日雇い派遣の低い賃金と高い手数料率                          岡森利幸   2007.7.11

                                                                      R1-2007.7.16

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2007/6/22事件面、毎日新聞朝刊2007/6/27社会面

グッドウィル、データ装備費37億円返還、対象者約80万人。(ただし、この2年間にさかのぼってのみ。)

派遣労働者から一回の派遣に付き200円を徴収していた。

グッドウィル、データ装備費を保険料の原資などと説明しているにもかかわらず、重症事故の労働者に保険金を払っていなかったことが分かった。男性は「詐欺のようだ」と話している。

毎日新聞朝刊2007/7/7一面・総合面

人材派遣会社フルキャストが、日雇い派遣の労働者から不透明な天引き「業務管理費」を全額返還することを労組に回答した。15年分、数十億円に上る可能性。

他に「安全協力費」、「福利厚生費」などの名目がある。

「データ装備費」や「業務管理費」は、もっともらしい名目だが、実質的な『中間搾取費』である。

日雇い派遣(ワンコールワーカーなどとも呼ばれる)の場合、日給として、6000〜8000円が支給されるので、200〜250円程度の『天引き』は小額かもしれない。率にして2.5%〜4%である。しかし、それを搾取するだけで、年に億の単位の利益になるのだから、大きなものだ。

一人一人の労働者が文句を言っても、会社は長い間、取り合わなかった。雇われる個々の労働者の立場は極めて弱い。労働者は「社員」というような立場からは(ほど)遠く、連絡先が登録されただけの「フリーな労働者」だ。不満を言ったら、職は永久に回されないだろう。派遣する側は、拒否する労働者にはその日の仕事を分配せず、1円の給与も払わないという絶対権力をもつ。ようやく結成された労働組合による交渉で、派遣会社は返還に応じた。グッドウィルの会長は、「労働者は任意に支払っていた」と抗弁したが、力関係に差がある場合には、「任意に承諾していたこと」とは言えないだろう。労働者は何に使われているのかもわからず、それは必要な経費だという会社側の強弁に押さえ込まれていただけだろう。それが必要だという根拠は何もなかったし、不法性の疑いもある。こういう狡猾なしくみを編み出したのは、グッドウィル(旧クリスタル)が事業を開始した1995年、当初からだといわれている。それが長年放置されたまま、他の人材派遣会社もまねて、それぞれの名目で天引きするようになった。

そもそも、一般の人材紹介に関して紹介手数料は、厚生労働相の定めにより10.5%だが、日雇い派遣の場合にはそれが適用されない。日雇い派遣では、30〜40%の手数料を取っているのが現状だ。つまり、派遣会社は、派遣先の企業から支払われた代金の60〜70%しか労働者に支給していないという(2007/7/6放送の日本テレビ報道番組〈Zero〉で示された。この数値は、派遣会社が公表していないが、かなり根拠のあるものだろう)。私も、この高い手数料が一番の問題だと考える。それは、まるで悪徳金融業者の金利のようだ。それだけの手数料を取っていながら、派遣会社はさらに不明瞭な名目を付けて労働者が汗水流して稼いだ賃金から吸い上げていたのだ。こういうことをしていれば、事業が拡大するのは当然だろう。

30〜40%の手数料が、どうして日本の社会にまかり通っているのか。

 

貧しいものを、さらに貧しくさせるのは、社会的にまずい。実際に働いている労働者がバカを見るようでは、みんな働かなくなってしまう。搾取する会社を助長させることは、多くのものを搾取する側に向かわせ、社会的なモラルを低下させるだけだ。『自分が働かずに金を得る』ことばかり考える人間を増やす。人材派遣会社が業績を伸ばすのは、多くの労働者を下敷きにして(犠牲の上に立って)いるからと考えるべきだ。人材派遣会社が利益を得れば得るほど、社会全体の豊かさが損なわれ、社会が悪い方向へ(ころ)がり落ちるだろう。

民間会社による紹介手数料は、すべての職種や雇用形態に関して法的に規制しなくてはいけない。具体的には、必要な経費をすべて含めて10%以下にすべきだろう。それでは民間企業として採算に合わないというのなら、そんな派遣会社は撤退すればいい。

立法だけではなく、行政の労働監督局やハローワークはしっかりして欲しい。

労働者を雇う側も、手っ取り早い『搾取専門会社』を通すより、公正な公的職業斡旋を利用すべきだろう。公的なところを通すと、まずい何かがあるのだろうか。それとも、そんな派遣会社を利用することでも、トータルすれば人件費が安上がりになるのだろうか。いずれにしても、雇用に関する法的な抜け道があるのだろう。

 

 

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