麻生首相が記者に逆質問                                    岡森利幸   2009/8/7

                                                                    R2-2009/10/23

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/10/23 政治面

麻生太郎首相が就任してから24日で1カ月、連夜のように有名ホテルや高級飲食店での会合を続けている。また、会合の相手が首相官邸の発表と違うことも発覚した。

22日昼の首相と記者団とのやり取りで、記者の「言い方」に当り散らした。逆切れ。

記者「夜の会合、連日で、一晩何万円もするような高級店に行っているが、庶民感覚とかけ離れている」

首相「僕はこれまでホテルが一番多いと思いますけれどもね。あなたは今、高級料亭、毎晩みたいな作り替えていますが、それは違うだろうが。引っかかるような言い方はやめろって。もうちょっと事実だけを言え、事実だけ。馬尻(就任後3回行った六本木の飲食店)がいつから高級料亭になった? 言ってみろ。言ってみろ。だからそういう卑屈な言い方はだめ。いかにも作り替えるような話はやめたほうがいい。……」(その後も、逆質問を連発)

毎日新聞朝刊2009/4/25 政治面

自民党の加藤紘一元幹事長は24日、TBSの番組収録で、麻生太郎首相の取材対応について、「ごう慢な態度で大変よくない。すぐ改めるべきだ」と苦言を呈した。

麻生太郎首相が就任して間もない、2008年10月22日、首相は記者団に逆切れした。このやり取りの内容を新聞で読んだとき、私はびっくりしたものだ。記者のインタビューにこれほど敵意をもって対応した首相は、めずらしい。記者の一人に感情をむき出しにして言い返していたのだ。麻生太郎首相は、批判めいた指摘をした記者に、大人気なくも、怒り出したのは、それらの会合に同席した人物と、話し合われた内容に『やましさ』を彼自身感じたことも一因だろう。就任したばかりの首相に高級店で会おうとする人は、まさか手ぶらではあるまい。

この例のほかに、記者が質問すれば、逆に、「あなたはどう思うか?」と言い返し、記者が「知らない」と答えようものなら、「勉強不足だ」として、記者の知識のなさをたしなめるケースもあった。

記者も、つい、ため口(相手と同等の立場でものを言う)になったのだろう。記者団の中には、若い、無遠慮な記者もいることは確かだろう。わかり切ったことを何度も質問してくるし、詰問するような口調で迫ってくる者もいるだろうし、痛いところを突いてくる記者もいるだろうし、言いたくないことをずけずけと聞いてくる記者もいるだろう。知識欲いっぱいの記者たちだ。トーク番組の司会者のように楽しい話題を選んで言葉を引き出すようなタイプではなく、酒を飲みながら政治的取引を語り合う相手でもない。麻生氏にとって、首相になって初めて出くわしたタイプの人間たちかもしれない。記者たちは、与えられた短い時間に質問し、答えを求める。答えが得られなければ、職務が果たせないのだから、真剣勝負を挑んでくるのだ。

首相ともなると、すべての言動が注目される。どこでも見張られている。

・高額所得者が定額給付金を受け取るのは、「さもしい」

・漢字を読み間違える

・マンガばっかり読んでいる

などと記者が書き立てる話題に事欠かなかったから、麻生氏にとってしゃくにさわる記事が紙面を飾った。いずれも批判めいた書き方だ。そんな記者たちに、かんしゃくを起こしたくなるのも無理はないのかもしれない。その後も、上げ足を取るような記事が、いくつか書かれている。

・「犬には好かれる」(2月13日、介助犬が首相官邸を訪れた際に発した『自虐的言辞』)

・都議選・候補者の応援演説で〈必勝を期して〉というべきところ、「惜敗を期して」と間違える

・日本青少年会議所主催の会合で、「高齢者は働くことしか才能がない」

・「金がないなら結婚しない方がいい」と若者らの気持ちを逆なで

 

麻生氏は、ほんとはインタビューされたくないのだが、歴代の首相がやってきた、メディアとの約束事だから、仕方なく受けているといった、いやいやながらの態度を見せている。本質的に、彼は「質問されることがきらいな人」に分類されるのだろう。答えたくない首相に向ってインタビューする側も苦労しているようだ。

麻生氏は、首相になる以前にも失言の類を多く口走った人でもある。そのことでメディアに大きく取り上げられ、辞職を迫られるような経験もしてきた。言葉尻をとらえ、批判してきた張本人が、記者たちなのだ。記者たちに恨みを持っているのだろうか。

記者とは常に上げ足を取る、批判勢力の手先であり、国民をあおって反対キャンペーンを張るような存在として、あるいは、うかつに言えれば、また失言だ・妄言だと騒ぎだすやっかいな存在と見なしているのかもしれない。

それに、記者たちが追求しようとすると、麻生氏が苛立ちをあらわにするのは、やましいことをいくつか胸に秘めていて、後ろめたい気持ちが強いからだ、と私は勘ぐっている。例えば、麻生氏にとって、もっとも触れられたくない過去のことというと、戦時中の「強制連行」がその一つだろう。当時、麻生一族は炭鉱会社(麻生鉱業株式会社)を経営していて、麻生氏が社長を務めたことのある会社(当時の名称で、麻生セメント株式会社)もその後身に当たる。戦時中に朝鮮半島から連れてきた多くの人々のうち、1万余の人々を麻生一族の経営していた福岡県などの炭鉱で強制的に劣悪な労働条件で働かせたとされている。もしも、そんなことを記者が麻生氏に聞き質そうものなら、その記者はもういっさいの公官庁から出入り禁止になったりして……。

 

近ごろ、テレビで放映される首相インタビューの模様を見ると、ごう慢さが和らいだ代わりに、質問の先をはぐらかしたり、取り付く島もないような態度を見せたりしている。質問にまともに答えているとは、ぜんぜん見えないのだ。形だけの返事をするが、自分の考えや意見を決して語ろうとしない。まともに答えないから、聞くほうも毎回同じような質問になるのだろう。

「仮定の話は答えられない」とは、麻生首相が得意とする言葉である。

記者として関心があるのは、今後の政情であり、政治の方向性だろう。未来のこと(明日のことを含む)になると、すべて「仮定」になってしまうから、「答えられないこと」に含まれてしまう。何も答えたくない麻生首相らしいセリフである。

衆議院の解散時期について、「しかるべき時に解散する」が、口癖になっていた。ようやく、8月30日(日)に投票日が決り、もうそのセリフは聴かれなくなったが……。

最近のテレビでインタビューの様子では、ほんの一部の受け答えしか報道されないが、質問に対し、ほとんどまともに答えていない。答えをはぐらかすケースがほとんどだ。記者たちに対して〈意味のある言葉〉を発しなくなった。逆質問の件で、党内からも「傲慢だ」と批判されたから、質問で攻撃する代わり、自分のカラに閉じこもるかのように、記者団の前では自分の口を閉ざす作戦をとっている。今後のことを語ると、批判され、反対され、結局は実現できないだけでなく、最初に言い出したことが取りやめになったりすると、記者に「ぶれた」、「リーダーシップに欠けるからだ」とあげつらわれるから、事が決るまで秘密にしておきたいのだろう。何か言ったら、自分のやろうとしていることが邪魔されるかもしれないから、言わないようにしようと決め込んでいるようだ。手の内をさらしては損だと思っているのだろう。それは政治的なかけひきの世界そのものだ。

党の役員や内閣の人事で「ぶれた」ことで記者に質問されたとき、「最初にそう言いましたか?」などと、とぼけていた。自分の思うようにならないいらだちを通り越して、ムスッとしてふてくされた態度を示しながら……。一つの質問に形式的に答えると、さっさと切り上げ、逃げるように去ってしまう。

麻生首相が記者たちをいくら嫌っても、テレビ放送を通じて国民がそのやり取りを見ており、マイクを通じて声を聞いているのだから、まともに答えないのは、ずいぶんマイナスである。国民的政治家には程遠い人だ。記者たちは自分の声を伝えてくれる拡声器の役を果たしてくれているのだから、拒絶するのでなく、うまく利用すればいいのだが……。

自分の考えを明かそうとしない首相に対して、国民としては不信の念を抱く。記者たちの前でこれほど無愛想で、本音を語らない人を首相にしている政党が与党であれば、政権交代が起こっても不思議ではない。

 

 

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