グッドウィルの二重派遣                                                岡森利幸   2008/6/7

                                                                    R2-2008/8/30

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2008/6/3一面・社会面

日雇い派遣大手「グッドウィル」の違法労働者派遣事件で、警視庁保安課は、港湾運送会社「東和リース」の元常務を職業安定法違反(労働者供給事業の禁止)容疑で逮捕、グッドウィルの元北関東エリア・マネジャーら3人を同ほう助容疑などで逮捕した。

労働者の派遣1人につき、グッドウィルは東和リースから5000円、東和リースは港湾荷役会社から2000円のリベートを受け取っていた。グッドウィルは二重派遣された労働者に「特殊勤務車両」手当名目で500円を上乗せして支給していた。

07年2月、二重派遣された男性が作業中に労災事故にあったことから一連の不正が発覚した。厚生労働省は、08年1月に違法派遣を繰り返していたとしてグッドウィル全708支店に2〜4カ月の業務停止命令を出した。

グッドウィルは合併吸収や買収を進めて業務を拡大する一方で、労働者の二重派遣や偽装請負を繰り返し、違法な行為が常態化していた。

元支店長の一人「法律の知識や実務経験の乏しい支店長ばかり。数字(売り上げ)を伸ばせば自分の給料が上がり、落ちれば上司からの叱責と減給が待っている。二重派遣など違法なことをやっても、数字さえ出せばいいという雰囲気だった」

グッドウィルの前身は、「クリスタル」だ。2006年10月に悪名高かったその社名を、それよりずっと規模の小さい会社「グッドウィル」に吸収・合併された形で、「グッドウィル」に実質的に社名変更したのだが、企業の姿勢や体質は少しも変わっていなかったようだ。「グッドウィル」という名称は、本当は良い意味をもつ言葉なのだが、その社名にそぐわないこと、おびただしい。そろそろ、似つかわしい名前に変えたらどうだろう。例えば、グッドウィルとは逆の意味の「エヴィル」に……。*1

「何をしてもいいから、とにかく利益につなげろ」というような徹底した利益第一主義をそこに見る。企業とは利益を追求するものだが、グッドウィルの場合は、利己的なほどに、その度を高めている。幹部たちが、そこで働く社員たちを叱咤・罵倒して追い込んで目先の利益の獲得に走らせるやり方をしていたことは、多くの証言で裏づけされている。それには興味深いものがある。そのやり方が、この企業グループが成長・拡大してきた理由の一つなのだ。

先ず、グッドウィル・グループが708の支店をかかえていることに、私は驚きを感じた。それは、グループとして過剰な数ではないかと思ったからだ。顧客をめぐって支店同士が競合してしまうことはないだろうか。

それは、支店をどんどん設置し、支店同士を競わせて、売り上げを伸ばそうとする企業戦略のようだ。本社は、どの支店が売り上げを伸ばしているか、あるいは下げているか、一目瞭然に数値で管理しているのだろう。支店同士が競合して一つの仕事を食い合っても、本社は高みの見物をしていればいいというわけなのだろう。

人はだれでも、怠惰な一面を持っている。濡れ手で粟のように、あるいはその地位に座っていれば黙っていても金が入ってくるような、楽して金をもうけることを考える。しかし、世の中には、そんな甘い仕事や利権はメッタにあるわけではない。怠惰な人を働かせるためには、おいしい餌(高給やボーナス、ポストなど)を目の前にちらつかせることも有効だが、番犬が羊の群れを追い込むように、騎手が競走馬の尻をバンバンたたいて走らせるように、どなりまくって叱咤することが一番有効なのだろう。数値を落とした社員や支店長には、活を入れ、精神的に張り飛ばせばいい。幹部室に呼びつけて、どなりつけるのだ。あるいは、大勢の人の前で恥をかかせる。それが生半可な自尊心など吹き飛ばし、他の見せしめにもなって効果的なのだ。(悪徳販売業者の場合は、幹部が部下を肉体的にもいためつける例が多い。)

 

例えば、毎月、本社の一室に支店長らを呼び集めて、幹部たちの前で、前月の実績と来月の予定を一人ずつ説明させるのだ。もちろん実績が低かったり、予定を示す数値が横ばいだったりしたら、幹部たちが鋭い質問をとばし、ダメ出しするのだ。連続して実績を落とした支店長には、語気も荒くなるのだろう、と私は推測する。

――「どうして、数字がどんどん落ちるんだ?」

「辞めたりする労働者が多くなったことや、派遣先の数が限られているパイを他業者ともども、食い合っている状況でして……」

「テメェー、下手な言い訳しゃがって。辞めるモンがいるんなら、補充すればいい。ガッコーを出ても自分が何をしたいのかも分からず、とりあえず金だけほしいというヤツらを引っ張ってくればいいんだ。そこらにいくらでもいるだろ?

限られているパイなどと、他人事のように言うな。テメェーたちが派遣先を探す努力をしてねえだけだろ? 昨今の企業は、人件費の安い、手軽な労働力として、どこでも派遣を求めているのだ。テメェー、仕事する気、あんのか? ろくな仕事もしないで食って行けると思うなよ」――

そんなふうに追いたてれば、いくら怠惰な人間でも、「数字」を意識せざるを得ないし、目先の「数字」だけをつくろうようになるものだろう。そんな「月例の報告会」の日の前後で、支店長たちの何人かは(特にまじめなタイプの人が)うつ病になったりして……などと私は考えてしまう。

 

それをいやがったり、会社の方針に反したりするものがいれば、給料を下げ、降格させればいい。そんなやつは首にしなくても、すごすごと自己都合で辞めていく。数字がすべての判断基準で、会社にとって無能でダメな人間や支店(つまり、稼ぎの悪い人や部門)は、どんどんふるい落とす。「グッドウィル」とは、幹部はコンピュータ・スクリーン上に示されるグラフや数値をにらんで声を張り上げることに、社員は目先の目標(ノルマ)で数値をよくすることに、必死になっているグループ会社だろう、と私は推察する。

グッドウィルのトップや幹部たちは、その辺をよく心得ているのだろう。幹部たちは、企業業績を伸ばすことばかり考える。企業はもうけねばならないのだし、企業のもうけは、ほとんど幹部たちの『報酬』になるのだ。手段はどうでも、各支店が売り上げを伸ばせばすべて「よし」とする。そうすれば、自分の『報酬』も増すというものだ。支店長や派遣を管理する社員たちには、働けるだけ働かせ、搾れるだけ搾り取る。派遣労働者に対しても同様だろう。二重派遣では、1人当たり5000円のリベートがグッドウィルに入ってきているのに、労働者には500円しか渡していなかったことが、それをよく表している。(500円は「口止め料」的な性格の金かもしれない。)その他、グッドウィルの「せこさ」を例に挙げたら、きりがない。

派遣業は、派遣先を多く確保することが業績の向上につながるものだから、幹部たちは、社員たちが法律にふれることや規制に反することをやっていることに平気だし、むしろ、そそのかしていたのだ。支店長などには、派遣先や同業者から求められれば、法律的に禁止されている派遣先にもどんどん労働者を送り込むように仕向ける。違反がばれたら、つかまるのは違反した社員たちだろう、と高をくくる。「社員たちが勝手に法律に違反したのだ。(ドジを踏みやがって……)」と心の中でつぶやく。

しかし、企業のそんな常習的な法律違反がばれたら、直接的に関与した社員の一部だけでなく、企業自身も責任を負わなくてはならないのが、この社会だろう。社会が違反を見逃しているケースも多くあるのだけれど……。

 

*1. やはり、今年(2008)101日付で、社名を「グッドウィル」から「ラディア」に社名変更する。企業体質が変わらない限り、「名ばかり」の変更が繰り返されそうだ。

 

 

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