リスクのつけを回す金融商品                                  岡森利幸   2008/10/27

                                                                    R1-2008/11/14

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2008/10/24 総合面

米連邦準備制度理事会(FRB)の前議長グリーンスパン氏は、金融機関への規制・監督について「過ちを犯した」と述べて、自らの在任期間中(18年余の長き)の政策運営について誤りがあったことを初めて認めた。

また、デリバティブ(金融派生商品)の一種「クレジット・ディフォルト・スワップ」(CDS)の取引を規制しなかったことについても、「一部、間違いがあった」と認めた。CDSは企業向け融資や証券化商品が焦げ付いた際に損失を肩代わりする商品。今年6月末時点の取引残高が世界で54兆6000億ドル(約5300兆円)に上がっている。

昨今の世界的な金融危機を招いた張本人としてグリーンスパン氏の名が挙がっている。FRB議長の影響力は絶大なものだったらしい。名声の高かった氏だったけれど、この間違いは、評価をかなり落とすものだろう。世界の金融は、1人の人間の「間違いだった」ではすまされない状況に陥っている。もちろん、グリーンスパン氏個人の資質の問題ではない。各国の(特にアメリカの)金融政策関係者の間違いでもあり、金融業の専門家や経営者の見通しの悪さによるものだろう。だれも、この事態を予測できなかったようだ。

それにしても、CDSの取引残高が54兆6000億ドルというのは、べらぼうに大きい数値だ。目を疑うほどの天文学的数値だ。いったい、そのうちのいくら、焦げ付くのだろうか。空恐ろしい数値なのだ。

CDSは企業の倒産や貸し倒れの際に資金を回収するための保険のようなもの、と私は理解している。少々危ない企業への融資や証券化商品にもCDSを付けて(買って)おけば、元手(資金)をCDSの方から回収できるから、安心である。もう貸し倒れになるリスクを考えずに、資金がほしいという借り手がいれば、ジャブジャブと、いくらでも金を貸し出せるようになるのだ。金融の世界では、ハイリスク・ハイリターンが原則であるが、CDSを使えば、ローリスク・ハイリターンのおいしい取引が期待できることになる。運転資金に困っているような不採算企業や、未知数のテナントを当てにしての(取らぬ狸の皮算用的)ビル建設や、本来経済的に家を持つ身分でない人たち(サブプライム、信用度の低い人たち向け)へも、審査を形だけにして(書類を整えるだけで)、高金利でどんどん貸せるのだ。高金利だから、貸し出せば貸し出すほど、楽々と利益が上がるわけだ。一方、借りた側は、高額な金を安易に借りられたのはいいが、そのうち高金利のハードルを容易に跳び越せない現実に直面する。一つ二つは跳び越したとしても、ローンは何年も続く……。

CDSを扱っている証券会社などの金融機関は、CDSの取引が増えているときは、その売り上げで見かけ上の利益を伸ばせるが、貸し倒れがあれば、その分を補填(ほてん)しなければならない。貸し付けてから数年後、債務者が返済に困る時期がやって来て、それが想定以上に増えてくると、金融機関は損失を計上し始めた。損失に耐えかねて、倒産するところも出てくる。それは当然の成り行きだろう。ただし、サブプライム・ローンなどが焦げ付いたとしても、ローンを扱った金融会社では、CDSで穴埋めできるから、実質的な損失は少ない。損失のしわ寄せは、すべて、CDSを売り出した証券会社や、CDSを商品として買った機関投資家や個人の出資者に来るのだ。

融資に伴うリスクを忘れさせてくれる「麻薬」のようなものが、CDSなのだろう。金融機関が融資の際にCDSを多用したことが一番の元凶だ、と私は見る。さらに、多くの不動産投資を証券化したことも、リスクを分散させ、不特定多数から資金を集めやすくするのに一役かったことは確かだ。結局、世界的な金余りを背景に、高利子指向の(ただし、日本の預金者には超低金利)金融機関や一般投資家たちは、リスクを先送りするように編み出された複数の「小ざかしい仕組み」に乗っかって、サブプライム・ローンのような、でたらめな融資(普通の金利でも返済が困難な人たちに高利子で長期の住宅ローンを貸し付けた)を加速・過熱させたのだ。

先送りされたリスクのつけは、最終的には公的資金に回される。主要国の政府が「金融安定化」などと称して、当てが外れて大損した金融機関の救済のために、税金でその穴埋めをすることになりそうだ。

 

 

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