大相撲の大麻騒動                                            岡森利幸   2008/9/11

                                                                    R1-2008/9/29

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/9/10 スポーツ面〈国技大乱〉

露鵬と白露山は、6月のロサンゼルス巡業で大麻を手にしたという。巡業では、支度部屋で過ごす時間が長く、本場所のような緊張もないため、幹部からの縛りも緩い。

……

ガグロエフ元力士(若ノ鵬)は紋付の羽織袴(はかま)姿で、協会を訪れた。武蔵川理事長、伊勢ノ海事業部長らの前で「世間や教会に迷惑をかけて反省している」と涙ながらに謝り、「許してください」と訴えたが、武蔵川理事長は「将来有望だっただけに残念だが、すでに解雇処分を下しており、できない」と答えたという。

面接後に(記者)会見したガグロエフ元力士は「日本で大麻を吸うことは悪いと知っていたが、ロシアでは厳しくなかったので少年のころから経験があった」と明かした。

三人の解雇は、まるでトカゲの尻尾切りだ。若ノ鵬など、哀れに見えるほど、謝罪して回っているのに、一度決定された解雇が撤回になるのは、もう絶望的だ。

公的な処罰としては、大麻を所持していたとされる若ノ鵬の場合は、大麻所持容疑で逮捕されたが、その大麻が微量だったこと、初犯だったことで、東京地検から処分保留で釈放された(起訴猶予処分)。つまり、司法からの公的な「おとがめ」はなかったのだ。他の二人の大麻テストでの陽性反応は、法的な処罰の対象にならない。だが、相撲協会から、解雇という「終身刑」を食らってしまったのだ。悪いこととはいえ、これほど厳罰にするのもどうかと思うのだ。社会的制裁としては、きつすぎる。北の湖理事長は陽性反応を「犯罪」だと言い張っていたが、犯罪であっても、公的な罰則を課すまでもなかった、軽微なケースだったのだ。二場所出場停止ぐらいの謹慎処分が適切ではなかったか。

いきなり解雇では、タバコを吸って警察に補導された生徒に、頭にきた校長が、「ガッコーの恥だ」と叫んで退学にしたようなものだ。今回の処分は、〈弟子には厳しく、自分には甘い〉という大相撲の親方連中、とくに理事たちの姿勢がよく表れている。弟子の不始末は親方が真っ先に謝るべきもののはずだが……。親方の「監督不行き届き」あるいは「指導力不足」が一番の問題だろう。その批判をそらすかのように、三人を厳罰に処したのだ。白露山の師匠(親方)でもあった北の湖理事長は、しぶしぶながら自ら理事長から理事に降りるという形だけの責任の取り方をしたが、相撲協会が監督責任を取らせて北の湖を処罰したわけではない。大相撲の歴史上、理事長が処分されたという不名誉な記録はもちろん残らない(人々の記憶には残るだろうけど)。露鵬の師匠の大嶽親方については、2階級降格の処分だったが、相撲協会内の序列が下げられただけだ。元力士三人の親方たちに対する処分は、形だけのように見える。

相撲協会の幹部や親方連中は、世間から責任問題で批判されることを一番恐れている。配下のものを厳罰にするのは、権力をもっている側によく見られる振る舞いだ。協会が「三人が大相撲に泥を塗った」として、すべてを三人のせいにするのは、典型的な責任転嫁だし、相撲協会のメンツを守るためだろう。ともかく、ここで示しをつけたことは、他の力士たち、特に多数派の外国人力士たちにはいい見せしめになったことだろう。

二人が大麻検査で陽性反応が出ているのに、「吸ったことはない」と言うのは、見え透いたウソだが、「吸いましたと」と自供するのは、決定的な「犯人」にされてしまうのだから、自己防衛のため、やむをえないものと私は考える。「日本で吸ったことはない」ならば、ウソにはならなかったかもしれない。「吸いました」と言わせるよりも、「もう吸いません」と言わせることの方が重要だろう。

この薬物は、運動選手が能力を高めるためのドーピングとも違う。彼らは、ほんの個人的な楽しみで吸っていたのだろう。それは、彼らにとって制約の多い異国の地での、相撲に明け暮れた生活の中の「息抜き」だったかもしれない。アメリカなどでは、タバコを吸う感覚で薬物をやっている人も多くいて、入手も日本ほど困難ではない。三人は、里帰りや国外での巡業などの機会に、そんな厳罰を食らうとは思わずに、麻薬を吸ってみただけなのだろうと私は思っている。

この三人の場合、彼らの本業の相撲にどれだけ影響したかというと、「影響なかった」と言うのが正解に近いだろう。大相撲のファンにどれだけ迷惑をかけたのだろうか。怒ったファンは別として、迷惑したファンは一人もいないだろう。三人が「ご迷惑をおかけしました」などと謝ることは、必要ないほどだ。怒ったファンにしても、三人に対してではなく、管理不十分な協会に対してだろう。これで、三人の有力力士が抜けることになって、相撲のおもしろみが、また低下してしまう。ことに、若ノ鵬は将来有望な逸材だったから、惜しい。

この三人が大麻をやったことで、社会的な損害がどれだけあったかというと、計算がむずかしい。直接的な損害など、なきに等しい。麻薬などによる社会的な害は、それを吸う個人が健康を害したり勤労意欲を失ったりして、社会から逸脱し、社会的な貢献をしなくなることが一番大きいのだ。その他、これを密売するやつらが不正にもうけたり、暴力団の資金源になったりするなどの間接的な害(納税されない分が政府の財政的損失になる)もあるのだが……。それが暴力団を根絶できない警察の言い訳になったりして。

 

 

一覧表に戻る  次の項目へいく

        敗戦を言い訳した星野監督