イラン大統領選挙の疑惑                                    岡森利幸   2009/8/5

                                                                    R1-2009/9/11

以下は、新聞記事の引用・要約・意訳。

毎日新聞朝刊2009/6/13 国際面

イラン大統領選の投票が12日行われ、事実上の一騎打ちとなった保守強硬派のアフマディネジャド大統領(52)と、改革派のムサビ元首相(67)はそれぞれ一票を投じた。

有権者は18歳以上の男女4620万人。

毎日新聞朝刊2009/6/14 国際面

イラン大統領選で、ムサビ元首相が13日、声明を発表し、「多くの明らかな不正」があったと主張し、敗北は受入れられないと言明した。

内務省に最終開票結果によると、

アフマディネジャド現職大統領 62.6%

ムサビ元首相         33.8%

他2名             2.6%

投票率は前回(62.8%)を大幅に上回る84.7%だった。

毎日新聞朝刊2009/6/16 国際面

バイデン米副大統領「……(投票総数の)7割が都市部だが、そこはアフマディネジャド氏の支持基盤ではない」と語った。

テヘラン東部の開票所責任者は、「投票用紙が足りず、内務省に追加発注したが届かなかった」と不正の可能性を示唆した。……証言によると、投票日(12日)の昼過ぎには投票用紙がほとんど底をつき、夕方には長い列を作った有権者が投票をあきらめたという。

投票開始前には、内務省官僚5人が匿名で「過去の例に即し、幅広い不正を強く懸念する」との告発分を流していた。(内務省内の)秘密会合で大統領の後ろ盾とされる高位聖職者から、コーランの一節を引用し、「イスラムの価値観が危ぶまれる者を排除するためには不正も正当化できる」との解釈が伝えられたという。

改革派弁護士は取材に「ムサビ氏の支持者が多い地域に限り、用紙は不足した」と指摘した。投票用紙が不足したのは主に、アゼリ人(イランの人口の25%、ムサビ氏もアゼリ人)が多くすむイラン北西部や、改革派を支える富裕層の多いテヘラン北部だったという。

弁護士によると、開票は投票所ごとに行われ、内務省の選管本部にメールで数値が報告される。本部での入力作業は第三者によって監視されていない。

毎日新聞朝刊2009/6/17 クローズアップ

大規模デモ、ロイター通信が伝える目撃情報によると、15日のデモではアフマディネジャド大統領を支持する民兵組織バンジがデモ隊に発砲したという。

抗議行動は15日、首都テヘランでイスラム革命(79年)以来最大規模のデモに発展し、死者も出た。抗議のうねりは地方都市にも波及。

イランは、核開発による国際的な孤立や、年率25%のインフレや高失業率が続く厳しい経済状態にある。

改革派の評論家は「(大規模なデモは)体制への長年のうっ積した不満や恨みが爆発した」と解説。

毎日新聞朝刊2009/6/19 国際

イラン大統領選で、開票結果を最終的に承認する機関「護憲評議会」は、18日、落選した3人の候補者が「不正」を理由に異議のあった646件について、審議を開始したと発表した。

評議会の報道官によると、異議の内容は、投票所で▽投票用紙が不足したのに補わなかった▽候補者の代理人が立会いを拒まれた▽特定の候補者への投票が強要された――など。

報道官は、一部の不正の事実を認めながらも、「その数は少なく(大統領再選という)事実を覆すことはだれにもできない」と述べている。

「私の票を返せ」、「私の票はどこへ?」

そんなプラカードを掲げた多くのイラン市民たちが街に繰り出してデモを行った。強権的な大統領の再選という選挙結果に、人々は選挙に「不正」があったとして大規模なデモを起こした。結局は、イラン政府がそれを力で抑え付けた。あるいは政府の息のかかった民兵が武力で鎮圧し、アフマディネジャド氏が大統領に再任された。

ここで一番の問題は、選挙に「不正」があったかどうかだ。私は大規模な、組織的な不正があったとみる。

 

保守強硬派のアフマディネジャド氏と、改革派のムサビ氏の事実上の一騎打ちとなったイラン大統領選挙は、アフマディネジャド現職大統領が、得票約2450万票を獲得して、約1320万票のムサビ元首相に圧勝した。しかし、開票前の情勢では、接戦が予測されていたから、ムサビ氏の支援者にとって、この大差の結果には、納得がいかないものだったろうし、私も疑問に思う。

投票用紙が足らずに、多くの人が未投票だったとされるのに、84.7%という高い投票率は、数千万人規模の国内選挙としては驚異的な数値だろう。前回低調だった投票率が高まることは、選挙前に予想されていたものの、突出し過ぎている。この数値だけでも十分疑わしい。作為的な投票率の高さと考えるべきだろう。

「過去の例に即し、幅広い不正を強く懸念する」という内部告発文からも、こうした選挙不正がイラン政府では伝統的に行われてきたというのだ。

不正の手口として考えられるのは、ムサビ氏の支持者の多い地域の投票用紙の一部をアフマディネジャド氏の支持者の多い地域に回し、アフマディネジャド氏の支持者に複数回投票させたりしたのだろう。投票用紙の全体数は、有権者数に一致する数であっても、内務省が投票用紙の割り振りをアンバランスにしたら、容易に可能だ。投票所でも、あからさまな投票の妨害や重複が、人々の目の前で行われたことがいわれている。

こんなことができるのはイラン政府であり、特に、選挙管理を担当した内務省が組織的に実行したものだろう。だれが指示したかといえば、もちろん、その絶大な権限を持つ、行政のトップに位置する現職大統領だ。

やる気満々の、思い込みの強いアフマディネジャド氏だ。日本の総理大臣になった、ある人と違って、「あなたとは違うんです」などと言って最高ポストを投げ出したりしない。一度権力を握ると、その権力をほしいままにするタイプの政治家だ、と私は思う。選挙不正など、大事の前の小事に過ぎないのだろう。これまで彼は、自分の支援者たち(低所得者たちを含むのだが……)には、バラマキという表現がぴったりのことをやってきたし、自分の正義感(主義、信条)を国民に押し付け、それに反対するものがあれば、徹底的に規制し、強引に取り締まってきた。だから、彼の熱心な支持者もいれば、反発し、不満を持つ「敵対者」も多く作ってきた。国際的に言いたいことは、場違いであっても、言ってきた(特にイスラエル非難。2009年4月、国連の世界人種差別撤廃会議で、強硬に演説した)。これからも、この個性の強すぎる大統領が中東の大国イランをどう引っ張っていくのか、注目したい。

 

 

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