危険な社債を売りつけた証券会社                            岡森利幸   2009/4/21

                                                                    R1-2009/4/22

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2009/4/17 社会

01年9月に経営破たんした大手スーパー「マイカル」の社債を購入し損失を被った主婦ら14人が、証券会社3社に総額約5600万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は、原告全面敗訴の一審判決(昨年1月)を変更し、4人に対する野村証券と三菱UFJ証券の説明義務違反を認め、計約130万円の賠償を命じた。

裁判長は「経営悪化や破綻が具体的に疑われる場合、十分な説明が必要」と指摘した。マイカルが01年1月11日、経営悪化で社長辞任を発表し、同24日、再建断念を公表した経緯を踏まえ、▽同12日、同19日購入の2人に実勢価格を伝えず、それを上回る価格で買わせた▽01年5月購入の2人に再建断念の事実を伝えなかった――点を説明不十分と認定した。00年購入の残る10人については請求を退けた。

原告が5600万円の損失を被ったと主張しているのに、たった130万円しか賠償されないのでは、勝訴だったにしても、原告に厳しい判決だ。証券会社に法的に責任があるのは130万円で、それを差し引いた5470万円は原告たち14人の自己責任の範囲ということになる。

証券会社としては、社債を主婦たちに買ってもらえば、手数料収入が得られる。買ってもらうためには、高利回り(だいたいリスクの高い金融商品ほど高利回り)を強調し、ささやくように「お買い得ですよ」と勧めるのだろう。その社債が将来「紙くず」同然になろうと知ったことではないのだろう。

社債を購入した多くの人が、リスクを過小評価したようだ。というより、証券会社がそのリスクを説明しなかったのだろう。リスクを説明すると、証券会社としては、その商品価値を下げることになるのだから、言いにくいのだろう。

マイカルが01年1月11日、経営悪化で社長辞任を発表しているのに、証券会社は同月12日と19日、顧客にそれぞれ社債を買わせているのは、どういうことだろう。マイカルが経営悪化を公表したのだから、その社債は明らかに危険だ。危険だと分かっているのに、何も知らないような顧客に売りつけるのでは、不親切であり、詐欺的である。その後、価値がどんどん下がったのだから、顧客が怒るのは当然だろう。今回の裁判では、その発表後に購入した顧客(原告)に対してだけ、賠償がやっと認められた。

それ以前であっても、マイカルが業績不振だったことは、証券会社には分かっていたはずだ。証券会社は投資対象の会社の業績や経営状態に敏感でなければならないし、会社の公式発表よりも早く状況を把握していなければならないから、それなりの情報網を持っていて調査していたはずだ。つまり、証券会社は、当時のマイカルの業績不振をよく知っていたはずなのだ。マイカルが経営悪化を公表する数カ月前に購入した顧客に対しても、責任を持つべきだろう。法的に責任は免れるとしても、そんな社債を一般の人に売りさばくのは、モラルに欠ける。

業績不振の会社が社債を発行することは、新たな事業を展開するための資金を必要としていたのではなく、債務処理などの「運転資金」が不足しているからだろう。社債の金利条件をよくして、一時的に資金を集めたとしても、赤字経営が立て直されないのなら、破たんということになる。破たんすれば、その株式や社債は額面割れするだけでなく、債権としての価値もなく、文字通りの「紙切れ」となってしまう。

「紙切れ」になりそうだということは証券会社が一番よく分かっていたことだろう。マイカルの社債を買った人たちは結局、出資しただけ損となった。証券会社が顧客に損させるようなことをすれば、その顧客はもう証券などを買おうとしなくなるのだが……。そんな顧客を失うかどうかのことよりも、証券会社は目先の手数料がほしいために、顧客にろくに説明もせず、業績が悪化している会社の社債を購入することを勧めたのだろう。

 

 

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        罰則や義務による公共奉仕