コンピューターが機長に逆らった                             岡森利幸   2007.4.28

                                                                      R1-2007.5.1

以下は、新聞記事の引用・要約。

毎日新聞夕刊2007/3/30社会面

高知空港で04年11月、着陸しようとした全日空1617便(ボンバルディアDHC8−Q400型 *1)が滑走路から逸脱し右主翼下の車輪が脱輪した事故で、事故調査委員会は、機長の操縦ミスを主因とする報告書をまとめ、ポンバル社に設計の再検討を求めるようカナダ運輸省に安全勧告する。

報告書によると、事故機は着陸する際、前輪の設置と同時にバウンドし、右にそれ始めた。このため機長は、前輪の方向を変えるハンドルを大きく操作したが、前輪が動かなかった。機体は向きを変えられないまま(滑走路から)脱輪した。

同型機は設計上、コンピューターが前輪接地を確認しないまま、(操縦士が)ハンドルを大きく操作すると、(コンピューターが)向きを変えることが危険と判断し、前輪を動かす油圧システムを働かさない特性があった。機長はこれを知らなかったという。

 

最新の旅客機には、賢いコンピューターが多く搭載されていて、操縦を支援している。飛行機が一旦飛び立てば、操縦士たちは自動操縦に任せて、表示装置を眺めたり音声情報を聞いていたりすればいいのだ。コンピューターは人間による操縦を簡単にするためでなく、人間が誤った操作に警告を発し、あるいはそれを自動的に是正し、事故を防ぐこともする。

この場合、コンピューターは、操縦士が高速走行中に前輪の急ハンドルを切った操作を無効にしたのだ。滑走中に急に前輪の方向を変えたならば、機体はスピンしてしまう。

しかし、状況を考えると、機体の速度が落ちても、機長による前輪の操作ができず、機体が滑走路からそれてしまった。機長があせって、いくら力を入れてハンドルを動かしても、車輪が「言うことを聞かない」状態が続いたのだろう。

このとき、機長は前輪の操作をあきらめて、尾翼の方向舵などを操作することで機体の向きを変えるべきだった。その特性を知っていれば、最初からそうしただろう。

事故調査委員会が求める設計の再検討とは、詳しくは報じられていないが、高速走行中に操縦士がハンドルを大きく操作したなら、スピンしない程度に前輪を少しだけ動かすようにコンピューターのソフトを改善すること、あるいは、速度に応じて低速になったときに前輪を動かすようにすることだろう。コンピューターが操縦士の意志に逆らい、前輪をまったく動かさないのでは、あまりにも融通性がなさ過ぎる。

機長もその特性を知らされたとき、人間の判断による操作よりコンピューターの判断を優先させるようなシステムには、しゃくにさわったことだろう。

 

*1 2007/3/13に高知空港で前脚が出ずに胴体着陸した機体と同シリーズの型式。

 

 

一覧表に戻る  次の項目へいく

        救助する側の危険