暴走運転の責任を押し付けられたレンタカー会社                    岡森利幸   2008/6/10

                                                                    R1-2008/6/30

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/5/14社会面

仙台市青葉区のアーケードで、05年4月、ラックが暴走し7人が死傷した事件。

遺族がレンタカー会社とアーケード内歩道を所有・管理する市に計7710万円の損害賠償を求めた訴訟で、仙台地裁は、市への請求を棄却する一方、同社に計6410万円の支払いを命じた。判決では、「引越しに使うと偽装され、貸したもので運行供用者に当たらない」とする同社の主張を退け、運行に関与しうる会社に負担させることが公平であるとした。

レンタカー会社が大友誠治受刑者(41=無期懲役が確定*1)にトラックを貸していた。

何が公平なものか。全然公平でない判決だ。それが交通事故だったり、トラックに欠陥があったりしたのならともかく、無差別に人々を死傷させるために暴走した責任は、運転した者にあると考えるのが普通だろう。仙台地裁は死傷の責任をレンタカー会社に負わせたことになる。それでは、「人に責任がなくてトラックに責任がある」と判決したに等しいものだろう。レンタカー会社もトラックを壊されたりして、被害を受けた側の1人だろう。さらに事件で死亡した責任まで負わされる。裁判の焦点となった運行供用に関して、運行にはレンタカー会社に責任があるにしても、このケースでは、運行ではなく「凶行」なのだ。

私は、そのレンタカー会社とは何の関係もないが、トラックを貸したレンタカー会社に同情せざるを得ない。同社に落ち度があったのだろうか。同社は、使用目的や本人の携帯電話番号まで調べてトラックを貸し出していたのだ。そもそも、損害賠償を請求する先がその運転者でないのはどうしてだろう? その運転手に支払能力がないためだろうか? 

支払能力はともかく、事件の責任の所在は、「だれが悪いことをしたか、何が悪かった」によるわけで、「だれに支払能力があるか」ではないだろう。だれが悪いかといったら、このケースでは、ほとんど100パーセント、故意に暴走運転をした運転者が悪いのだ。限りなくゼロに近い要因の中に、暴走に使うことを見破れずに運転者に貸し出したレンタカー会社と、アーケードにトラックの進入を防ぐ対策をしていなかった道路管理の市当局に責任があるだろう。

 

車という高価なものを所有していながら、あまり使わずに車庫に長く停めている人も多いと思う。たまにしか使わないような人は、レンタカーや、リースで車を使うのがいいだろう。特にトラックなどは、一つの車を共用し、必要なときに使うことで、借りる側、貸す側ともに、経済的に、効率的に運用できる。アメリカなどでは、レンタカーのシステムがよく発達していて、ビジネスで顧客先に行くときも、個人的な旅行で遠方にいく際にも、レンタカーがよく利用されている。地方の空港のそばには、広大なレンタカーの駐車場があるのをよく見かける。レンタカーは、かなり公共的な交通手段になっているのだ。日本でも、人々がもっとレンタカーを利用してもいいし、多くの人が利用するようになれば、さらにレンタカーの使いやすさが向上し、便利になるだろうと私は考える。

しかし、司法がそんな暴走の責任までレンタカー会社に負わせるのでは、レンタカーの業界が萎縮してしまうだろうし、警戒感を持った対応が広がり、利用する側にも変な影響が及ぶ。レンタカーの契約書に、「私はこの車で暴走行為は一切いたしません」などと一筆書かされたりして……。そんな一筆が自暴自棄になった男の暴走を止められるとは、とても思えないが……。

こんな判決では、損害賠償金を受け取るもの以外、だれもが納得できないだろう。被害者側としても、再発防止を願っての訴訟だと思うが、レンタカー会社に金を支払わせるだけでは何の再発防止策にもならない。

6月8日、同じような事件が東京・秋葉原の歩行者天国で起きてしまった。派遣先で解雇を言い渡されたことが一つのきっかけとなり、男がレンタカーの2トントラックを走らせ、歩いていた人々の中に突っ込んだ……。

 

*1. 当時、無職、38歳。3人を死亡させ、4人に重傷を負わせた。

 

 

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