中国ジャーナリズムの精神                                        岡森利幸   2008/3/30

                                                                    R1-2008/4/11

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2008/3/26社会面・

虚偽報道するな、中国報道団体が非難。

中国国営新華社通信(電子版)によると、中国の報道関係者による全国組織「中華全国新聞工作者協会」が26日、チベット自治区ラサでおきた暴動に関する西側メディアの報道について、具体的な事例をあげて「歪曲、虚偽報道を行っている」と強く非難する声明を出した。

また協会は、「一部の外国同業者は、真実性、客観性、公平性という基本的ジャーナリズム精神に反している」と強く非難した。

中国の報道関係者は西側メディアの事例をあげつらう前に、さっさと現地に行って取材してほしい。そんな表明は、彼らが真のジャーナリストならば、恥ずかしくなって自己嫌悪に陥りそうなものだ。一方の西側のメディアにとっては、「基本的ジャーナリズム精神をあんたに言われたくないよ」という気持ちになるだろう。

「中華全国新聞工作者協会」とは、中国のジャーナリストを代表するかのような名前を冠しているが、偽装されたジャーナリスト集団とみなすべきだろう。つまり、その協会は政府の広報マンとしての役割を持たされ、政府の言いなりになって、新華社通信を通して発表したのだろう。言い換えれば、政府の主張を代弁させられている「悲しい」団体なのだろう。ただし、「中華全国新聞工作者協会」の実体はほとんどないのかもしれない。その主張の主体が彼らでなくて中国政府であることは明白だから、中国政府が中国ジャーナリスト集団の総意であるかのような名前を使ったと理解する方が考えやすい。

 中立的な立場に立っていない新華社通信というメディアが、他のメディアに中立な立場で報道しろというのは、明らかに自己矛盾である。なにしろ、新華社通信というのは、政府の金で運営されているだけに、中国政府のためのメディアであって、当局の報道統制がもっとも行き届いており、政府の都合のよいことしか報道していないのだ。政府の言い分をそのまま発信する道具に使われている。公正も何も、政府にべったりの偏向報道をしている張本人なのだ。

だから、日本のメディアが、裏づけもとらずに、新華社通信が出した記事を真に受けて報道したり、そのまま引用したりするのは、かつて日本で「大本営発表」をうのみにして報道したのと同じ意味になる。

国営メディアであろうが、なかろうが、中国では、絶大な権力をもつ当局が、常にメディアに目を光らせ、報道規制を厳しくしてきた。そのための専門機関もある。その規制の厳しさは中国ジャーナリスト自身が一番よくわかっているはずだ。政府を批判するようなメディアには、すぐに発行停止などで押しつぶしてきたし、編集長などのリーダーシップを持った人々に責任をとらせるかたちで、次々に解任・降格させてきた。政府に都合の悪いような論評には、出るくいのごとく、叩いてきた。

 中国政府の、今回の「チベット暴動」に対する強硬な姿勢は、弾圧といってもいい。騒ぎ立てる素手の民衆たちには武装警官(ほとんど軍隊と同じ)を動員して鎮圧に当たらせた。治安当局は、実弾による武力行使も辞さなかった。一般的に、デモや暴動の鎮圧にはゴム弾を使うのに……。武力行使に抗議するデモに対しても、発砲して追い散らす(民衆はクモの子を散らすように逃げまくるから、確かに、デモ隊を追い散らすには銃を使うことがいちばん手っ取り早く有効だ。その後に残された死体の始末に困るけれど……)。中華思想に凝り固まった政府が、チベットを独立させないように、その支配下に置くために、非難されるようなことをあえてやっている。そんな圧政がまた、チベット民衆の怒りや恨みをかっているし、人々の不満を長年に渡って募らせてきたのだ。

 ここでも、中国政府はその鎮圧のやり方で国内的な批判や国際的な非難を受けないようにするために、徹底した報道規制を敷いていることが伺われる。武力行使による死傷者の数など、極端に過小に発表しているし、当事者の口封じにやっきとなっている。チベット問題など、ベールでおおい隠してしまいたいのだろう。中国政府に都合の悪い報道は、すべて虚偽報道なんだろう。

 しかし、どんなに隠そうとしても、ネットワークの発達した現代では、情報は国際的に漏れてしまう。それを虚偽だ、歪曲だと言い張るのだから、中国の情報隠しは悪質であるし、見苦しい。なんといっても、国内で何が起きているかの真実をほとんど知らされない中国一般国民が一番不幸である。

 

 

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