アホかメールを送りつけた記者                             岡森利幸   2008/7/24

                                                                    R1-2008/8/1

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/7/6社会面

戦時下の性暴力に関する番組が事前説明と異なる内容に改変されたとして、取材を受けた市民団体がNHKに損害賠償を求めた訴訟で、市民団体側の敗訴確定後、日本経済新聞、編集局の記者が「取材先の『期待』に報道が従うわけないだろ」「あほか」と記したメールを団体に送っていたことが分かった。日経は団体に謝罪するとともに記者を処分した。

メールが届いたのは「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」(バウネットジャパン)。最高裁判決で敗訴した翌日の6月13日、日経のドメイン名で、「なんであなたがたの偏向したイデオロギーを公共の電波が垂れ流さなきゃいけないんだよ。あほか」などと書かれたメールが送られてきた。

口汚い一部の関西芸人のノリで、他人(団体)をアホ呼ばわりしたのが、大新聞の記者だったのだから、あきれてしまう。「おまえ、アホか」という言い方は、よほど気心の知れた仲間内の会話の中でしか使えないものだ。そんな人の会話を傍で聞いているだけでも、むかつく表現の一つだ。言葉の暴力だろう。「おまえ、アホ(バカ)か」という言うやつには、ろくなやつがいないことを断言しよう。(最初私は、この文の題名を『アホかメールを送りつけたアホな記者』としたのだが、あることに気づいて訂正した。

匿名で罵詈雑言を吐きたいのなら、そのつばが自分にはね返ってこないように、自分であることが絶対ばれない方法で送信すべきだろう。(メールシステムは発信情報などが記録に残されるから、そんな方法は、あるわけない。) このケースでも、日経新聞の記者であることがすぐにばれてしまい、処分内容は公表されなかったが、おそらく、彼は上司からきつく「つっこみ」を入れられたに違いない。

この記者がアホかとののしったように、確かに、この団体が裁判に訴えた主張は、勝ち目のないものだったろう。勝ち目のない裁判を起こした理由が何であるのか、ジャーナリストならば、掘り下げて考えるべきものだろう。この記者は、ろくに調査も取材もせずに、自分の心の中で、自分には理解できない他人の行動に対して大きな疑問を抱えながら、個人的な感想(主観)そのままに、「アホかメール」を送りつけたのだ。アホかメールの記者は、ののしった言動を反省するよりも、ジャーナリストとして、他人の不可解な行動に関して「調査し、謎や疑問を解き明かすこと」を怠ったことを反省してもらいたい。それを怠るならば、ジャーナリストとして失格だろう。

 

日本には、戦争を賛美し、政府や軍部のやったことをすべて正当化し、謝罪する気もないような軍国主義的・国粋的な人もいれば、その横暴な国家権力によって弱い立場の人々が奴隷のように「奉仕」させられ、辱めを受け、戦いに巻き込まれて家財や親族を失い、どん底に突き落とされたことに、いまだに恨んでいる人や憂慮している人もいるのだ。「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」は後者の団体の一つなのだろう。それを「アホか」とののしる方が、偏向そのものだろう。

NHKの予算を審議するのは国会である。つまり、国がNHK予算の決定権を持つことは、国会議員たち、中でも与党の議員が「NHKのスポンサー」(もちろん、本来のスポンサーは国民だ)として幅を利かすことになる。NHKはその意向に従わざるを得ない立場にある。意向に反する番組をあえて作ると、予算や人事にけちを付けられる恐れがあるのだ。つまり、国会議員が番組作りに関して感想を述べたりすることは、圧力を加えるという意識はなくても、口を挟む以上の影響力を及ぼすことを意味する。

太平洋戦争の「戦争責任」や「従軍慰安婦」を扱ったシリーズ番組が制作され、放送が始まったが、シリーズの途中、NHK幹部が一部の有力国会議員との会合の直後、放送予定の内容が、NKH上層部から強い指示によって、「責任の所在をあいまいにした、政府にとって無難な内容」に変えさせられた経緯があった。番組作りに政治的圧力がかかったとされるゆえんだ。

団体が裁判に訴え、最高裁判決まで主張したのは、本来放送されるはずの、「戦争の一面を描き出した内容」(それが真相かもしれない)が変えさせられたことにあるのだ。この映像(最初に制作された内容)で「多くの人に戦争の一面を見てもらいたい、語りかけたい」という強い思いが、彼ら・彼女らの中にあったからだ。それが、取材されたことをそのまま放送してほしかった、という切実な要求につながる。単に、放送されなかった不満をぶつけたわけではないのだ。アホかメールを送りつけたのは、その経緯を知ってのことだろうか。

 

 

一覧表に戻る  次の項目へいく

        フェリー海難ふたたび