専制化するロシアの選挙制度                                        岡森利幸   2007/12/07

                                                                      R2-2002/2/23

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2007/4/16人びと面

ロシア最高裁は13日、野党「ロシア社会民主党」の解体を命じた。01年に同党を結成し、04年9月まで党首を務めたゴルバチョフ元ソビエト連邦大統領は、「我々の法制度では、都合の悪いもの(政党)は難癖をつけられ、整理されてしまう」と、党の解体を批判した。04年12月に改正された政党法で、連邦構成体の半数以上に支部を持ち、それぞれに500人以上の党員がいなければ、政党としての登録が認められなくなった。

毎日新聞朝刊2007/11/5人びと面

露下院選、与党圧勝の勢い。

議席獲得には7%以上の得票が必要で、与党「統一ロシア」と共産党以外は厳しい状況にある。野党勢力の「もう一つのロシア」は政党登録されなかった。

毎日新聞朝刊2007/12/1人びと面

ロシア下院選は今回から小選挙区が廃止され、全450議席を比例代表制で選出する仕組みに改正された。新制度について、中央管理委員会のチュロフ委員長に聞いた。

([民主主義が成熟]という見出しの下で、以下の話)

「比例代表制に一本化したのは、より進んだ議会制民主主義に移行したということだ。……」

毎日新聞夕刊2007/12/3まち面

ロシア下院選、与党地滑り的圧勝。反プーチン派は(各党7%を下回るため)全滅。

こうして議会の翼賛化はいっそう進み、体制の安定とは裏腹に、プーチン大統領とその側近が恣意的に政局を動かす「制度上はきわめて不安定な体制」(イラリオノフ元大統領顧問 *1の言葉)が今後のロシアで強まりそうだ。

ロシアの議会の選挙制度は、比例代表制のみである。選挙区がなく、比例代表制だけだというのは、ロシアという世界一広大な面積を持つ国なのに、それぞれの地域が、それぞれの声を代表するような候補者を出すこともできないだろう。地方の声を無視するような、中央集権的な政府になりうるものだ。

比例代表制では、政党間で競うだけの選挙で、政党への投票率によって議員数が割り当てられ、政党の本部が決めた候補者のリスト上から順に当選が決まってしまう。もちろん、無所属の候補者が当選することはありえない。候補者の一人一人が国民に信任されたわけではなく、政党の本部が選んだ候補者だけが当選するものだ。党の本部には絶対に逆らわないような、数を合わせるための人たちしか名簿には載らないという問題がある。

一番問題なのは、7%という数値だろう。得票率7%に満たなければ、その政党は一人も当選者を出すことができない仕組みだ。少数派の政党は、ばっさり切り捨てられる運命にある。野党の中では、選挙という土俵の上にもあがることさえできなかった党もある。票の7%を得たならば、改選数が450として比例計算すると、その党では31人が当選してもいいところだが、ロシアでは0人なのだ。少数派政党に対して恐ろしくハードルを高くしている。この比例代表制では大政党が有利になるように最小得票率が定められているのだから、フェアではない。(どこの国の比例代表制でも、多かれ少なかれ、その傾向がある。)

この選挙制度では、批判勢力の芽を摘み取るには好都合だろう。ゴルバチョフが嘆いた『政党法』にしても、独裁者を目指す者が考えそうな法律だ。

これでは民意を国政に反映することはできないから、これが、チュロフ氏(プーチンの側近の1人)が言うように、成熟した民主主義とはとても思えない。ロシア伝統の一党独裁主義というべきものだろう。アンバランスな政治勢力が台頭するしくみを作っている。今回の下院選についても、一方的な与党の勝利になってしまった。「制度上は、きわめて不安定な体制」という意味は、専制的すぎる政府がバランス感覚を失って、国全体がどっちへころぶか分からないような危うさがあるということだろう。中央が地方を抑えつける構図となり、少数派や批判する側には、ますます圧政が加えられるだろうし、国際上、他国にとっても、ロシアは厄介な、大国きどりの利己主義的な国になりつつある。ますます協調性のない国になるだろう。

結果的にロシア国民の多くが、経済的に好調な現状に満足し、より強いロシアを願望したようにみえる。しかし、私には、プーチン大統領とその側近に国政を託すことには、疑問がいっぱいだ。彼らは、ロシア全体、あるいは世界のためと考えているのではなく、自分たちの権力を維持・強化したいからという個人的な欲望のためと思われるからだ。

強硬な手段を使って反対派を押さえ込むやり方を見れば、それは明らかだろう。今回の下院選の際にも、そんなやり方が目立つ。

毎日新聞夕刊2007/11/26まち面

露の民法TV取材班が、24日未明、ロシア南部のイングーシ共和国で中心都市ナズランの宿泊先ホテルから武装集団に一時誘拐され、暴行を受けた。

ロシアの独立系民放テレビ「レンTV」の取材班は、この日もナズランでの反プーチンの大規模な住民集会を取材する予定だった。同局は前日に取材班が収録した映像を放送した。その中で、治安部隊が住民を警棒で殴るなどしてデモを粉砕する様子が収められていた。レンTVは当局批判の姿勢を貫く唯一のテレビ局で、プーチン政権が支配する主要メディアはこの様子を一切伝えていない。

The Japan Times 2007/12/26 World

反体制派の候補者ファリド・ババヤフ氏を射殺されたと、その所属政党のヤブロコ党が発表した。彼は、ロシア南部のダゲスタン共和国の首都マハチカラで水曜日(12/26)の夜遅く、正体不明の銃撃手たちによって彼のアパートの通路のところで銃撃され、死亡した。

ファリド・ババヤフ氏は人権侵害に対して発言し、反対勢力を組織し、(中央政府の息のかかった)共和国政府を批判していた。

ロシア政府が、その武装集団や射撃手たちを取り締まることはしないだろう。なぜなら……。

 

*1 アンドレイ・イラリオノフ: プーチン大統領の経済政策顧問だったが、国家による統制経済に批判的な立場をとり、解任された。

 

 

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        防衛省事務次官の権力