深夜まで居残ってタクシーで帰ろう 岡森利幸 2008/6/24
R2-2008/7/7
以下は、新聞記事の引用・要約。
毎日新聞朝刊2008/6/6一面・社会面 財務省職員382人が公費で乗るタクシー運転手から金品受領。 財務省は午前0時半過ぎまで残業した職員にタクシーチケットを配布している。財務省での06年度のタクシーチケット利用額は4億8153万円。 200万円前後を受け取っていた主計局職員は深夜勤務後…(省略)…運転手から金券(クオカード)を年間150回、5年間にわたって受け取っていたという。 |
毎日新聞朝刊2008/6/19政治面 自民・公明両党は、労働基準法改正案を次の臨時国会で成立を図ることで合意した。賃金の割増率を25%から50%に引き上げる時間外労働の基準を「月80時間超」から「月60時間超」に短縮することを軸に(現行法の)見直しを進める。 |
タクシーを利用して深夜に帰宅している職員の勤務実態はどうなのだろう。財務省だから、予算時期などの時に、仕事が忙しく深夜に及ぶようなケースがあるのだろうと、一般に考えられるのだが……。年間の決まったスケジュールが組まれているはずだから、0時半まで仕事をするのは、他の部署からの資料提出が遅れたりして、予定時期が目前に迫り、切羽詰った時だけで、例外的なものだろう。そうでなければ、仕事のやり方がおかしい。
タクシーが金品を渡すのは、サービスのつもりだろうが、「深夜にタクシーを利用すれば、いいことがありますよ」という誘い水になっている。その後の調べ(自主申告制の内部調査)で、他の省でも同様のことが発覚している。タクシーという密室の中のことだから、自己申告しなければ絶対ばれっこないことなのに、調べに対し、彼らがわざわざ「金品をもらいました」と申告するのは、やましいという感覚が少しもなく、くれるものを受け取るのは当然という感覚なんだろう。(私が同じ立場で、運転手の証言や裏づけもなく、単にいくらもらっていた?などと聞かれても、しらばっくれそうだ。)
財務省では、年間150回もクオカードをもらっている人もいたのだから、彼らの実態として日常的にタクシーを使っているとしか思えない状況だ。そんなに0時過ぎまで残業(時間外労働)をやっていたことが、恐ろしすぎる状況でもある。役所とは、そんなに仕事の量が多くて、深夜までやらなければならないのだろうか。そんな残業を月平均、何時間やっていたのだろうか。それとも、サービス残業として処理しているのだろうか。午前0時半までの残業は、休憩時間を差し引いたとしても、6時間になるから、年間150回とは、「精神的におかしくなってもいい」数値なのだ。一人の職員にそれだけの仕事量を割り当てるのもおかしいし、他の同僚も同じように深夜まで仕事をしているのも、おかしな光景だ。
たまに深夜まで仕事をするのは、確かにきついことだ。体力的にも精神的にも消耗するから、割り増し賃金をもらわなければ割が合わない。それだから、午後10時以降は深夜残業として、法定(労働基準法で、夜10以降の労賃は2割増し)以上に労働組合との話し合いで特別に割増率を高くしている企業や団体は多い。でも、高給に反して、そんな残業は、仕事の効率が低下するし、集中力が低下してミスも多くなる。私の経験から言っても、0時を過ぎれば、朝から仕事をしてきた疲れがたまり、さすがに思考能力が低下する。体力的にも、確実に翌日に影響するようになる。翌日の午前中など体がだるく、仕事に身が入らない。たいていの人は、半分眠ったような頭でボーとして過ごすことになるのだ。
ただし、日常的にこれが続けば、ある程度、体がなじんでくることがある。夜型人間になって、0時過ぎの勤務でも苦にならなくなってしまう。それで高い給料がもらえるのだから、喜んで夜に仕事をするようになるだろう。確かに、夜に仕事をした方が効率のいい仕事ができるようになるタイプの人がいるものだ。しかし、そんな人の午前中がまったく仕事にならない時間帯であることは明確だ。
ただでタクシーチケットがもらえることのインセンティブで、深夜まで仕事をすることが日常的になっている可能性がある。金品などももらえるのだから、やめられない「常習」だったのだろう。年間150回もタクシーを利用するなら、通勤定期券を買う必要さえなくなってしまう。私は、スバリ言えば、彼らはろくに仕事をしないで、あるいは仕事をしている「ふり」をして、午前0時半まで居残っていたのだろうと考える。
例えば、午後10〜11時に仕事を終えたとしよう。あと1〜2時間待てば、タクシーチケットをただでもらい、タクシーでさっと帰れるのだから、一時間以上かけて電車やバスを乗り継いで帰宅することがバカらしくなるのだ。もう一度作成した書類やパソコンのスクリーンを眺めていれば、一時間はすぐにたってしまう。もちろん、リラックスして眺めているだけ。サービスのいいタクシーに乗って帰れるという楽しみがあるから、ぜんぜんつらいとも思わない。その間は、他の部署からの問い合わせの電話も電子メールも来ないから、だれにも煩わされることもなく、彼らにとって一番くつろげる「余裕の時間帯」だろう。
上長としても、部下が熱心に仕事している姿を見ることは頼もしいし、少しでも仕事がはかどれば、部署としての成果が上がるから、鼻が高くなる。よく働いてくれる部下に対して給料を多く出すのは当然であり、部下に給料を払うのは省庁全体の予算からであり、部局での予算や制限など、なきに等しいから、意に介す必要がないのだ。省庁の予算が赤字であれ、職員に残業代を払わないわけにはいかないのだ。タクシーチケットがなくなれば、申請して補充しておくだけだ。上長自身も、職員レベルで実務をしていたときには、残業で稼いだ経験をしてきた人たちだから、部下のそんな事情はよく理解しているのだろう。深夜まで働く部下に対しては、健康を害さない限り、つい大目に見てしまう。彼らには、省庁の人件費は自分たちの収入源(金づる)であると考え、民間企業で徹底しているような原価意識など、ぜんぜんないのだ。
年間5億円ほどのタクシー利用額よりも、私は、職員の残業代の方がずっと高額だったと考えている。0時過ぎまでの残業は、割り増しで賃金が支払われる。つまり、職員は、給料をたくさんもらいたければ、残業すればいい。夜遅くまで仕事することが、とても魅力的になっているのだ。さらに、無料でタクシーに乗れることが、深夜まで残業しようという動機付けを加速している。しかし、職員が居残っていることは、その職場として、人件費がかさむだけでなく、建て屋や職場の設備に無駄なエネルギーが消費されるから、無駄の相乗効果が得られる。深夜11以降は、タクシーも割増料金になるのだ。
政府は、法的な規制で、さらに割り増し率を上げようとしている。政府の「職員」が考えそうなことだ。おそらく、この法改正案の事務処理で、厚生労働省の職員が深夜までかかって書類をまとめたものだろう。(皮肉を込めて)
割増率を上げれば、残業が減るどころか、目の前にニンジンを下げられている馬のように、働く者としてはもっと残業をしたくなってしまうから、残業量を規制するという趣旨に反することになってしまうだろう。企業経営側としては、人件費が高くなることで割増率アップに表面上、渋っているが、労働者一人一人がますます残業することに意欲を示せば人を増やさずにすむから、元が取れるかもしれない。しかし、職員が居残ることに意欲を示すような職場では、もちろん逆効果だ。
労働者(特に省庁の職員)の残業量を減らすことを目指すならば、残業の割増率を単に下げればいいことだ。
ネパール王朝の乱