採用予定者の素行調査                                                 岡森利幸   2007.10.24

                                                                     R1-2007.10.26

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/10/5社会

札幌市が100%出資する財団法人「札幌市下水道資源公社」が、職員を採用する際、受験者の借金や前科・前歴などを調べる「素行調査」を民間調査会社に委託して行っていたことが分かった。

4日の定例市議会本会議で市議から指摘され、副市長が「選考の一助として行った」ことを認めたうえで「不適切だった。たいへん遺憾で、お詫びする」陳謝した。

素行調査は、@学歴・職歴、A消費者金融などの借り入れ状況、B前科・前歴――を調べるもので、職員の公募採用を始めた92年度から続けてきた。

今年度は、筆記・面接試験を通過した受験者2人を対象とし、調査会社に委託費26万4000円を支払った。

札幌市公社が、職員採用時に素行調査を民間委託して行っていた。副市長は、それがばれてしまって、「(部下が勝手にしたことで)たいへん遺憾だ」と他人事のようにいっているように、私には聞こえるが、「素行調査」のために予算が組まれて金の支出が認可されていたのだから、その必要性を認めて、調査委託を組織的行っていたことは確かだろう。副市長は「不適切だった」と陳謝したが、そもそも素行調査することは悪いことだろうか。

秘密裏に素行調査される側にとっては、誰でもいやなものである。うそがばれてしまうような人は、特にそうだろう。何もやましいところがなければ、なんでもないことだが、人に知られたくないことはたくさんある。プライバシーとして触れられたくない部分もあるだろう。自分の「素行の悪さ」は多くの人に身に覚えがあることだから、自分が調査されることには反感をもつだろう。

しかし、採用に当たって、本人の発言や記述が正しいかの裏づけをとることは必要で、ことに、採用の必須条件となる項目に関しては最低限必要なことだ。学歴や職務経験、住所などを確かめる必要がある。学歴を詐称する人がいるかもしれないし、採用した後でそれらがうそだと分かっても、世間の目や制度上の制約があるから、すぐに辞めさせるわけにもいかない。さらに、よい人材を選ぶために、より多くの情報を集めることは悪いことではないし、少ない情報だけでは判断を誤る。品行方正な人が求められる職場では特に、素行調査も必要なのだろう。消費者金融などの借り入れ状況を調べるのは、消費者金融に金を借りている人は「危ない」人たちとみなされているからだろう。(金を返すために、熱心に働くかもしれないが……。)

総理大臣が組閣で大臣を選ぶに当たって、事前に候補者の身辺調査が行われているのはよく知られたことである。(ある党では、きちんと調査したら、大臣のなり手がいなくなるらしい。)

不適切だったのは、公費で民間の調査会社に委託したことの余計な支出であるかもしれないし、面接者(人事担当者)が自分で調べようとしなかったことの怠慢であるかもしれない。調査専門の人に任せることには、いかにも丸投げのような、いい加減さがある。金のために雇われた人が、結果だけを求められて、いい加減な調査をしてしまう可能性もあるだろう。それは部外秘のようなものだから、根も葉もないことを報告しても決してばれないだろう。

調査項目として、@学歴・職歴、A消費者金融などの借り入れ状況、B前科・前歴、のような『公的な情報』だけならば、人任せにせず、人事担当者が自分の足で調べたほうが、安上がりだったろう。今年度、受験者2人のために委託費26万4000円もかけたのは、情報料として高いだろう。そこは公的な機関のひとつなのだから、調べることは可能なはずだ。近隣の人たちに本人の素行や評判を聞くにしても、担当者が自分の足で聞いて回る分にはよかったのかもしれない。ただし、近隣の人たちから正しい情報が聞きだせるかは難しいところだろう。

 

職員や社員を採用するに当たって、面接官には、いくつかの制約が課せられている。差別を避けなければならないから、障害の有無、家族環境、身分的なこと、性に関することなどは質問できず、昨今では、当たり障りのないことの質問しかしないという。本人との直接的な面接では、結局、無難な質問で、受験者が回答する話し方や態度を見るだけとなる。それでも、その人の能力や仕事に対する熱意や勤勉さなどが、ある程度分かるものらしい。

本人の申告では、どうしても知りたい情報に限界があり、それが正しい情報であるかの確証はない。履歴書などは、本人がよく考えながら書くもので、就職に不利になるようなことは書かないのが普通である。たとえば、前の会社で懲戒免職になったことなどは、自分からは絶対に言わないし、聞かれても「自分の都合で辞めました」などと答えるだけだ。

特に募集数より応募者が多いような状況では、絞り込んでいかなければならないが、それでは、どうしても採用・不採用を決めるために知りたいと思うような個別的な情報に乏しくなる。どんぐりの背比べ的な状況では、雇うほうも雇われるほうも、当たり外れは時の運のようなことになってしまう。そんなとき、入手可能な「素行」情報が、ひとつの判断基準になってくるのだろう。

ただし、今まで素行が悪くても、就職した後は、まじめに働くようになる人は大勢いるから、そんな評判などは「先入観」になるだけかもしれない。

 

 

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