ベトナム人労働者用の高価な寮                             岡森利幸   2008/10/2

                                                                    R1-2008/10/4

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/9/27 社会面

愛知県稲沢市の自動車部品製造会社「ツカモト」で働いていたベトナム人実習生の男性(23)が、築34年の会社寮の2Kの部屋に3〜4人で住み、1人当たり月4万2652円と不当に高額な家賃を給与から控除されていたとして、会社などを相手取り、約255万円の損害賠償を名古屋地裁に起こした。

男性は同社が見かけ上は最低賃金を払いながら、高額な家賃控除により実質的に最低賃金以下での労働を強いたと主張している。

男性は、05年9月に来日。実習生となった2年目以降、社宅費用月4万2652円画給与から控除された。日本人労働者の家賃は月1万7000円で、実習生らは多いときで1部屋につき日本人の10倍を払っていた。

日本人労働者の10倍の家賃を払っていたとは、さぞや、彼らは、高級な家具類などが備え付けらえた、広々とした、見晴らしもよい、清潔な一等室に住んでいたのだろう。

皮肉はともかく、彼の主張はもっともなことだ。たこ部屋のような旧式共同部屋に3〜4人も押し込まれ、4万円以上の家賃を取られていたのだから、怒るのは当然だ。最低賃金ぎりぎりで働いている労働者にとって「月4万円の天引き」は、大きな負担だろう。とっくに減価償却済みのはずの築34年のおんぼろ寮に住まわせて寮費を取ることが、おかしい。そもそも、外国からわざわざ来ている実習生には寮費を無料にしてもいいだろう。電気・ガス・水道などの使用料は実費でいいが……。

企業にとっては、外国人労働者は安い労働力と位置づけされている。外国人労働者を雇う企業は、巧妙に彼らに支払う実質的な賃金をできるだけ下げている。外国人労働者を安く使えないのなら、彼らを雇う意味がないのだ。企業は、その安い労働力の外国人労働者を紹介してもらうために、外国人研修・実習制度の下で、厚生労働省辺りから天下りした理事たちが運営する「中間搾取団体」にかなりの協力金を出しているのだから、労働者たちへの賃金の支払いを抑えなければ、元が取れないという事情もある。

企業としては、表向きは、彼らを差別しているわけではない。定められた最低賃金を守っているし、「ベトナム人の場合」あるいは「外国人労働者の場合」と条件をつけるように書かれた労働協定や会社規則は一切ないに違いない。でも、正社員と実習生との区分は厳然としてあるのだろう。会社の寮費に関しても、正社員と非正規社員では明確に分けているのだ。

そんな格差に文句を言う者に対して、会社の担当者は、「会社の寮を利用したくなければ、民間のアパートに移ればいい」と突っぱねてきたのだろう。日本の民間のアパート経営者が外国人(特にアジア系の外国人)にはおいそれとは貸してくれない事情を知っているから、足元を見て、言っているのだ。

裁判で、会社側は、「会社組織の中の一員として確立している正社員には、会社の寮を安く利用できるようにし、社員でもない部外者には、高くして当然だ」という理屈を主張するのだろう。「会社との絆が強い正社員は、いわば社員特典で、寮に入ることができ、特別な割引があるが、一時的にいるだけの実習生のような部外者には、それがない。そのため正社員の場合、寮費が不当に安いように見えるかもしれない」などと言いそうだ。

労働条件は賃金の額だけじゃないという、いい例だろう。労働者のために寮費にまで法的な網を被せて規制することは、本質的に難しい。寮費だけでなく、社内食堂の利用や服飾費、福利厚生費にまで、天引きの対象になりそうな費目もある。一般的に、会社はそんな費目にかこつけて支給額を巧妙に減らすものである。それらを法的に規制することは難しそうだ。法的なこまかい規制がなくても、労働者には、団体交渉で会社側と取り決める手段がある。しかし、団体交渉の権利も力もない実習生は、ラチの明かない経営者を相手取って裁判に訴えるしかない。けれども、法的に規制がない部分で争っては、頭のかたい裁判官の前では、その言い分は通りそうもない……。

 

 

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