フェリー海難ふたたび                                         岡森利幸   2008/6/27

                                                                    

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/6/23社会面

フィリピンで客船沈没、750人不明、台風の影響。

フィリピン中部シブヤン島沖で、22日、強い台風6号による高波で客船「プリンセス・オブ・スターズ」が沈没し、多くが行方不明になっている。船は20日の夜マニラを出港。21日、マニラの南約260キロのシブヤン島沖でエンジン故障のため座礁し、救助を求めていた。

毎日新聞朝刊2008/6/24国際面

運行会社が生存者32人を確認したと明らかにした。乗組員と乗客は862人で、依然大部分が行方不明となっている。客船はシブヤン島沖の数キロ沖合いで21日昼ごろ、台風6号による高波を受け「岩に衝突した」という無線を最後に連絡が途絶えた。運行会社によると、沈没して船は同国最大の客船で、04年5月に日本の新日本海フェリーから購入、以前は「らいらっく」の船名で、京都府の舞鶴港と北海道の小樽港間を運行していたという。

毎日新聞夕刊2008/6/24総合面

生存者の一人、オニール・ルグバンさんが、病院で当時の様子を語った。

マニラ港を出港した20日夜は穏やかだった天候は、21日朝になると激変。台風6号の影響で波と風が強くなり、船体が大きく揺れる。同日午前11時45分ごろ、船体が突然、大きく左舷に45度ほど傾き、船から脱出を呼びかけるアナウンスが流れた。女性や子供たちの多くは泣き叫ぶだけで、デッキに出ることができず座り込んでいた。(私はデッキから)海面に浮いていた救命ボートめがけて海に飛び込んだ。ボートには30人が乗り込み、丸一日近く漂流した。(以下略)

日本ではまれかもしれないが、世界ではフェリーの事故が絶えない。フェリーには多くの人が乗るから、犠牲も大きいし、ニュース取り扱いも大きくなっている。転覆事故は、あっという間に人々が海の中でほうりだされ、備え付けの救命艇に乗り移るひまもなく、大半がおぼれてしまう例がほとんどだ。よくある映画のようにじょじょに沈んでいくのとはわけがちがう。

ニュース画像では、台風が去った後の穏やかな海で、ほとんど水没し、船首部分の船底だけを海上から突き出し、戦艦大和が最初に採用したといわれる球形の船首(バルバスバウ)を見せ付けているのが、なんとも、ものがなしい。(シブヤン島沖というと、つい太平洋戦争を連想してしまう。)

この事故の主因は、「エンジン故障のため漂流し、座礁した」ことだ。座礁して、波にもあおられ、急に船体がひっくり返ってしまったのだ。台風は、重なった要因の中の二次的一因でしかない。

漂流中に、座礁する危険が迫っているのに、救命ボートを下ろして乗客を避難させなかったのは、海が荒れていたからという事情があったのだろう。座礁するかどうかは、レーダーや海図を見れば、すぐに分かることなのに……。船長には、「この船は大きいから、座礁しても、転覆・沈没はしないだろう」という読みがあり、救援船を待っていたのだろう。座礁してからも、船体が急に大きく傾くまで、ほとんどの乗客は船内にいた。

 

 船長の判断の是非はともかく、一番の問題点。この船には当然複数のエンジンが搭載されていたはずだが、なぜ、すべてのエンジンが故障して止まってしまったのか。

 私には、思い当たることがある。この事故で思い出すのが、2003年1月5日に、苫小牧発鶴賀行のフェリー「すいせん」(17,329トン)が秋田沖でエンジン停止により漂流した事故だ。そのことで、私は数日後に一文を書いていたので、以下に示そう。

  『フェリー漂流の教訓』 岡森利幸

 

 1月5日7:30ごろ日本海の秋田沖で大型フェリーが、ふたつの主エンジン停止のため、7時間余りも漂流したことは、500人近い乗客に多大な迷惑をかけ、乗客の安全を脅かした。もしも、座礁して沈没でもしたら、もっと大変な海難事故になっていたはずだ。

 機関付近に海水が入り、二つの冷却水ポンプのモーターがぬれて、ともに故障したことが原因だという。

冷却水ポンプがエンジンに必須の部品であるならば、その予備系のポンプを備えるべきだったと私は思う。重要なシステムでは、予備系をもつことが当然のことだ。

 一般的に部品が偶発的に故障する確率を考えると、複数の二つの部品が同時に故障することは極めてまれだ。そのため、予備系のポンプなど必要ないと船舶の設計者は考えたのかもしれないが、海水にぬれるようなところに二つのポンプのモーターが隣接してあるならば、海水に対する防水性の欠如、あるいはモーターの配置に関する設計に問題があるということになる。関係者は原因をよく究明し、再発を防止してほしい。

 奇しくも、「座礁して沈没でもしたら……」という私の心配が現実のものになってしまった。(私の声など、ぜんぜん関係者に届かなかった。それとも、「らいらっく」の欠陥を知って、舞鶴・小樽の運行をあきらめ、他国に売ってしまった?――考えすぎだろうけど) 「らいらっく」改め「プリンセス・オブ・スターズ」のエンジンが停止した原因は明らかにされていないが、「すいせん」と同様の原因だったら、私はオコルヨ。

 この文は、ポンプが二つとも故障したときのために予備ポンプを備えるべきだという主張だが、補足したいのは、この事故では、二つのポンプが同じ場所にあり、「海水が入る」というたった一つの要因で二つとも同時に故障したことが一番の問題点なのだ。二重系のシステムになっておらず、信頼性に欠けるものだ。別々の機関室にポンプを置かなければ、「予備」としての役割を果たさない。

 一般に、船底に「海水が入る」ことは、よくあることだと思う。台風によって「海水が入りやすい」要因がさらに増していたのかもしれない。海水が入れば、そのための専用ポンプでくみ出せばいいことだが、問題のエンジン冷却用ポンプは、船底の下部に置かれ、少しでも海水が入れば、容易に海水を被ってしまう位置にあったのではないか、と私は推測している。海水をくみ出す前に、二つのポンプが海水をかぶって故障してしまったのだろう。それらが船底より少し離して上方に位置付けされていたなら、問題なかったはずだ。

 

 

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        パラアンカーで転覆した漁船