ヘリが住宅街に落ちたわけ                                        岡森利幸   2007.5.8

                                                                      R1-2007.5.28

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/4/27社会面

05年5月、静岡市清水区で、静岡県警のヘリコプターが墜落した事故で、事故調査委員会が最終報告を発表した。

墜落の原因は、左エンジンの停止は燃料切れ、右エンジンと回転翼の停止は、(操縦者によって)不適切な操作が行われた可能性を指摘した。

県警は機長を被疑者死亡のまま業務上過失致死容疑などで書類送検する方針。

イタリアのヘリ製造元の試算では、上昇するために翼の角度を大きくして負荷をかける操縦ミス以外に数秒で翼の回転が止まることはない。

この種のヘリコプターは左右の二つのエンジンによって回転翼(ローター)が回される。一般に片方のエンジンが止まっても、もう一つのエンジンでローターを回せるから、飛行が続けられる。さらに、二つのエンジンが止まったとしても、しばらくはローターが慣性で回り続け、軟着陸できるようになっているという。

この機の場合、ローターも左右のエンジンも止まったため、住宅地の上空100メートルから落ちてしまった。100メートルとは、ヘリコプターとしてはかなり低空を飛んでいたことになる。操縦者は墜落で死亡したため、証言は得られないが、住宅地の上空100メートルで、左エンジンが『突然に』止まったことで、操縦者はあわててしまったのだろう。操縦者の思いと行動を想像してみよう。

〈わっ、片方のエンジンが止まってしまった。もう一つのエンジンは大丈夫だろうか。それも不調になれば、ヘリを不時着させなければならない。かといって、下の住宅街にはそのスペースは見当たらない。下手に不時着させれば、警察のヘリコプターが市民を巻き添えにする事故になってしまう。それはとんでもないことだ〉

彼は、左手でぐいっとコレクティブピッチレバーを引いた――つまり、ローターの翼の角度を大きくしてヘリコプターを上昇させようとした。操縦者は、とりあえず、眼下の住民にとって、そしてヘリコプターの乗員にとっても最も安全な位置に、すなわち上空へ向かおうとした。しかし、ローターの翼の角度を急に大きくしすぎて、回転に伴う空気抵抗が増大し、ローターが失速状態になった。ローターの回転速度が急に落ち、右エンジンにも大きな負担がかかって止まってしまった……と推測される。急上昇のためには、右エンジンだけでは力不足だったのだろう。

ヘリを住宅街にだけは不時着させないという操縦者の強い思いが、かえって(あだ)となったのかもしれない。

 

左エンジンが燃料切れになる前に、警告ランプが点滅していたはずだが、操縦者がそれを見落としていたことが初歩的なミスであり、事故のきっかけとなった原因だろう。おそらく、操縦者の頭の中には、燃料はまだたっぷりあるはずだという思い込みがあったか、あるいは複数の燃料タンクの選択レバーを予備の方へ切り替えていたつもりでいたのだろう。

直接的な原因となったローターの翼の角度を大きくしすぎたことに関して、操縦者が翼の角度を大きくとろうとしても、失速する危険があるならば、その角度を制限するようなしくみを、製造元がヘリコプターの機体に備えるべきものだろう。「操縦ミス」というのは、製造元の都合がかなり含まれている表現だ。今後、製造元では、ヘリコプターの安全性を高めるために、音声などによって燃料不足を強く警告するシステムや、ローターを失速させないためのコンピューター制御を取り入れる必要がありそうだ。

 

 

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        コンピューターが機長に逆らった