無人機が空から人を襲う                                         岡森利幸   2008/3/23

                                                                    R1-2008/3/26

以下は、新聞・雑誌記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2008/2/29国際面

パキスタン北西部の南ワジリスタンで2月28日、無人飛行機から発射されたミサイルが民家を直撃し、住民ら13人が死亡した。現地からの報道によると、死者には複数のアラブ系外国人が含まれるという。

米国はアルカイダのアラブ系メンバーがその地域を拠点にしていると指摘している。米軍によるとみられるパキスタン国内へのミサイル攻撃は1月29日にもあり、アルカイダ幹部らが死亡した。パキスタン政府は攻撃自体を否定。

毎日新聞朝刊2008/3/1国際面

パキスタン南ワジリスタンで2月28日、民家が空爆され13人が死亡した事件で、パキスタン国軍は29日になって「空爆でなく、テロに使おうとした爆薬が誤って爆発した事故」と発表。

「無人飛行機からミサイルが発射された」とする付近住民の証言がある。

航空ファン2008年2月号、『イラクやアフガニスタンにも投入される無人特殊作戦機』岡部いさく記

2001年10月のこととされるが、武装型プレデターが、タリバンの最高指導者オマール師を乗せた車両が首都カブールから逃走するのを発見した。プレデターのカメラが捉えた高解像度画像から、車両のナンバープレートの文字を読み取ったことで、オマール師の車両と識別されたという。しかしこのときにプレデターのコントロールを担当していたCIA要員は、オマール師のような重要人物に対する攻撃の可否を判断する権限がなく、……(結局)千載一遇の好機を逃がした。

「無人飛行機からミサイルが発射された」のでは、パキスタン国軍としては、何か都合が悪いのだろう。軍隊の発表は、いつの世の中でも当てにならないものだ。(軍隊の発表をそのまま伝えるようなメディアも……)

この場合、「無人飛行機からミサイルが発射された」ことの方がずっと信ぴょう性が高い、と私は考える。アラブ系の人がアルカイダとみなされて、まったく無関係な住民たちとともに爆殺されたのだ。負傷者の数が詳しくは伝えられていないが、死亡者の数の数倍に上るはずだ。空爆の威力はすさまじい。どっちがテロなのか分からないすさまじさだ。

この無人飛行機(UAV, unmanned aerial vehicle)は、アフガニスタンで「平和維持活動」をしているアメリカ軍が飛ばしているものの一つだろう。パキスタンとしては、隣の国から飛んできているUAVを表向きには容認していない。他国の軍用機が領土侵犯していることでもある。パキスタン国軍としては面子があるから、「無人飛行機からミサイルが発射された」ことを否定しているのだ。住民が巻き添えになった空爆から、政府側として責任逃れするためでもあろう。

近年、無人機は目覚しく発達している。特に軍用に関しては、初期の偵察目的から、対ゲリラ戦略の特殊作戦用に攻撃能力を備えるものにも発達している。航空ファン2008年2月号によると、アメリカ軍が保有する攻撃型の無人機には、次のような機種がある。

MQ−1 プレデター(偵察専用機から2002年に武装化された)

MQ−9 リーパー(プレデターより大型の攻撃機。高度40,000ftで20時間滞空可能)

コード名の先頭の文字「M」は特殊作戦機を意味する。それぞれ両翼にAGM−114 Cヘルファイアー対戦車ミサイルを搭載可能になっている。そのミサイルは戦車だけでなく、走っている乗用車を破壊することもできるのだ。さらに、リーパーにはGBU レーザー誘導爆弾も搭載可能だ。ピンポイントで地上の建物を破壊できる。その攻撃を受ければ、建物の中にいる人はほとんど即死だろう。

 

無人機が偵察機能と攻撃機能を併せ持っていれば、ターゲットを発見次第、直ちに攻撃できる。空から高感度カメラやレーダーを使って長時間捜索することもできるし、上空に待機し、地上からの情報(密告など)を得ると直ちに目標を定め、その目標に逃げる暇も与えず、攻撃を仕掛けることもできる。無人機の一番大きいメリットは、搭乗するパイロットが不要であることで、墜落の際にその人命が失われたり、捕虜になったりすることがないことだ。人が搭乗しないことで、小型で、滞空時間の長い機体を設計することができる。機体が小型で、エンジン音も静かなので、地上の人の目や耳では気づかれにくい。

無人機を操縦する地上の兵士は、基地の中でパソコンのような機器の前に座り、テレビゲームのように操作すればいいのだ。飛行機に搭乗するパイロットとでは疲労度も断然違うだろうし、自分は後方にいて身の危険が少しもないところも大きいだろう。彼らは、ゲーム感覚で、無人機に攻撃の手順を指示するだけだから、被害者に対する罪の意識も薄いのではないだろうか。

身をさらして前線で行動する兵士の多くは精神的・神経的にも傷を負うことが多い(*1)のだが、ミサイル発射を無人機に指令する操作などはかなり気楽な作業だろう。大きな戦果を上げたとしても、それは無人機の手柄になるのかもしれない。

 

*1. 毎日新聞夕刊2007/3/13によると、イラク・アフガンからの米帰還兵の1/4(2万5000人)が心の病をもつ。

 

 

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