残業時間を偽装した契約店長                                    岡森利幸   2008/7/24

                                                                    

以下は、新聞記事の引用・要約・翻訳。

毎日新聞朝刊2008/7/18社会面

春日部労基署は、外食大手「すかいらーく」の有期契約店長、前沢隆之さん(当時32歳)が脳出血で死亡したのは長時間労働が原因の過労死と認定した。非正規社員の過労死認定について厚生労働省は「聞いたことがない」としている。

同社では、04年8月にも正社員の現役店長が過労死している。

前沢さんは91年にアルバイトで「すかいらーく」に入り、06年3月から1年契約の店長になった。昨年10月、仕事中に腹痛で倒れ、入院中に脳出血で死亡した。タイムレコーダーなどの記録では、月40時間程度の残業だったが、家族の認識では毎日午前0時を回る帰宅だったことから、(家族が)労災申請した。春日部労基署は、前沢さんは月100時間以上、平均80時間の過労死ラインを超える残業が確認されたという。

The Japan Times 2008/7/19 National

会社の出勤簿では、彼の月残業時間は40時間ほどだったが、彼が死ぬ前の3カ月は、彼は午前7時から午前2時まで働いていたという。

この人は、表向きには一般の労働者の平均的な労働時間を守って働いていた。しかし、実態は、早朝から深夜まで働いていたわけだから、すさまじい働き方をしていたことになる。本人が残業時間を偽ったとしても、そこまで働かせた会社側の責任が問われる。

入院中に脳出血で死亡したことは、入院した時点で、体中の血管がぼろぼろになっていたようだ。32歳の若い彼が、体がぼろぼろになるまで働きづめに働いていたのは、会社がそれを容認していたというより、会社がそれを仕向けたからだろう。これでは強制労働と同じだろう。

店長という責任ある地位にいるのなら、本来は店長席にどっかと座り、部下の店員たちに指示するだけで、部下に実作業をすべて任せればいいことである。しかし、実際は、店長自らが店内を駈けずり回って働いていた姿が浮かび上がる。店内だけでなく、対外交渉的なことで店の外にも出ていたかもしれない。この店長は、いわゆる偽装店長(名ばかり店長)の典型だろう。

彼は店長なのに正規社員でなかった。一年ごとに契約を更改する契約社員だった。店の業績が落ちれば、減給されるどころか、すぐに契約が打ち切られる立場にあった。チェーン店の統廃合があれば、真っ先に首を切られる運命にあった。彼が職を失えば、またアルバイトから始めなければならなかったろう。店の売り上げを伸ばす(数値で示す)ことが、彼に課せられた使命なのだ。彼には、いやが応にも、店の売り上げを伸ばすという重いプレッシャーがかかっていたのだ。契約店長の場合、具体的には示されていないが、正規社員よりも、給料がずっと安かったようだ。しかし、不安定な立場の彼は、仕事を投げ出すわけにはいかなかった。

「いやなら、いつでもやめてもいいんだよ、代わりはいくらでもいるんだから……」という音なき声が、彼の耳には聞こえていたのだろう。

会社にしても、アルバイトから上がってきた勤勉な彼を、正社員にしようとしなかったのも、そんなプレッシャーをかけるための方策だったに違いない。そうすれば、よく働いてくれるからだ。

会社は、表向きには法を遵守しなければならないから、店長・店員たちには「残業時間は40時間以内にしてくれよ」と言っていたに違いない。「残業時間は40時間以内にしてくれよ」の意味は、「40時間以上働くな」という意味ではない。「勤休簿に40時間以上の数値を記入するな」という意味にほかならない。サービス残業をするかしないかは、店長の裁量の範囲内ということなのだろう。しかし、実際は、40時間働くだけではこなせないような仕事の量を彼に与えていたのだ。忙しい時期に一時的にではなく、年中……。会社が店長の彼を補佐するような部下をつけなければ、彼が働くしかない。あるいはそんな部下を持てば、人件費がかさむから、店の利益が減ってしまい、結局は彼の評価が下がることになるのだろう。会社は、一人できりもりして働くしかないように彼を追い詰めていたのだ。サービス残業が常態化しているのに、会社や上司は見て見ぬふりをしていたのだ。契約店長の一人や二人が体を壊しても、通常、労災にも適用されない(会社側の負担が少ない)のだから……。

 

 

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