女王のローブを脱がせようとした写真家                         岡森利幸  2007.7.22

                                                                     R1-2007.8.6

以下は、新聞記事の引用・要約・翻訳。

The Japan Times 2007/7/13 World London(AP)

記録フィルムに、女王がアメリカ写真家を叱りつけた場面があった。

イギリス女王エリザベス二世の、80歳の誕生日とアメリカ訪問を記録した最近のドキュメンタリーフィルムの中には注目すべき場面がいくつかあるが、最も注目すべきは、アメリカ出版界では有名なアニー・レイボビッツがバッキンガム宮殿で女王を撮影する場面だ。

アニー・レイボビッツが女王に、「王冠を取った方がよろしいかと思います。なぜならその勲章つきのローブは、とても……」と言いかけた途中で、女王が冷たい視線を向けて、「異様なもの。おしゃれではない。あなたはこれが何だと考えるの?」と、着ているものを指差して言い返した。

アニー・レイボビッツは、撮影対象の人びとに奇をてらうような(bizarre)格好をすることを要求してきたことで知られている。……他に有名なところでは、裸のジョン・レノンがオノ・ヨーコを抱擁している姿や、デミ・ムーアの裸で大きな腹の妊娠姿がある。

アニー・レイボビッツは映画スターや有名人の意外な素顔や側面を写真に撮ってきた。それらが多くの人々の目をひきつけたのは、写真家が演出した効果によるところが多分に含まれていた。写真家としてのセンスに長けているのだろう。芸術的といってもいいかもしれない。

この場面で、彼女は女王を撮るのでなく、「80歳のおばあちゃん」の素顔を撮ることに心が動かされたようだ。世界の中には「80歳のおばあちゃん」の方を見たいと思っている人がたくさんいるかもしれない。私はそんな写真に興味はないけれど……。(戴冠式のころの女王のイメージが幻滅になってしまいそうだから。)

しかし、女王は、女王としての姿を写真にとってもらうためにカメラの前に出たのだ。女王は伝統と格式にのっとり、王冠をかぶり、重厚なローブ(高価なものであることは間違いない)に身を包んでいた。それがイギリスの女王らしい姿であることを信じていた。それが「80歳のおばあちゃん」には不自然極まる服装であっても……。

そのローブを脱げといわれては、とんでもないことだろう。女王は、自分の見せたい部分も見せたくない部分もよく認識しているのだと思う。公の場での撮影だったし、対外的にも重要な使命を帯びていた撮影だった。そこに写真家の「趣味」などが入る余地はなかったのだ。

その写真家には「場をわきまえなかった」という批判が当てはまるかも知れない。主催者はその撮影に際して、世界最高の女性に対し、世界最高の(と思われる)高名な写真家を当てたのだろう。しかし、その人選に一番の問題があったと私は思う。この場合、芸術肌の写真家よりも、単に報道写真家でよかったと私は思う。後者が女王にとって、イギリスの王室にとって最もよい写真をとってくれただろう。エリザベス女王は、最も女王らしい姿で、女王らしい顔をしてカメラの前にいたのだから、そのありのままの「女王」を写真に収めればよかった。

 

アニー・レイボビッツは自分のセンスで写真を撮ってきた人だ。アメリカの、さらには世界中の人々の目をひきつけてきた写真家であり、自分の思うような構図やポーズで撮ってきたアーティストだった。言いかえれば、演出を加えた、「やらせ」的な写真を多く撮ってきた。それで成功してきたのだから、彼女は自分のセンスに自信をもっていたはずだ。彼女なりの感覚で最高の写真を撮るのでなければ気がすまなかったろう。女王の撮影では、結局、自分の不本意な写真しか撮れなかったと私は想像している。

 

 

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