あいさつの背景                                                            岡森利幸   2007.8.3

                                                             R1-2007.8.6

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/7/24社会面・憂楽帳・『あいさつ効果』堀内宏明

社宅から賃貸マンションに越した時、若い奥さんから次々に「こんにちは」と会釈され、うれしかった。住民から声をかけられた不審者が行動を抑制する「あいさつ効果」というものがあると後で知った。私は怪しまれていたのかもしれない。……

毎日新聞朝刊2007/7/31くらしナビ・『女の気持ち』関口真由美

私の娘は27カ月の話をするのが大好きな時期で、特にランドセルを背負った子供を見ると、必ずと言っていいほど「こんにちは」と声を掛けます。

公園で娘が3人組の女の子に近寄ってあいさつしたときのこと、

「気持ち悪い! 逃げろ!」と言って彼女らは娘から離れました。……

あいさつに興味をもって引用してみた。あいさつの言葉には、大して意味はなくても、コミュニケーションのきっかけになる役割があるし、仲間同士を確認しあう意味があるものだ。あいさつをうまく交わせないような相手なら、そいつは仲間でなく、部外者(敵)なのだ。

第1話の『私は怪しまれていたのかもしれない』のところを読んで、私は一瞬笑ってしまった。好意をもたれているという思い込みが、実は不審者として見られていたというのだから、ジョークとしておもしろい。しかし、不審者を警戒している奥さんたちの気持ちを考えると、笑えなくなる。奥さんたちは不審者の影におびえているのだ。ひとつの社会不安なのかもしれない。不審者が事件を起こしてメディアに取り上げられるのは、氷山の一角であって、身の回りに不審者が出没することが、近年、多くなっているのだろう。

「あいさつ効果」とは、私は知らなかったが、科学的にまだ仮説の範囲内のことらしい。確かに、人は誰でも声をかけられたら、社会の一員としての自覚が呼び()まされそうだ。それによって反社会的なことをするのは自重するのかもしれない。しかし、多少の効果があるにしても、犯罪防止のためにあいさつするのは、あいさつの本筋から外れているものだろう。

 

2話では、あどけない女の子が近寄って「こんにちは」とあいさつしたのに、「気持ち悪い」は無いだろう、という抗議の気持ちが、その後に語られていた。

女の子たちは、常日頃から親や先生たちに、

「気安く近づいて来る人は、下心のある人たちだから、気をつけなさい」などと注意され、

「街で知らない人に声をかけられたら、無視するか、『知りません』と答えなさい」と教え込まれているのだ。

彼女たちにとって、あいさつは同年代の限られた仲間内でしかありえないものらしい。知らない人には絶対に声をかけないような女の子たちだから、無邪気な幼児であっても、「こんにちは」と声をかけてくるのは、異様なこととして受け取ったのだろう。見知らぬものからあいさつを受けて、「気持ち悪い」は正常な感覚のようだ。

しかし、それでは正常なコミュニケーションが成り立たない。彼女たちは、あいさつを受けたのに返事もしないような無礼な人間になり、道を聞かれても、知っているのに「知らない」などとうそをつくのだろう。それが身を守るための方便なのだから、しかたがない。(特におじさんたちは、女の子に道を聞かないほうがいい。「気持ち悪い」以上の反応があるかもしれない。)

そんな彼女たちがおとなになると、「あいさつ効果」のために、知らない人にあいさつするようになるのだろう。

 

 

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