農薬入りギョーザはいかが?                                   岡森利幸   2008/2/1

                                                                    R2-2008/3/1

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2008/1/31一面・社会面

このギョーザを生産した「河北省食品輸出入公司天洋食品」の工場で約3年前、今回と同じ毒性の強い有機リン系薬物「メタミドホス」の混入が問題化していたことが31日に分かった。工場の元従業員の女性(45)が毎日新聞に明らかにした。証言によると、この工場ではメタミドホスは白菜やキャベツなどから検出されたという。また、この女性の夫によると、その前後にも同工場で加工・製造されたギョーザからゴキブリや紙くずが発見されたこともあったといい、行政当局もこれを確認したという。女性は昨年末に同工場を解雇された。

中国メディアは(日本で大騒ぎになっているこの事件を)一切報道していない。

中国では、野菜に農薬が付いていることは当たり前のこととされているようだ。この農薬中毒事件に関して、テレビで中国の人々の対応振りが紹介されていた。その中で、主婦たちは何度も野菜を水洗いしているというし、農薬を落とすための洗剤も家庭に一般的な商品として出回っているという。洗剤は、食べ終わった食器を洗うものと私は思っていたが、中国では食べる前に使われていることになる。

見た目だけよい野菜が出回る仕組みになっているのは、どこの国でも同じ事情だろう。虫に食われたような野菜は、特に日本の市場では絶対に売れないから(日本の消費者は虫一匹見つけようものなら、販売店にその食品を突っ返してヒステリックに謝罪を求めるものだ)、日本向けの野菜には一部の農民が特別に殺虫剤の農薬をたっぷりかけているに違いない。自国産の野菜を取り扱う中国の業者がそれを知らないはずはない。つまり、野菜に農薬が付いていることを誰もが知っていることなのだ。今回検出されたのは、毒性が強いことで、日本では使用が禁止されているメタミドホスだ。私は、ギョーザに混入したそれは農作業で野菜に振りかけられた残留農薬である可能性が高いと考える。

その製造元とされる中国の工場、天洋食品では、ギョウザの原料の野菜から農薬を落とす処置をしないままに製造していた疑いが強い。野菜にたっぷり農薬が付いているかも知れないのに……。同じ工場で3年前にもメタミドホスが検出されたというのに、問題がぜんぜん解決されていないのは、お粗末過ぎる。たぶん、それは今回と同じ要因だろう。何も対策が取られず、放置されていたわけだ。

製造していた彼らには、「農薬が材料にすこしぐらい付いていても、ばれっこないし、農薬を洗い落とさない方法で安く作れるのだ。洗うための水の節約にもなる(*1)」という意識があったのだろう。「ギョウザの具材のように切り刻んでしまえば、ごちゃ混ぜになって分からなくなるし、農薬の濃度も薄まるだろう」という考えもあったかもしれない。(北海道のどこかの食肉加工業者のように……。)

確かに、日本の受け入れ側の税関や業者は、生鮮野菜は別として、加工食品に対しては農薬の有無をテストしていなかったし、安いからという理由で仕入れていたのだ。消費者がそれを食べ、重度の中毒患者が出てから、ようやく(約一カ月もかかって)劇物の農薬を突き止めたのだ。

メタミドホスの使用を禁止せずに黙認していたような政府(*2)にも問題があるのだろう。すくなくとも、日本政府のように、健康被害がすぐにばれないような種類の農薬を使うことを農民たちに奨励すべきなんだろう。

私は農薬入りの餃子より虫入りの餃子を好んで食べよう。ゴキブリや紙くずは論外として、野菜にたかったアオムシなら許せる。

 

*1 水資源が乏しいという事情があったのかもしれない。

*2 中国政府は去年1月にメタミドホスの使用を禁止したが、まだ市場に出回っていたという。

 

毎日新聞朝刊2008/2/6一面・社会面

中国製ギョーザ、別の殺虫剤(ジクロルボス)検出

警察当局は、ジクロルボスが(具材よりも)袋内のギョーザの皮から高濃度で検出されたことから、人為的に袋詰め前に混入されたとの疑いを強めている。工場では、ジクロルボスもメタミドホスも購入・使用していないことから、外部から持ち込まれた可能性が高い。

 その後(24日以降)に判明した農薬の検出箇所や状況証拠により、ギョーザの製造工程あるいは流通過程でだれかが故意に外から持ち込んだ農薬を食品に混入させた可能性が高いことが分かってきた。特に包装工程での混入の可能性が高いという。そんな悪意のある人(あるいは人々)がいたとは信じがたいというのが、私が推理を外した言い訳だ。具材の野菜についても、洗浄工程があるから、大半の農薬は洗い流されると信じよう。なお、ニュースに出てくる専門家の中には、農薬が高濃度(基準よりも数百倍)で検出されたから残留農薬ではないだろうという言い方をしている人がいるが、散布方法によっては高濃度の農薬が付くことはありうるから、それが残留農薬ではない根拠にはならないだろう。生産者が基準を守って散布しているという保証はどこにもない。

 犯人が毒物を日本向けの食品に入れた動機は何だろう。一説には、40歳以上の作業員に一律に解雇を言い渡し、労働争議にも発展するなど、利益偏重主義的な会社側のやり方に恨みをもった従業員が腹いせにやったという……。それが一番もっともらしい。

 

その後、中国メディアも事件を報道し始めたが、それは事件を直接報道するものでなく、加熱する「日本の報道ぶり」を報じたものだった。誤訳問題に興味があったので、以下に追記しよう。

毎日新聞朝刊2008/2/7社会面・

テレビ朝日が中国紙の見出し「日媒体炒作毒餃子事件」を「日本メディアが捏造」と訳して報道したが、外務省は「炒作」は『大げさに書きたてる』という意味で、捏造は誤訳と話している。テレビ朝日は「誤訳ではない」と反論、「口語表現では『捏造』という意味もある」という。

外務省の解釈はだいたい当てにならないので、私は辞書で「炒作」の意味を調べてみた。小学館発行の「中日辞典第2版」北京・商務印書館/小学館−共同編集では、以下の意味が示されている。

1.株の投機的売買

2.ある人物や事物を売り出すためにマスコミを通じて何度も宣伝する。

 

この場合は、当然、後者の意味だろう。つまり、『意図的にメディアが騒ぎ立てる』と解釈できるだろう。やはり、捏造というよりも、『大げさに書きたてる』という意味に近いようだ。ただし、「事件をでっちあげた」という意味も捨てがたいから、真の意味を中国の人に聞いてみたい。

中国は、間接的にメディア批判の形で毒ギョーザ事件を報じたことになる。日本のメディアが大した根拠もないのに憶測で「中国での混入説」を広めていると言いたいのだろう。中国の生産ラインで農薬が混入したとするのは「風評」だと非難する論調である。『意図的に騒ぎ立てる』のは、中国メディアの方が一枚上手だろう(皮肉を込めて)。それにしても、決して自国の非を認めようとしない頑迷さを見せ付けている。それでは原因究明はおぼつかない。

 

 

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