患者の爪をはがした看護師                                  岡森利幸   2009/8/6

                                                                    R1-2009/8/9

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2008/3/30 社会面

北九州市の病院で07年6月、認知症の入院患者2人のつめをはがしたとして傷害罪に問われた元北九州八幡東病院看護課長、上田里美被告(42)に対し、福岡地裁支部は有罪判決(執行猶予付き)を言い渡した。

日本看護協会は07年10月「看護実践から得たケアで虐待ではない」とする見解を出していた。

看護の専門家が、「看護実践から得たケアで虐待ではない」としているのに、裁判長はそれを無視するかのように有罪判決を出したのは、理解に苦しむ。この件に関しては以前からメディアに取上げられ、状況が詳しく報道され、私が認識している範囲では、〈この虐待は誤解に基づいたもの〉と考えている。

一つのポイントは、患者たちが「虐待された」と思っているかどうかだ。足のつめをはがされたとされる患者たちは、いずれも認知症で、自分で「虐待された」と訴えることも、証言することもできない人たちなのだ。つめがはがされたと感じたとしても、傷害を受けたという被害意識がなかった可能性が大きい。そうなると、被害者不在の裁判をしたことになる。

「患者が虐待された」として騒いだのは、同僚の看護師たちだ。患者たちの足を見て、つめがはがされていることを「虐待」とみなしたのだ。二つ目のポイントとして、患者たちの足のつめを切ることなど、この病院の同僚看護師たちはしたことがなかったことだ。被告によると、患者の伸び放題になったつめが、血行も悪くなって、中には白癬菌が入り、白くぼろぼろの状態だったというのだ。被告の元看護師が親切にも、ぼろぼろになった爪の手入れをしてあげたところ、その後に、同僚が見て「これは大変、患者のつめがはがされた」と病院の責任者に言いつけたわけだろう。ただし、裁判官は〈そんな被告の説明は虚偽だ〉と断じた。裁判官には、言い訳に聞こえるらしい。

被告の看護師は、患者のつめが伸びていることに気づいて、〈つめの手入れを入念にした〉のだろう。白癬菌でぼろぼろのつめなら、取り去るべきだろう。取り去れば、血がにじむことがある。同僚たちには、それが、無理やり生爪がはがされたように見えたのだろう。たまたま、他の病院で患者が虐待されたケースが話題になっていたことも関係して、事件にしてしまった。

事件の動機として、虐待に結びつく要因を特定しにくい。患者がわがままをいって、元看護師がその仕返しをしたというケースも考えにくい。なにしろ、わがままを言えない患者たちなのだ。あるいは、元看護師が日頃のうっぷんを晴らすために爪をはがしたなどとこじつけようとしても、たとえ、生爪をはがしたとしても、何も反応がないような患者相手では面白くなく、うっぷんが晴れるとは思えない。被告に加虐趣味があったと仮定しても、痛くもかゆくも反応を示さない患者たちは趣味の対象にならないだろう。それでも、裁判官は〈楽しみとして切った〉と認定した。(それは想像の範囲を超えない、こじつけ的理由だろう。加虐趣味があるのはどっちだろう?)

やはり「患者の看護の一環として、爪の手入れをしたもの」と理解するのが、一番もっともらしく、自然である。看護師として職務を果たしただけの人を有罪にしてしまうのは、よほどひねくれた検察官が看護の知識もなく起訴した結果だろう。裁判官も、患者の伸び放題の爪を切ったこともないような看護師の証言を信用しているようでは、裁判官が病気になった時、いい看護師にめぐり合うことはないだろう。(科学的根拠はないが……)

被告は控訴するという。今回は変な裁判結果が出て、これからも長い裁判を続けなければならないが、自分の正当性を主張して欲しい。患者の伸び放題のつめを切ったことをナースステーションで引継ぎ事項として話さなかったことが悔やむべきことかもしれない。

 

 

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