ノーベル科学者の差別発言                                         岡森利幸   2007.10.23

                                                                     R1-2007.10.26

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/10/20まち面

ノーベル賞のワトソン博士「黒人は知性で白人より劣る」と人種差別的な発言。

講演のキャンセルが相次ぐ。

所属する研究所は、同博士の職務権限を一時停止することを決定した。

毎日新聞朝刊2005/3/17人びと

米ハーバード大学長サマーズ学長が「女性差別発言」をしたのを機に不満噴出し、教授会が不信任の決議を採択した。

サマーズ学長「優秀な科学者に女性が少ないのは生まれつきの性差による」、「数学や科学のテストで、いい点を取る女子学生は男子学生より少ない」

ワトソンと言えば、故クリックとともにDNAの二重らせん構造を解明したことで、ノーベル賞に輝いた、超有名な科学者の一人だ。二項目には、過去に、女性差別の発言で物議をかもしたサマーズ学長の例を参考に示した。

そんな差別的発言は反発を招くことは十分に承知していたはずが、真実を追究する科学者としてのプライドが、そう言わせたのだろうか。

生物は、遺伝子やDNAの違いによって、それぞれ多様性をもっている。それによって能力や資質の違いが現れるのは、仕方のないことだろう。生物学の世界的な権威である博士は、それなりの(科学的な)根拠に基づいて、自分の信念を語ったはずだが、博士が講演でどんな根拠を示したのか、興味深い。知性については、環境要因、特に教育環境に左右されるから、生物学的要因に絞り込んで統計的に結論を出そうとしても、かなり難しいことだと私は思っている。個々のばらつきが大きくて、統計的にわずかな傾向しか示されないだろう。博士の場合、生物学的な一般論ではなく、自説の域を出ていない可能性もある。それとも、知性に関係するDNA上の何かがあるというような確証をつかんでいるのだろうか。

博士は、世の中の批判に対して、「真実を語って、なぜ悪い?」と思っているかもしれない。特に科学者は、真理を解き明かさなければ気がすまないのだ。

それが正しく真実であっても、人種差別的な言行は、この社会をギクシャクさせ、対立を深めるから、はっきり『悪い』のだ。それを「学説」として発表することも、この世界でははばかれるだろう。たとえ、黒人は知性で白人より劣ることが事実であると確信していても、公には口にしないのがこの世界のルールだろう。それを言ったら、真理かどうかというより、微妙な倫理的問題になりそうだ。

それぞれの人がそれぞれの感情の作用で、他民族を嫌悪し、低劣な人を侮蔑する感情をもつことがあるが、顔に表したり態度に出したりしないのが一般的なルールになっているのと同様だろう。

 

ただし、知性が優れていることは、ひとつの利点かもしれないが、それがすべてではない。知性が優れていることで慢心したり、自分の知性が劣っていることでひがんだり、知性の劣った他人を見下したりする必要はないのだ。知性が優れていることが「人間」として優れている、あるいは「生物」として優れていることに単純には結びつかないのが、この世界だろう。長い地球の歴史から見れば、それはひとつの(現時点での、その場限りの)環境に適応するための能力だろう。人々の「優れた知性への思い入れ」こそが、信仰のようなもの、あるいは偏見なのかもしれない。

 

 

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