交通違反の見せしめ的懲戒                                     岡森利幸   2007.7.22

                                                                     R1-2007.8.6

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/4/26一面

酒気帯び運転基準値(呼気1リットル当たり0.15ミリグラム)

警察庁調査で、視覚反応の鈍化があるが、個人差が大きく、厳格化は見送り。

毎日新聞夕刊2007/7/11身近・地域(地方面)

神奈川県教委が、平塚市立中学の教頭(53)を酒気帯び運転で懲戒免職を初適用。同県教委は昨年9月に飲酒運転した教職員を原則的に免職処分すると指針を改めた。

教頭は6月10日夜、平塚市内で開かれた慰労会でビール中ジョッキ1杯半と焼酎をコップ半分飲んだ。乗用車で帰宅途中の11日未明、同市内で平塚署員の検問を受け、呼気1リットル中0.15ミリグラムのアルコールを検出。今月6日に小田原簡裁で罰金20万円の略式命令を受けた。

「深夜バスで帰宅しようと思ったが、日曜日で運休していた。それほど酔っていないと思った」

「飲んで車を運転することが悪い」と言ってしまえばそれまでだが、この教頭には同情すべき点がいくつかある。

一番大きな点は、懲戒免職を食らったことだ。それに比べれば、罰金20万円など、たいした額ではない。何事もなければ、定年までの間、かなりの高給を得ることができたはずだ。懲戒免職では、退職金もまともに支給されないから、踏んだり蹴ったりの事態だろう。大まかに換算すれば、罰金5,000万円に相当するだろう。勤め先からも罰せられるのが、つらいところだろう。つまり、司法によって罰せられるだけでなく、勤め先からも罰せられるから、二重に罰が科せられる。業務で運転している人はともかく、自分の車を運転することは私的な行動の範囲内であり、職務上では、何の落ち度もなかったのだ。教職員として、それなりに資格も能力もある人が、いきなり、私的な理由で首にされてしまっては、その社会的な損失も大きいかもしれない。

第2の点は、アルコールが検出されたにしても基準値ぎりぎりであったことだ。検出器の精度の誤差によっては、「セーフ」だったかもしれない。0.15ミリグラムのアルコールとは、科学的にも微妙な数値で、人によって運転に影響が出始める初期段階であるらしい。

交通の便が悪いところに住んでいたのも、不運かもしれない。しかし、それを言っても、言い訳とみなされるだけだろう。そもそも、検問に引っかかったのが、確率論的に、彼の一番の不運かもしれない。

 

酒を飲む場所に車で来ていたことが、一番の敗因だろう。車で帰るつもりがあったから、車で来たのだろう。しかも、日曜日の夜遅くまで、慰労会で長居をしたのがいけない。最終バスの時間を確かめていなかったのも、〈最初からバスに乗るつもりがなかった〉と考えられる。バスがなくなれば、タクシーを利用するのが本当だろう。あるいは、アルコールが完全に抜けきるまで車の中などで待機し、車を動かさなければよかったのだ。酒は、そんな判断力も鈍らせるようだ。

酒気帯び運転の取り締まりは、事故を未然に防ぐためのものだ。死傷の程度を軽くするための、シートベルトの着用義務と同類の交通規則だろう。運転規則は、ますます厳しくなり、厳罰化が進んでいる。酒を飲んだだけで罰金20万円も取られるのは、たいした額ではないと私は言ったのだけれど、一般人にとって大きな出費だろう。本来は、アルコールが検出されたならば、「酒を飲んだら、事故を起こしやすくなるから、気をつけなさい」というような注意を与えるだけでよかったはずだ。そんな注意を無視するかのように、酒気帯び運転での事故がなくならないのだから仕方がない。酒の酩酊度は個人差が大きいのは確かだから、酒を飲んでも何ともない人にとっては、この厳格化はいい迷惑であろう。

事故を起こしたら、申し開きもできないのだが、アルコール検出は事故を起こす前の段階の違反であり、だれにも迷惑をかけていないのに、重罰を食らうことの不満や疑問があろう。事故が起きてしまっては、事故に巻き込まれた人が大損害を受け、大迷惑するのだから、それを防止する手段として取り締まりは、やはり有効なのだ。ただ、司法の決定以外に、リンチのような、罰金5,000万円相当を科すのはどうだろうか。懲戒免職でなくても、教頭から一般教諭に格下げする程度の処罰で充分だったと私は思う。

余計なおせっかい的な法規であっても、法規として定められたなら、守らなければいけないのはもちろんだ。人に手本を示すべき教職員が、法規を破ったら、示しがつかないのかもしれない。結果的に、反面教師としての皮肉な手本を示すことになった。教師とは、自分を律することが特に必要な、厳しい職業のようだ。

 

 

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