健保組合員の負担の重さ                                         岡森利幸   2008/5/13

                                                                    R1-2008/6/26

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/4/22一面

健保連の赤字4000億円。後期高齢者医療制度などに伴う拠出金が増えた。

 大企業の会社員らが加入する健康保険組合〔健保組合と略す〕で構成する健康保険組合連合会(1502組合)は08年度予算の推計をまとめた。老人医療費への拠出金が増え、経常赤字は前年度の2.6倍の6322億円に達し、過去最大となる見込み。健保組合は「危機的状況」と説明している。

政府は中小企業の会社員らが入る政府管掌健康保険への国庫補助を削減し、健保組合へ750億円を肩代わりさせる特例法案を今国会に提出している。法案が成立すれば、健保組合の負担はさらに増加する。

毎日新聞朝刊2008/5/14総合面

高齢者医療で、大企業の社員に負担。健保組合の支援金8.3%増。

大企業の健保保険組合で、後期高齢者医療制度への08年度の支援金は、旧老人保険制度への拠出金(07年)に比べ、8.3%増の1兆2666億円で(他の健保保険団体より)突出して増加する。

これは読み捨てならない記事だろう。大企業の「おとなしい」会社員たちに、政府管理の健康保険の負担をさらにかぶせようとしているのだ。どう考えても、不公平なやり方である。政府は、健保連の赤字など、その組合員に保険料の増額をお願いすれば、容易に穴埋めできると考えているのだろう。

大企業の社員の多くは、業務上でも企業が強要する成果主義(数値がすべての目標管理制度の導入など)でしぼられており、管理された体制のなかで、そこそこの給料をもらっているだけだ。世の中の水準以上に高給を取っているわけではない。年功序列的な配慮は薄れてきているから、昇進・昇給するどころか、常に配置換えなどリストラの不安を抱えて働いている人がほとんどなのだ。労働組合は弱体化し、労働環境が悪化し、規則や制約にしばられ、ストレスのたまる職場になりつつある。税金や社会保険の類は、もちろん天引きである。最近、後期高齢者が年金から保険料を天引きされて怒っているというニュースがあったが、会社員は、そんな怒りなど通り越しているのだ。それでなくても給与明細の控除項目の中でダントツに高いのが健康保険料(収入によって加算され、毎月、2〜4万円取られている)だ。それがますます高くなれば、手取りがさらに少なくなることが目に見えている。生活が圧迫され、政府への不信感が募るに違いない。収入が多い者から保険料を多く取るというのもおかしな話だ。病気になって、かかる費用は収入に無関係だろう。

組合は、自分たちの金を出し合って維持・運営しているものだ。自分たちが疾病・怪我したときのための保険だろう。健保連が赤字になれば、その組合員たちがその分の保険料を出さざるを得なくなるのだが、他人の健康ために、赤字になっているとしたら、そんな赤字の穴埋めに金を出す気はしないだろう。他の健康保険団体のために、政府の肩代わりすることなど、とんでもない話だ。なんと、政府が出していた中小企業の保険への補助750億円まで負担させられようとしているのだ。結果的に保険料がまた高くなるのだろう。健康保険を含めた社会保険料は実質的には税金だから、増税である。大企業の会社員だけに限定された「大増税」ということになる。

健保組合の理事たちが組合を裏切っているのではないかと思えるほど、多額の金額(*1)を拠出している。これまでにも高齢者のために、ずいぶん拠出しているのだ。自分たちとは関連のない非組合員のために多額の金を出すのは、本来、筋が違うだろう。高齢者の健康保険料の分まで、納める義理も余裕もないはずだ。それは政府によって無理矢理「拠出させられている」のが実情だから、「徴収金」と呼ぶべきものだろう。

将来、自分たちが高齢になったとき、今度は、支出される側になるからという理由があるかもしれない。しかし、いまの高齢者たちは、働き盛りのころ、高齢者の分まで、保険料を納めていたのだろうか。納めていないだろう。もしも、自分たちの将来のために、老後の健康保険の足しにするつもりなら、基金として蓄えるべきだろう。現状は、拠出金など、使い込まれているだけだ。現役の働く会社員たち、特に大企業で働く人たちが、ずっしりと重い負担を強いられ、その老後の健康保険の保障は何もない。

政府は、今回の後期高齢者医療制度で、「拠出金」を「支援金」と言い換えた。「拠出金」に批判の声が上がっていたので、言葉を変えることで批判の矛先をそらそうとしたかのようだ。制度などの評判が悪くなると言葉を変えるのは、政府の常套手段だが、さらに重い負担を課すためには、「支援金」という響きのよさそうな名称をつけざるを得なかったのかもしれない。健保組合の赤字は、多額の拠出金が原因になっていたのに、実質的に増額された「支援金」はさらにその赤字を増やす原因になるのは確実だ。大企業の大多数の社員たちから、「支援してもらいたいのは、赤字になっているこっちの方だ」というような揶揄をこめた不満の声が出るに違いない。そのうち政府は「支援金」の次の言葉を探さなくてはならないだろう。

 

*1. 某健保組合の平成13年度予算で、総支出の30.8%が老人保健拠出金だった。

 

 

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