観客を体調不良にさせる演出                                     岡森利幸   2007.5.8

                                                                      R1-2007.5.15

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/5/1社会面

映画「バベル」で観客が体調不良

名古屋駅前の「ミッドランドスクエア」の映画館で、観客計6人が「気分が悪い」などと体調不良を訴えていることが30日分った。映画館側は、照明が点滅を繰り返す特定のシーンが原因の可能性があるとして、注意を呼びかけている。三重県四日市市でも、女性一人が体調不良になった。

そのシーンは、菊池凛子さん演じる耳の不自由な高校生がクラブで踊る場面。

毎日新聞夕刊2007/5/2社会面

「バベル」配給元のギャガ・コミュニケーションズは1日、注意喚起する文章を掲げることに決めた。「徹底的にリアリティと臨場感を追及する監督の意図により、本編中に、刺激の強い演出効果」が取り入れられていると記し、鑑賞の際は「予めご了承いただきますよう」と断っている。

さらにその後、複数の劇場から体調不良の観客が出たとの報告が同社にあり、「現在調査中」という。

 

何?この配給元の言い草は。それが体調不良の注意を喚起するための文章だろうか?

観客に体調不良が出たことをわるびれずに、逆にそれを宣伝のために利用しようとしているような、あつかましさのある文章だ。「監督の好みによる刺激の強い演出効果だから、気分が悪くなっても、あらかじめ了承してくれ」という意味に受け取れる。つまり、観客が体調不良を起こしたのは、監督がリアリティを追求した演出の結果であると言い放ち、刺激の強さを自慢するかのような「宣伝文句」になっている。

どの場面が「刺激的」なのかという、具体的な説明もないところが不親切だ。それがなければ、いくら心構えができていたとしても、観客としては「刺激」に対して無防備のままだ。彼らは体調不良になる人を、ほんとに心配しているのだろうか。(おそらく「客の入り」を心配しているのだろう。)

体調不良の観客数について「現在調査中」というのは、公表をなるべく先延ばししたいために、ぼかしているのだろう。それでは、どこかの製薬会社によく似ている。気分が悪くなっても訴え出ない観客がいると思うから、実数はもっと多いと思うべきだろう。

 

照明が点滅を繰り返すシーンで体調不良になるのは、テレビのアニメを見て子どもたちが倒れたという事件(ポケモンショック)に似ている。光感受性発作(または光過敏症)というものだろう。テレビより大画面で映写される映画の方が、光による影響が大きいから、なおさら注意が必要だろう。映画には、それを避ける規制がないのだろうか。

体調不良という言い方もおかしい。照明の点滅が体より脳に影響を与えているのだから、神経失調と表現するのはどうだろうか。ともかく健康被害を及ぼしているのだ。観客に体調不良を起こさせるような映画作りをするのでは、ろくな監督ではない。(配給元が監督を持ち上げすぎなので、私は少し下げてみた。

 

 

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