臓器移植と虐待の関係                                    岡森利幸   2009/8/7

                                                                    R1-2010/7/8

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/5/26 くらしナビ面

臓器移植法改正で討論。計4案が出そろう。

B案の石井氏は、被虐待児からの臓器摘出の防止対策や脳死判定基準の検証などの基盤を整え、段階的に法整備すべきだとした。

毎日新聞朝刊2008/5/29 クローズアップ

小児移植に慎重論。脳死判定の困難さと虐待児の紛れ込む恐れがある。

虐待した親が臓器提供に同意する恐れも指摘されている。

毎日新聞朝刊2009/6/19 一面、総合、社説、社会

臓器移植法改正案、衆院でA案可決。15歳未満も臓器提供可能。

日本移植学会副理事長・高原史郎氏「まずは一歩を踏み出せた。しかし今も日本で、臓器移植で助かる人が1日に20人も亡くなる現実があり……」

臓器移植法改正案(A案)の要旨の一部

――政府は死亡した被虐待児童から臓器が提供されることのないよう……虐待が行われた有無を確認し……必要な措置を講じるものとすること。

今回の臓器移植法改正で、そのメディアの論評の中にも、法案文面の中にも盛り込まれた一文が、虐待児からの臓器移植をどうするかということだ。いずれも、それを禁止することにこだわっている。

そうすることが当然というばかりで、その理由がいまひとつ明確でないのだ。しかし、基本的に、わざわざ虐待児を区分して臓器提供者から外す必要はないだろう、と私は思う。

臓器提供者から外す理由として考えられるのは、

@臓器を移植してしまうと、虐待の痕跡が失われ、刑事事件として立証することが困難になる。ひいては虐待が助長されうる

A虐待の場合、司法解剖を必要し、移植のための手術などしていられない

 

ということだろう。司法解剖の方が優先され、臓器移植が犯罪捜査の邪魔になってはならないのだろう。つまり、臓器移植の重要性など、犯罪捜査の前には低いとみられているわけだ。今回の改定前の現行法では、臓器提供者の15歳以上という年齢制限があったのは、子どもの体の場合、その状態からでは虐待かどうかの判別が難しく、見逃される恐れがあるからというのもその理由の一つだった。でも、体はまだ生々しいわけだから、専門医が虐待かどうかを判別することができなくてはおかしい。

虐待した親が臓器提供に同意する恐れがあるというが、臓器提供に同意する方が、世の中のためになり、むしろ歓迎すべきことだろう。もちろん、それで罪が減じられるわけではない。

ともかく、それら(臓器移植と虐待判別)を両立させれば問題ないわけで、わざわざ法律で「被虐待児童から臓器が提供されること」を禁じては、それが解決されない。今回の臓器移植法改正は、提供者が絶対的に不足している現状を何とかしようとするもので、提供者の条件を変に制限するのは、不十分な改定になっている。

司法解剖を必要とするのは、虐待だけではないだろう、事故や犯罪に巻き込まれた場合にも必要だろう。臓器移植の対象になりうるケースでは、病気を除き、ほとんどすべてのケースで司法解剖が必要かもしれない。

虐待を含む犯罪が疑われるケースでは、司法医が立会い、移植手術と同時に剖検すればいいことだろう。当然、損傷した臓器は移植の対象にならないから、司法医が担当する。それがすめば、「遺体」は証拠として残す必要もなく、火葬されることになる。

若い臓器ならば、火葬される前に、移植をできるだけ可能にしたいのだ。それとも、〈虐待児には「怨念」が残っているから、移植には向かないのだ〉というような理由があるのだろうか。

 

その後、改正臓器移植法は今年(2010年)の7月17日に全面施行されることになったが、〈虐待児からの臓器は提供させない〉という対応に関して、「虐待防止体制が整備できない」という医療機関が40.4%あったという毎日新聞の調査結果が示されている(2010年7月1日付)。虐待児の臓器提供の問題があいかわらず尾を引いている。医療機関が虐待を見抜けぬまま、臓器提供されてしまうケースが心配されているのだ。

虐待児からの臓器移植は社会的正義に反するという理由として、虐待した親が臓器を提供することで、虐待の罪滅ぼしになり、結局、虐待を肯定させてしまうことになるという見解を聴く機会に、最近神奈川県の某大学で私は恵まれた。確かに、それは許せないことだ。

でも、「臓器提供が虐待の罪滅ぼしになる」という考えに対して、私は疑問をもつ。虐待した親の多くは、「しまった、やりすぎた!」と思っているはずだから、世間(特に警察)にばれないように、脳死判定も臓器提供も拒否し、さっさと火葬にしたがるのだ。虐待した親がその児の臓器をすすんで提供しようとするとは、とても思えない。虐待した児の霊(あるいは、呪い)がその臓器に宿っているかもしれないと考えたら、ぞっとするのだ。

そんな社会的正義・倫理うんぬんというより、「虐待された児の臓器など、痛々しくて使えない」という関係者の心情が禁止する本音なんだろう。そんな心情をむげに無視もできないが……。

 

 

一覧表に戻る  次の項目へいく

        患者の爪をはがした看護師