品行方正な横綱ではつまらない                                    岡森利幸   2007.9.5

                                                                     R1-2007.10.11

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞朝刊2007/8/2一面

大相撲の横綱・朝青龍(26)が、「腰の疲労骨折と左ひじのじん帯損傷で全治6週間」の診断書を添えて夏巡業の休場届を出しながら、モンゴル帰国中にサッカーをしていた問題で、日本相撲協会は1日、理事会で、2場所出場停止と減俸30%、この日から九州場所千秋楽(11月25日)まで謹慎の処分にすることを決めた。

これほどの処分は過去に例がなく、異例の厳罰処分となった。

毎日新聞朝刊2007/9/1社会面

高砂親方、「解離性障害」と診断された朝青龍に同行し、モンゴル滞在35時間で帰国。

高砂親方は、朝青龍が全快して再来日した際には、記者会見して騒動を謝罪する意向を示した。

その診断書が疑われたが、サッカーは手を使わないのだから、「左ひじのじん帯損傷」があっても差し支えないし、ボールを追いかけて走るぐらいは、体調管理によいことだったのかもしれない、と私は思い直している。硬い筋肉を解きほぐす程度のことだから、心身のリラックスによいものだ。しかし、その元気な姿をビデオ映像で見せられて、日本相撲協会は怒り心頭に発してしまった。

〈地方巡業をサボって祖国のモンゴルでサッカーをしていたとは、ふとどきな奴だ〉という、だまされた気持ちや、地方巡業を見に来る人たちの手前、カッコわるいという、顔に泥を塗られた気持ちだろう。地方巡業をすっぽかされて、ファンのためというより協会の威信に関るから、怒っているのだ。2場所の出場停止、謹慎などの処分は、協会の面子を保つためのもので、見せしめ的な色合いが強い。朝青龍の場合、これまでにもたびたび問題行動を起こしながら、大目に見てもらっていたところがある。名ばかりの師匠の高砂親方もそれを黙認してきたとされる。しかし、協会や巡業の勧進元の威厳に関ることになると、許されなかったのだろう。それにしても、2場所も出場停止するなどは、朝青龍の相撲を見に行こうと楽しみにしているファンのことを無視した変な処分だ。

その厳罰は、朝青龍のブライドを大いに傷つけたようだ。その処分に彼は不満を示した。不満を示すために、それしか方法がないというやり方で……。自分の殻の中にひきこもってしまった。

 

朝青龍は、もう優勝回数は20回を超えるから、大横綱だ。ただし、大横綱の風格はどうかとなると、意見が分かれるところだろう。朝青龍の横綱としての品格を最低とする向きもあるようだ。朝青龍には気性の激しい面がある。闘志をむき出しにして、土俵に上がり、負けたときには憤懣やる方なしという態度で悔しがって土俵を足早に立ち去る……。淡々と土俵に上がり、勝負のあと、勝っても負けても何事もなかったように立ち去るような、お行儀のよい、無気力な力士たちとはまるでちがう。

実力があっての品格だろう。その点、朝青龍は十分な品格のある横綱だ。勝負の世界では、強さがすべてだ。手がつけられないほど強いから、特別枠に据えられるのが横綱なのだ。憎らしいほど強いのが横綱だろう。朝青龍は土俵の上で、朝青龍が相撲に勝ち、ぶあつい懸賞金の束を行事から受け取るとき、横を向いてひとにらみする所作など、憎々しいほどだ。私は、朝青龍の相撲の強さは本物と見る。朝青龍は横綱にふさわしい。その横綱がたまに負けたとき、座布団が乱れ飛ぶ様は圧巻だった。横綱が負けたことを大喜びするかのような座布団の乱舞だった。負けた横綱に対するブーイングでなく、横綱を破った格下力士に対する賞賛を表していた。

史上最強の力士、雷電為右衛門は、品格がなかったから横綱になれなかったともいわれるが、それではフェアではない。雷電が横綱になれなかったのは、大相撲の長い歴史の中で最大の謎だろう。弱い力士が最高位の横綱になるというのも、おかしなものだ。勝負の世界で、実力が伴わない、名ばかりの横綱では、みっともないだけだ。ファンも、そんな相撲の弱さに見ていられないし、横綱本人の引退を早めてしまったことが、これまでにたびたびあった。

土俵の外での横綱の品格など、私にとってどうでもいいことだ。土俵外のサッカーなどで、引退を早めてしまうことに私は心配している。

朝青龍はけいこに熱心な力士でもあった。出げいこ(他の部屋に行ってけいこする)にも積極的に行っていた。けいこ相手にとっては厳しすぎる一面もあったようだが、多くの力士がそのけいこ熱心さを見習うべきだ。朝青龍には個性の強さもある。強い個性の力士たちがぶつかり合うことが、相撲の魅力の一つだろう。朝青龍は、悪役のイメージがあろうとも、大相撲の主役の一人として、やはり貴重な存在だろう。

協会は悪役としての朝青龍を飼い馴らそうとするよりも、野に放ってのびのびと休養をとらせるのが得策だろう。日本の古い格式の枠をはめようとしては、逸材を失うことになる。

帰国するとき、記者会見で詫び言を言わせようとするのもナンセンスだ。協会の腹の虫を治めようとするだけのことだろう。協会には親方が弟子に代わって詫びを入れるべきだ。弟子の不始末を謝罪するのが、責任ある親方の一番の役目だろう。ぺこぺこと謝るような姿は、朝青龍に似つかわしくないし、私は見たくもない。ふてぶてしい言動をもう一度見せてほしい。それが最大のファンサービスだろう。

 

 

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