パラアンカーで転覆した漁船                                  岡森利幸   2008/6/27

                                                                    R2-2008/7/26

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/6/24一面・社会面

23日午後1時半ごろ、千葉県犬吠崎の東約350キロの海上で、カツオ漁の巻き網漁船「第58寿和丸(135トン、乗組員20人)が横波を受けて転覆した。寿和丸は、しけ模様のためパラアンカーを海中に広げて停泊していた。生きて救出されたのは3人。現場海域は風速13〜15メートルで波の高さは約3メートル。パラアンカーで風上に船首を向けていたが、大きな横波を突然受けた。

生存者の1人「横波を受けて一気に船が傾き、立て直そうとしているところにさらに横波が来て転覆した」

毎日新聞夕刊2008/6/24一面

第2管区海上保安本部は、複数の波やうねりが干渉して巨大化する「三角波」が起きて転覆、沈没した可能性もあるとみて調べている。事故当時、現場海域には海上強風警報と濃霧警報が出ていた。

朝日新聞夕刊2008/6/25社会面

生存者の3人は、「右舷船首方向から波の衝撃を2回受け、『ドン』という音とともに右舷側に傾斜し始めた」と証言。福島海上保安部は、パラアンカーで船首側が引っ張られている状態の中で、右舷方向から強い波を受けたため、右舷側がねじれるように沈み込み、バランスを崩して転覆したと見ている。

今回、全長38.05メートルの比較的大型の漁船が、しけの中で転覆したことに、いくつかの「素朴な疑問」がわいてくる。

「右舷船首方向から波の衝撃を2回受けた」との生存者の証言がある。その後、船体は右舷方向に傾き始めた。傾かせる力は、何だったのだろう。

右舷船首に比較的大きな波が2回当たって、船は方向を変えられたと私は推測している。船体が左に旋回運動する際、へさきがパラアンカーにつながれていたものだから、相対的にパラアンカーがへさきを強く引っ張ったことになる。このとき、パラアンカーを繋ぐロープの位置が問題だった。この漁船の場合、へさきの先端にロープを繋いでいたのだろう。漁船の写真を見ると、スマートな船体のへさきは緩やかなカーブを描き、上方に鋭く尖っている。ロープを高い位置に繋ぐと、船の重心との距離に相乗するモーメント(てこの原理による)が増して、横倒しにする力が増す。つまり、船が左に旋回し、斜め横を向いたときに、パラアンカーのロープがへさきを強く引っ張り、船を横倒しにしたことになる。旋回運動が横転運動にねじれてしまったのだ。

『ドン』という音は、波の音ではなく、船が海面に倒され、船橋部が叩きつけられた音に違いない。

パラアンカーのロープは、へさきの高い位置に結ぶのでなく、もっと低い位置に、船底に近い位置で結ばないといけないだろう。

 

――以下の文は、「横波で転覆」をキーワードにして、生存者の証言を得る前に考察したもので、的外れであったかもしれない。

横波を受けて転覆するのでは、横波に対して船があまりにも弱すぎると私は思う。この漁船は、シケのなか、波風に対する対処として、パラアンカーを海中に投じ、風と波が立つ方向と平行になるようにして船体を安定させるようにしていた。パラアンカーは相対的に海中で動かない。船は波や風にあおられ流される方向に進むから、へさきにパラアンカーのロープを繋いでおけば、船首は風上に向く。風上からの波が一番大きいから、その方向に船首を向けておけば、たいていの波には乗り越えられる。

しかし、横波に対しては無防備になる。パラアンカーで固定されるように漂っていたから、船橋で大きな横波が来るのが見えても、積極的に動いて避けることもできない弱点がある。それにしても、風の向きとは別の方角から、そんなに大きい波が来るものだろうか。「それほど大きな波だったのだ」と言ってしまえば、それまでなのだが……。確かに、外洋では大型船であっても大きく揺らされるような、ビルのような高さの大きい三角波が発生することも知られている。しかし、大きなうねりの波は周期が長いから、船が復元するひまもなく、次の波がやってくることは考えにくいのだ。そんなうねりは、船を上下動させるだけで、大きく横に傾かせるとは思えない。

一般に船が横に傾けば、傾いた側の浮力が働き、船体の重心と浮力に関係するモーメントの働きにより、振り子のように、逆向きに傾こうとする力が加わる。船体の傾きは元に戻ろうとする。傾きが大きければ、浮力が増すものだから、復元する力も増す。ただし、一定の傾き角度を越すと、復元力が弱まってしまう。重心との位置関係で、モーメントが低下するのだ。

船体の傾きがほとんど戻らなかったということは、その復元力が弱まる角度を超えてしまったことになる。私は、この船には転覆しないための復元力が不足していたのではないかと、「素人考え」で推測している。転覆したことは、単に波が大きかったり、波が来る方向やタイミングが悪かったりしただけでなく、その船の復元力が不足していたことが要因として大きい。

ヨットなど、小さいながら、ひっくり返っても、元に戻る復元力を備えている。構造的に復元力を持たせて設計しているのだ。今回の船の設計では、どうだったのだろう。法的な、あるいは技術的な基準を満たすように復元力を備えていたのだろうか。もし、満たしているなら、基準がゆるすぎる(甘すぎる)ことになる。

シケの中、港に帰るための燃料をおしんで、洋上で「風待ち」をしていたというような、もっともらしい理由も聞こえてくるのだが、港に帰るべき状況なほど海は荒れていなかったという関係者の判断に半分賛成したい。たいしたシケではなかったようだ。つまり、「この程度」のしけで転覆するなら、もっと荒れたシケの場合には、転覆事故が続発する危険が高まるのだ。台風でもない、単なる低気圧によるしけの海で、横波によって転覆するのでは、船の構造のバランスがそうとう悪かったのだろうと私は思っている。

最近の漁船では、機械化が進み、網を引く動力やクレーンなど、甲板上に重い機材を積み、レーダーや航法制御、通信機などの電気・電子機器を備えるようになっているから、船体の重心が高くなっている事情もあるのだろう。逆にエンジンなどは、従来は船底にどっしりと鎮座していたのに、今日では燃費効率のよい小型のものに置き換えられているのだろう。

つまり、これからの船には、さらなる「対横波設計」が必要だろう。横揺れを防ぐためのスタビライザーも、横波には有効だろう。スタビライザーが効いていれば、船体が大きく傾かなかったと思うからだ。スタビライザーは、単に「乗り心地のよさ」のためだけではないはずだ。

ヨットのような復元力を大型船に持たせるのは無理だとしても、遭難の船がもっていた復元力よりも、少なくともそれ以上の、大きい復元力をもたせるように設計をしないとだめであることは確かだ。復元力がどのくらいあるかは、経験と勘に頼るようなロー・テクノロジーではいけない。そのためのいい方法として、船の設計の際に、復元力を数値的に検証するコンピューター・プログラムやシミュレーション技術がある。それらを活用し、すべての船に適用すべきだと思うのだ。

 

――転覆から約一カ月。ここへきて、転覆原因について、また新たな展開があった。

毎日新聞朝刊2008/7/23社会面

千葉県沖の漁船転覆で死者4人、行方不明者13人を出した事故の原因究明している横浜地方海難審判理事所が、救助された乗組員から、「右舷船底に強い衝撃を受けた」、「体験したことのない衝撃を機関室の右舷船底部から受け、急激に右舷側に傾き、沈んだ」という証言を得た。

「三角波」の可能性が指摘されていたが、僚船を含め三角波を見たものはなく、機関室下の燃料タンクからもれたと見られるA重油が海面に大量に浮いていたことが分かった。理事所関係者は衝撃でタンクが破損したとみている。理事所は海洋研究開発機構に対して、深海潜水調査船の派遣依頼を検討し始めた。船体は深さ数千メートルの海底に沈んだと見られる。

また証言から、▽高波なら波の進行方向に船が傾くが、寿和丸は波を受けた右舷側に大きく傾いた▽転覆しても最低数時間は浮いているのに、寿和丸は数十秒で転覆、約15分で沈没した――など通常の転覆事故とは異なる状況も判明。

なんと、乗組員の証言は、「衝突事故だった」というのだ。船底に穴が開くような強い衝撃があり、数十秒後、浸水とともに波にあおられて転覆したと読み取れる。強い衝撃の『ドン』という音は、衝突の音だった可能性が高いことになる。この文の題名も『XXと衝突して転覆した漁船』と訂正すべきかもしれない。

では、何と衝突したのか? ズバリ、私は潜水艦と断言しよう。漁船はエンジンを停止し、パラアンカーを投入して沖合に停泊していたから、潜水艦のソナーでは漁船を感知できなかったのだ。つまり、千葉県犬吠崎の東約350キロでうろついていた潜水艦が、漁船と衝突した後、「当て逃げ」したことになる。衝突によって潜水艦の側にも修理が必要となる損傷を受けたはずだ。修理したとなるとすぐにばれるから、国内の、つまり海上自衛隊に所属する潜水艦とは常識的には考えにくい。しかし、イージス艦「あたご」が漁船と衝突した記憶もまだ生々しい時期だから、自衛隊の潜水艦が、あとでばれることを考えずに、「あわてて逃げた」可能性も捨てきれない。(かれらは、国防よりも自己防衛本能が強いから、気がつかなかったことにして……。)

もうひとつは、他国の潜水艦の可能性だ。隠密行動を取る潜水艦だから、正体を見せたくなかったのかもしれない。日本近海に正体不明の外国潜水艦、例えばロシア潜水艦・中国潜水艦・韓国潜水艦などがうろつけば、常に哨戒飛行している自衛隊ご自慢のP3C対潜哨戒機などによって探知されるはずだ。探知されていなければ、日本の哨戒能力は、ずいぶんいい加減なものとなってしまう。正体の分かっている潜水艦として、アメリカ潜水艦が考えられる。自衛隊は、アメリカ潜水艦が日本近海をうろついていたのを知っていながら、「知っていること」を知られたくないので、黙っているのかもしれない。潜水艦探知能力の度合いは、軍事秘密でもあるからだ。ともかく、現場海域での潜水艦の存在について何も公表されていないことに、私は不気味さを感じる。

潜水艦は、漁船と衝突するような、かなり深度の浅い海中を潜行していたことになる。それも過失のうちに入るだろう。なぜ安全な深度で潜行していなかったのかは、潜水艦の乗組員に聞いてみなければ分からない。

数千メートルの海底に沈んでいる漁船の船体に、衝突の際の塗料や破片がついているだろうから、調査すれば、どこの潜水艦かの見当がつくはずだ。どっかから圧力がかかって調査が中止させられたりして……。転覆原因がパラアンカーのせいとなれば、かれらにとって一番都合がよかったのだろう。

 

 

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