サブプライムローンの思惑                                         岡森利幸   2007.8.12

                                                                     R1-2007.9.1

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/7/21経済面

FRBのバーナンキ議長は、低所得者向けの高金利の住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付きで、このローン債権を組み込んだ金融商品の損失が最大1000億ドルに達する可能性があることを示した。

毎日新聞朝刊2007/7/26経済面

野村が1〜6月期で、700億円損失、サブプライムローンからの撤退を検討する。

サブプライムローンとは、返済能力の低い低所得者に高金利で融資する住宅ローン。融資当初だけ金利水準を低く抑える変動金利型のため、FRBの利上げでローン金利も上昇、返済できなくなるケースが続出している。

毎日新聞朝刊2007/8/11総合・クローズアップ

世界同時株安、米住宅ローンで負の連鎖、巨額損失。

サブプライムローンは所得や信用力、返済能力の低い個人向け資金貸付。

当初の金利は低いが、数年後には年20〜30%に跳ね上がる。(サブプライムローンは)00年には米住宅ローン全体の2%台だったが、06年には13%台に急増し、残高は1.3兆ドル(約153兆円)に上がる。FRBの利上げでローン金利も上昇した。低所得者向けといわれるが、実際は住宅価格上昇を期待した投資家が借りているケースも多い。

最大1000億ドルの損失というから、めちゃめちゃすごい損失だ。それは、日本のバブル崩壊のとき(1990年前後)、主要銀行が抱えた不良債権に匹敵するようだ。サブプライムローンの焦げ付きがきっかけだという。サブプライムローンとは、低所得者向け高金利住宅ローンと訳されることが多い。高金利だから利ざやも大きかったはずだか、貸し倒れになるケースが続出したのだ。貸し付け対象の住宅を担保にしているから、貸し倒れになっても、通常は、貸す側に損失は発生しないはずが、その住宅が売れなくなると、回収が困難になり、損失になる。連鎖的な損失を含めてそれが1000億ドルに達するほど、数多くの人が返済不能になったのだから、すさまじい。

サブプライムローンの焦げ付きが急増したのに端を発し、関連する金融機関が莫大な損失を報告し、それがさらに連鎖的な金融不安を招いた。直接融資した金融機関だけでなく、サブプライムローンを組み込んだ金融商品も連鎖的に損失を出し、一般の投資にも影響が広がった。世界的な金融機関の損失報告で市場が大きくゆらぎ、全面的な株安を招いた。

野村だけでなく、日本系の金融機関のいくつかが、同様にアメリカのサブプライムローンの関連事業に参画し、損害をこうむったというニュースが伝わってきている。三井住友、三菱UFJ、あおぞら銀行……。日本でバブルを起こした張本人たちが、今度はアメリカで、懲りもせず住宅投資ブームにおどって、高金利に目がくらんでは、また(つまづ)いたのだろう。(皮肉を込めて)

それはともかく、テレビニュースなどで、サブプライムローンで購入され、返済不能になって売りに出されているという家々の映像を見たとき、「これらがアメリカの低所得者向けとは、なんと豪勢な住宅だろうか。それにひきかえ、我が家は日本の平均的なレベルの住宅であるはずなのに……」と、私は感嘆してしまった。

 

住宅ローンには、手堅いイメージがある。一般勤労者が一生のうちで一度、できるだけ安い金利でローンを組み、十年以上の長期間、こつこつと返済していくものだ。突然収入がなくなるような非常事態でもない限り、完済するのがふつうだろう。アメリカでは仕事で首にされたとしても、次の仕事が見付けやすいから、住宅ローンの支払いが滞るのは、一般勤労者にとって、よほど異例のことであるはずだ。

異例のことが、なぜそんなに頻発してしまったのかは、サブプライムローンを組んだのが一般の低所得者というよりも、その多くは、自分自身は金をもたない投資家だったからだと私は推察している。金利がやたらに高いから、低所得者はおいそれとは借りる気にならないだろう。ある種の思惑がなければ……。

支払いが確実な人は、金利の低いプライムローンが組める。金利が低いから、支払いが確実になるというプラスのサイクルに入れるのだが、支払いが不確実とみられる、信用実績のない人は、まともな住宅ローンを組むことはできない。アメリカ社会では、人々は経済力の信用度によって格付けされているのだ。しかし、そんな人たちにも住宅購入を推し進めるために、金利の高いサブプライムローンが用意された。それは1990年代の住宅建設業界の不況がきっかけで、融資基準が緩められた結果だ。低所得者向けの融資というより、信用できない人向けの融資がサブプライムローンなのだ。信用度が低くても、サブプライムローンならば、借りられる。つまり、サブプライムローンとは、いわば高利貸なのだ。返済が不確実な人でも、高利の条件で貸してくれるシステムだ。貸す側にとって少しぐらいのリスク(返済の滞り、債務不履行)は、高利でカバーできるはずだった。つまり、住宅購入融資の条件が甘くなり、金のない人であっても希望すれば、多額な住宅購入資金が融資された。

高利の住宅ローンであっても最初の数年間は低利に抑えられるから、借り手にとっては、借りやすいしくみになっている。住宅の値上がりが続いているときは、なおさらうれしいしくみだろう。ローンで買った家が、その間に値上がりし、購入したときの価格以上に価値が高まれば、黙っていても利益になるのだ。ただし、高値で売れたらという前提条件がつく。サブプライムローンが急激にふくらんだのは、住宅価格の高騰(住宅投資ブーム)が背景にあったからだ。05年前後には、10%を越す価格の高騰があった。それなら数年経てば高値で売れるという思惑を多くの人がもったことだろう。貸す側も、特に資金力のある日系の金融機関は、高利をよいことにして、ほいほい貸してくれた。信用度の低い人たちに住宅ローンという大金を融資することの甘い見通しが、貸す側にあった。

その融資が後押しして、人々が盛んに住宅を求めている時期には、住宅の需要の高まりにより、住宅値段の高騰に拍車がかかる。00年からのサブプライムローンの急激な伸びは、思惑の相乗効果が働いたことによる。住宅価格の値上がりの思惑で、自己資金がないのに住宅を買い込む人々と、高利で甘い汁を吸おうとする金融機関が狂想曲を(かな)でた。金融機関は、投資や融資のためというより、単に高利貸として立ち回った。

しかし、それらの投資家が住宅を手放し始め、住宅供給が過剰気味になったとき、需要が頂点に達する。バブルの崩壊となる。それは2006年前半だったとされる。住宅の値段も急激に下がるだけでなく、購入した住宅が売れなくなる。すると、投資家には高い金利だけがのしかかる。住宅ローンが払えなくなった投資家から、貸し手が担保の住宅を取り上げて売ろうとしても、供給過剰ぎみの住宅に買い手がつかず、多くは不良資産化してしまう。

そもそもサブプライムローンの利率が高すぎた。こんな負担の重いローンでは、「住んだここち」がしないはずだ。インフレ気味の経済環境であっても、年20〜30%の利率では、よほど稼ぎのよい人でないと、支払い続けるのは無理だろう。10%でも相当きつい。消費者金融の利率と同じだ。こんな高金利のローンでは、多くの人が支払不能になるのは目に見えている。しかも、借りる側は、定職を持たないような、信用度の低い人たちだ。ブームが過ぎれば、その多くの人が住宅を手放すのは自明の理だろう。投機をもくろんだ人たちならば、どっちみち手放すつもりで購入したものなのだ。ローンで手に入れたものをローン会社に引き取らせるだけだ。住宅に住むことよりも、住宅の値上がりを望んでいただけの、金のない投資家たちは、元の借家住まいにもどるのだろう。

 

 

一覧表に戻る  次の項目へいく

        あいさつの背景