをカバーする技術も進んでいる。

パソコンが誤動作したり、壊れたりすれば、影響が大きいから、それに対する備えは怠りなくすべきだろうし、いつか壊れるだろうと、覚悟しなければならない。多くの人々も、「そろそろ壊れるかもしれないな。新しいものに買い換えた方がいいかもしれない」という不安感から、新しいものを買い求めているのかもしれない。

でも、壊れたからといってパソコンをまるごと交換する必要はない。壊れた部分だけを取り替えて直せば、かなり長持ちすることは確かである。部品の一つ一つは相当に信頼性は高く、耐久性もあるはずだから、壊れるのは、たまたまであることが多い。パソコンの部品点数も集約されているので、めったに壊れないと思う方が正解だろう。部品点数が少なければ、逆に全体の信頼性が上がるのだ。

 

去年(2012年)の暮れ、私の持っている3台のうちの1台が、おかしくなった。OS(オペレーティングシステム、Windows)が立ち上がらなくなった。ハードディスクに入っているOSが読め出せない現象が起きた。重症の部類に入る。何回か、電源を入れなおすと、かろうじてOSが立ち上がった。使える()に必要なデータをメモリーカードに移しておこうと思った。その最中に、ハードディスクが異常な回転音を発し出した。

「キュルキュル、キュル、ス〜ン」

何と、ハードディスクの回転が止まってしまった。もちろん、データを移行する処理も停止したままになった。〈完全にハードディスクが死んだ〉と私は思った。

ハードディスクが壊れたなら、それを交換すればいいのだが、新しいハードディスクが安く手に入ったとしても、その交換作業やOSやその他ソフト類をリカバリーする手間を考えると、あきらめざるをえない。

でも、このパソコンは予備機としての意味を持っていたし、外に持ち出して使う用途があった。そのバッテリーなど付属品がまだ使えるので、それらすべてを捨て去るのは惜しい。その同型の本体(OS入り)を中古で買うことにした。その購入価格が新しいハードディスクを買うよりずっと安いと判断したことにもよる。パソコン本体を一つの部品として考えたわけだが、バッテリーを無駄にしたくないという、けちな根性から、年式の古いパソコンをもう1台買ったことになる。

後日、完全に死んでしまったはずのパソコン本体の電源を、何気なく入れてみたら、なんと、動き始めた。生き返ってしまった。ハードディスク自体をチェックするユーティリティを走らせると、ハードディスクの一部のセクターがやはり読み書き不可になっていた。部分的なセクターが壊れるのはエラーリカバリーとして織り込み済みだから、OSはそこを避けて立ち上がってくれたのだ。

使えるパソコンが1台増えたことは、よしとすべきなのだが、どうやって活用すべきか、悩ましいところだ。

 

パソコンの誤動作について、もう一件、特筆したいのは、増設メモリーだ。メモリー容量に関して言えば、90年代に私が自分用に最初に買ったパソコンのメモリー容量は8MB(メガバイト)だった。それがいまや、昨今発売されているパソコンでは、それが8GB(ギガバイト)のものも珍しくない。つまり、ちょうど1000倍に拡大されている。1000倍という数値は、物理的な尺度として次元が異なるほどの、大きな差異だ。住む世界が違うといっていい。

メモリーを増やせば増やすほど、コンピューターの処理性能は向上するといわれている。発売されている多くの種類パソコンでも増設のためのスロットが用意されているし、買ったあとから、だれでも簡単に増設できるようになっている。基板を斜めに差し込んで押し倒す……。ただし、どれだけ性能を向上させれば〈気がすむのか〉よく分からないところだ。

定説に従って私の古いパソコンでも、機会を見ては、メモリーを増やしてきた。メモリーが安く手に入れば、買わない手はない。(それでも、最近のパソコンと比べると、容量はぜんぜん少ない。) メモリーを増やせば、性能が向上したような気がするから、うれしい。気のせいかもしれないが……。

パソコンが回復不能のような現象が出ると、「こりゃー、たいへんだ」ということになる。私は、顔が青くなるようなそんな現象を数回経験している。そんなとき、まずはハードディスクを疑ったりするのだが、調べてみると、増設メモリーが原因だったことが数回ある。同一のパソコンだけならまだしも、複数のパソコンで経験している。増設メモリーは接触不良を起こしやすいのだ。

増設メモリーは、指の間に挟めるような四角い基板(カード)上にセラミックの半導体チップが複数並んで取り付けられている。その基板がパソコン本体のマザーボードに付いたコネクターで取り付けられる。四角い基板上の一辺にはエッジと呼ばれる金メッキされた歯状の端子が数百並んでいる。それがコネクター側の端子と接触することで電気信号がやり取りされる仕組みになっている。なお、金メッキについては、それらの電子部品が廃棄されたとき、まとめて処理すれば、金を回収できると聞いている。そんな処理施設は、ちょっとした「金鉱山」なのだ。

接触不良が起きないように金を使っているのだが、それでも接触不良は起きる。金メッキされたエッジを指で触ったりしては、絶対にいけないのだ。増設メモリーのエッジは、特に繊細にできており、ちょっとした汚れでも、接触不良を起こす。性質(たち)が悪いことに、取り付けた直後は何ともないのに、温度変化などで環境が変ったりすると、まるで経年劣化したごとく、接触不良の現象が出たりする。

接触不良かどうかは、すぐには断定できない。そのため、試しに増設メモリーカードを抜き差しした。すると、きれいにエラー現象が消えたことが数回あった。いまでは、パソコンがダウンしても、「また、増設メモリーの接触不良だろう」と高をくくれるようになっている。

もはや、極限まで高密度・高精細になった増設メモリーカードを「しろうと」が扱うべきではないのだ。しろうとがメモリーを増設すると、接触不良の危険が高まる。本式には、専用の洗浄剤でエッジ部分の、目に見えない汚れを落としてからでないと、増設メモリーは差し込んではいけないのだ。また、下手に触って、衣服などで発生した静電気をあててしまい、中の回路素子を壊すこともある。増設メモリーの不良は、実行の停止だけでなく、ときには、ソフトやデータの破壊など、パソコンに重大な後遺症を残すことも考えられる。

そんな誤動作を招くぐらいなら、増設メモリーはない方がいい。それによって信頼性が損なわれてしまっては元も子もないというものだろう。少しぐらいの性能向上のために信頼性を落とすことになれば、割に合わない。私は一つのパソコンではせっかく取り付けた増設メモリーを外してしまった。接触不良とは断定できなかったが、増設メモリーが悪さをしていることは明らかだった。もったいないが、やむをえない。

 

 

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