退場を宣告されていた星野監督                             岡森利幸   2008/8/17

                                                                    R2-2008/9/2

以下は、新聞記事の引用・要約。

産経新聞2008/8/14スポーツ面

星野ジャパンが初戦でつまずいた。キューバに黒星(2‐4で敗れた)。1次リーグ初戦に勝って勢いをつけたいという星野監督の狙いは崩れ去った。

九回には里崎のハーフスイングをめぐって、あわや退場の場面もあった星野監督。許される「1敗」を早くも使い、余裕がなくなった。

毎日新聞夕刊2008/8/15スポーツ面

野球日本代表の星野仙一監督(61)が13日のキューバ戦で球審に行った抗議を巡り、国際野球連盟の技術委員会が日本チームに罰金2000ドルを課すことを決めた。

選手交代(代打)を告げるため再び球審に歩み寄った星野監督を球審が2度目の抗議と受け取り退場を宣告。日本側は選手交代を告げようとしただけと主張し、球審が退場を取り消したと理解。星野監督は(退場宣告がなかったかのように)最後まで指揮を執った。

スポーツ報知2008/8/15

スコア【13日・五棵松】 開始2030(3時間6)

    回 1 2 3 4 5 6 7 8 9

   安打 1 0 2 1 2 1 1 0 1 9

日本    0 0 1 0 1 0 0 0 0 2

キューバ  0 1 1 0 2 0 0 0 X 4

   安打 0 3 2 1 2 0 1 0   9

〈北京五輪で金メダルを取る〉と意気込んでいた野球の日本チーム、その指揮を執る熱血漢・星野仙一。しかし、強いチームが勝つとは限らないのが野球だ。偶然の確率的要素が、試合の勝敗を左右する大きな要因になっている。時速130150kmで飛んでくる直径7センチほどのボールを、1メートルほどのバットを振り回して打つのだから、ボールはどこへ飛んでいくか分からないのだ。アウトとセーフは紙一重のことがある。つまり野球は運が付きまとうゲームなのだ。運や「場」を味方にすれば、金メダルも夢ではない。そして野球の試合時間は長いが、一瞬の事象、一球の投打で勝負が決まりうるスポーツでもある。バッターは、ピッチャーが力いっぱい投げ込むボールをバットのシンでとらえるには、ボールの球種やコースをあらかじめ予測して打ちに行かなければならない。コースを見極めてからバットを振り始めるようでは、もう遅い。ただし、打つと決めてバットを振り始めたら、ハーフスイングなどしてはいけないようだ。日本ではともかく、国際的な試合では打者に厳しい。

 

日本チームの先発投手ダルビッシュは、5回にもピンチを招き、たまらずに交代させた成瀬が、また打ち込まれ、勝ち越しの2点をキューバに献じることになったのだから、星野監督としては、憤懣やるかたない試合展開になっていた。結果論で言えば、ダルビッシュをもっと早めに交代させてもよかったし、準備もできていないような成瀬に交代させずにもう少しダルビッシュに投げさせれば、点を取られることがなかったかもしれなかった。

ダルビッシュはエースと目されながら、5回の途中で(1死もとれず)成瀬と交代させられるまで、7安打を打たれ、5四球を出したのだから、ピッチャーの経験豊富な星野監督としては、歯がゆく、いらだたしいことであり、大きな誤算だったろう。一番信頼していたピッチャーなのに、へんに(りき)で球道が定まらず、つまりストライクが入らず四球を連発し、ようやくストライクになるボールは甘いコースに入ってキューバの強力打線に打ち込まれるという最悪のパターンに陥っていた。

その後は、キューバに対して押し気味に試合を進めた。6回以降はリリーフ投手がキューバ打線をきっちり抑え、日本の攻撃陣は、毎回のようにヒットを放ち、走者を塁に出して多くのチャンスを作ったが、併殺コースに打球が飛ぶなどして得点できず、結局スコアボードにはゼロが並んだ。

2点差を追いかけ、星野監督のイライラの募る9回の表、先頭打者の阿部がうまくヒットを打った。最後のチャンスが訪れた。ところが、次の里崎が2ストライクの後、明らかなボールの球(打者にとってはストライクに見えることもある)を、バットを振りかけて止めた。中途半端な、いわゆるハーフスイングをした。それを見た塁審が〈バットを振った〉と判定した。

「ストライク、アウト」と球審が高らかに叫んだ。以下の文は、私の憶測を含む。

 

――〈止めたバットなのに、ストライクにされた。日本での試合感覚では、これは絶対ボールなのだ。それに、三振でアウトになっては、最後のチャンスがしぼんでしまう。ここが勝負の分かれ目になる……〉。星野監督が血相を変えてダッグアウトからおどり出た。

ロドリゲス・ディアス主審(球審)に、走り寄りながら、「ノー、ノー、ノー。バットを止めたじゃないか、ノースイング、ノースイング、ノーストライク」と叫んだ。

主審は、真新しいユニフォームを着た男が左のダッグアウトからフィールドに飛び出してきたのを見て、一瞬、乱入者かと思って驚いたが、その特徴のある顔つきから男が日本チームの監督であることに気づいた。判定のことで不服を言い立てに来たようだ。主審には、この判定に自信があった。本塁プレート上にバットを一瞬でも出したら、バットを振り切っていなくても、ストライクになるのだ。負け試合の監督が判定にいくら不満を持とうとも、判定を変えるわけにはいかない。主審は、日本語の交じった言葉の意味はわからなかったが、男の言いたいことは感じ取っていた。断固として反論した、というより、正当な判定をしたことを言葉(英語)にした。しかし、相手が執拗に食い下がって同じ主張を繰り返していたから、自分の説明した言葉が英語の素養のない野蛮な相手に理解されたかどうかについては自信がなかった。

不満のはけ口を見つけたかのように、わけの分からない言葉で怒鳴りまくった、いかつい顔の男は、一旦ベンチに引き下がった。しかし、まもなく、また出てきた。それでなくても大柄で、顔も人一倍大きい男が、さきほどよりさらにムッとした顔で、こぶしを握り締め、通訳を引き連れて歩み寄ってきた。

主審は、〈ジャップの男がまた判定にクレームをつけに歩み寄ってきたのだろう〉、〈まだ納得せずに、わけの分からない言葉でわめきたてるのだろう〉と思うと、うんざりした気持ちを抱いた。もう3時間になろうとしている緊迫した試合(彼にとってはだらだらとした長いだけの試合)をさらに長引かせるつもりなら、野球規則にのっとって退場させるべきだと判断した。試合開始が遅かったから、時刻はもう真夜中の23時だったし、彼はもう試合を長引かせたくなかった。

口をへの字にまげ、真新しい帽子のひさしの下で血走った目を吊り上げ、鬼のような形相の男が、間近に迫ってきた。怒鳴り声がまた耳に響くような距離になった。一種の恐怖感も脳裏に沸き起こった。男が何かを言いかけて口を開こうとする寸前、主審は、手を振り上げ、体をひねりながら叫んだ。

「退場!」(実際は英語で)

 

 

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