講演会で禁煙のブラックジョーク                             岡森利幸   2009/3/27

                                                                    R1-2009/3/30

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2009/3/12 社会面

川崎市立井田病院の男性医師(55)が、7日に富山市で開かれた講演会の質疑応答で、神奈川県が制定を目指す公共的施設での受動喫煙防止条例案(*1)について問われた際、「禁煙が進むと医療費がかさむことは明らか。どんどんすって早く死んでもらった方がいい」と回答した。

講演会は、富山県医師会主催で、参加は関係者約30人。その医師は医療と介護をテーマに講演した。

禁煙推進団体は「人の命と健康を守る医師の発言とは思えない暴論」と抗議した。「タバコ問題情報センター」は10日、医師らに発言の真意などについての公開質問状を提出した。

毎日新聞朝刊2009/3/13 神奈川面

松沢成文知事は12日の定例会見で「医師としての倫理観があるのか。大変なモラルハザード」と厳しく批判した。

講演者の男性医師が一通りの講演を終え、会場の聴講者からの、講演した内容から外れる質問に対して回答した話の中で、口走った一言に「カチン」ときた人びとがいて、それをメディアが記事にしたことで、それを伝え聞いた人まで巻き込んで、神奈川県を中心として非難の嵐がわき起こった。

でもそれは、本来は笑い飛ばせばいいことで、その発言をジョークとして受け取るべきだろう。大体、講演会では、講師が一人で長時間話すので、聴衆は居眠りしたりするものだ。少しは笑いを取らないと、まじめな話ばかりでは会場が盛り上がらないのだ。ただし、今回の会場には、まじめに話を聴きに来た人が多かったようだ。

「医療費がかさんでいること」(特に高齢者の医療費)が大きな社会問題になっていることと、「タバコの害で死ぬ人が多い」ことをかけて、口に出たものであろう。つまり、タバコの害で早く死ぬ人は医療費の削減に貢献していると言ったのだ。生命倫理などという、お堅い常識論を飛び越えた、シニカルなジョークになっている。さらに簡潔にいうと、「タバコを吸うと、早く死ぬ」という意味だ。その医師は、講演した内容とは異なる質問をされて、ひねった回答をしてみたくなったのかもしれない。

タバコをやめられない人にとっては、「健康に悪いよ」などといくども言われるより、こうした一言のジョークが効果的であり、止めるきっかけとなりうるものだ。

このくらいのブラックジョークを公の場で(メディアを通すなどして)文句を言うのは、「ジョークを理解しない人、ユーモアのない人」の部類に入るだろう。おそらく、そのとき医師は笑い顔で答えたと思う。その笑顔は「ここだけのジョークですよ」ということを意味していたはずだ。真に受けてはいけないのだ。数日も後になって、わざわざ真意を確かめるべく公開質問状を出すまでもないのだ。ただし、まじめな人たちには、「笑顔で答えた」ことも、「不真面目だ」と思えたのだろう。あまりまじめでは、頭が固くなってしまうのでは……。(頭が固いから「カチン」ときた?)

自分のことを棚に上げれば、その場にいなかった人が講演者の言葉を批判したりコメントしたりするのは「場違い」だろうし、誤解につながりやすい。多くの講演会は、「撮影禁止」や「録音禁止」にしているところが多い。講演会で聞いた話は、その場限りにするのが原則だろう。正しく真意が伝わらないこともあるのだし、講演者が変なことを口走ったとしても、聞き捨てることが求められていたのではないか。

私は、この医師の講演会が再びあるなら、聴きに行きたい。

 

*1. 正式名「公共的施設受動喫煙防止条例」……松沢知事が推し進めた条例で、県議会から全面的な禁煙・分煙の規制は厳しすぎるという反発を招き、紛糾したが、規制する施設を縮小することや罰則適用を3年以上延期することを盛り込んで、全国で始めて324日に可決した。

 

 

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