「パン作りに興味のある方にお勧めすること」より 基本コースへ入門

take-m ©2006 Shinji Murakami

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 パン作りに慣れるためには、同じ配合のパンを何度も作ることです。
最初は手順を覚え、次に段取りを効率化し、それぞれの工程のポイントと加減をつかんでいきます。
 決して、1度や2度の経験で上手にパンが焼けるとは思わないで下さい。そして、アマチュアのパン作りはプロの作る製品としての完成度を求める必要はないということです。失敗しても、必ず市販品を食べているだけでは得られない、香味や知恵が得られるという楽しみがあるのです。自分の手で作ってみる経験は、いつしか店頭に並ぶパンの中から、より優れたものを選び出す目利きの基準にもなることでしょう。
 同じ金額を出すのなら、より良質なものを選んだほうが得ですから。大手の量産製品でも、随分バラつきがあるものです。

準備する材料
強力粉
ドライ・イースト

砂糖
ショートニング(または食塩不使用バター)


準備する道具
ボウル大(生地ミキシング用・または鍋)
ボウル小(材料用・または小鉢)
カード(またはスケッパー)
菜箸
はかり(1gが計量出来るもの・デジタル表示のものが便利)
捏ね台(大きめのまな板で代用可)
温度計(デジタルもしくはアルコール棒温度計)
時計(キッチンタイマー)
紐もしくはメジャー
ラップ
オーブンシート

作例写真



@材料の計量

「パンをつくるT」の「始めてのパン作りお勧め配合表 表1にしたがって、各材料を正確に量る。
右の写真を見て見てください。
直径24p程度の大きさのボウルを用意し、強力粉300gの中心部を窪ませて、そこにインスタント・ドライイースト4〜5gを配置する。粉の土手の外側に砂糖15gを配置し、イーストと砂糖が瞬時に合わさらないようにする。
塩は6g、水は195g(この解説では加水65%)を別容器に用意する。ショートニング15gも別容器に用意し、分量外のショートニングをすくった時に使用したスプーンにとってある。
うち粉に使用する強力粉の分量外も、右の写真では見えないが、台の端に小さじ1/2程用意してある。


※粉を振るう必要はないが、異物混入の可能性を疑う場合は簡単に振るっておく。


2006年6月21日
室温26℃、湿度75%
粉温26℃、水温25℃
室温、粉温、水温が捏ね上げ温度に近いので、特に温度調整なしでミキシングを開始出来そうだ。

捏ね上げ温度の目標は、26〜28℃とする。
捏ね上げ温度の上限として30℃を超えないこと。また、下限として25℃を下回らないこと。

Aミキシング初期(加水)

7割程の水をボウル中心部の窪みに注ぎ、菜箸でイーストを溶かす。
次に土手の粉を少しずつ溶かしこみながら砂糖も少量ずつ混ぜていく。

菜箸を力まずあわてずに、粉を切るように動かす。回転運動はさせずに、縦横に箸を動かし、時々ボウルを45度程回してまた箸を縦横に動かすことを繰り返す。箸を回転運動させるより、生地が良好にして効率的に合わさる方法だ。

この段階でいくらミキシング作業をがんばっても、粉が水を吸収し、全体にまとまっていくためには時間も必要なので、とにかくスローペースで肩の力を抜くこと!ミキサーを使用する場合でも低速で回す工程なのです。

台に取り出すときに、カードの通常持ち手側のアール部分をボウル内側に沿わせるようにしてこびり付いた粉を落として生地とまとめてしまうと効率的だ。



下の写真のような状態になってきたら、手を使って生地をまとめて台に取り出し、捏ね作業にはいる。
生地は水を吸収し、べた付いた状態の所と、乾いた状態の所、それに粉がまぶされた状態の所が混在するが、一応生地を一塊にまとめて台に移すことが出来る状態。「Pick-up Stage」である。
※ミキシングの工程については「ミキシングについて」参照


この写真のように生地がまとまってきたなら、ボウルをかぶせて生地を乾燥から守った状態にして、5〜10分間程、生地を休ませる。ルポ・オートリズ(捏ねベンチタイム)。
このことによって手作業によるミキシング時間を短縮するこが出来、パン作りを始めようとする方の最大のハードルである「捏ねるのが大変でしょう?」という意識を、いくらか緩和出来るのではないかと思う。




Bミキシング


写真上から順番に見ていく。手首に近い手のひらで生地を前方に押し出して伸ばす。生地の伸展性が出てくるに従って伸ばす量を増やすようにしていき、無理をして生地を痛めてしまわないように力加減を注意する。

粉の量が300g程度ならば、片手で捏ねられる。
慣れないうちは手に生地がくっついたり、台にへばりついたりして始末が悪いものだが、右手で捏ねて、左手にカードを持ち、そのカードで台に付着した生地を集めながら作業を続けるうちに、生地はべとつかなくなってくる。
Clean-up Stage


伸ばした生地の先端を指先で手前に寄せながら折りたたむようにして、上から軽く押さえてひとかたまりの生地の状態にする。


生地の端を持って90度向きを変えながら高さ20cm程度から軽く台に生地を落下させ、その振動で生地内の水分を分散させる。

この作業を繰り返す。

この伸ばしては折りたたむ手法で生地に伸展性が出てきたなら、以降のミキシングを菊練で行うと時間は短縮される。


捏ねるというよりも折りたたんで向きをかえて伸ばす、という作業を繰り返すような感じで行う。ただ台の上で生地を揉みこんでいても、ミキシング効果は薄い。

生地の伸展性が出てくる状態に応じて、生地を伸ばす量を増やしていく。伸ばしては折りたたみ、方向を変えて伸ばしては折りたたむ作業を繰り返していくと、やがてなめらかに生地が伸びるようになり、手のひらに薄く生地の膜が付着するようになってくる。
Development-Stage
本当に始めてパンを作られる方は、この状態でミキシングを終らせ、次の工程に移って構いません。これから先のミキシングは、目的とするパンの特性によってミキシング終了ポイントが変わっていきます。


手で捏ねる経験により、捏ね一回ごとに変化する生地の状態を感触で捉えることが出来る。「Clean-up Stage」から「Development-Stage」までの間でも、生地が乾燥したような感触や、少し水っぽい感触、やや固くなったりゆるくなったりといったように、変化を繰り返す。

生地が急にやわらかくなり、柔軟に伸び始め、台との接触箇所に薄い膜を引きながらのミキシング作業となったなら、
「Final Development-Stage」である。生地表面が乾いた印象でこの膜の状態にあるうちに、通常ミキシングを終了させる。

この先をオーバーミキシングとも呼び、わざとそうした状態に持っ行き、目的とするパンを作る場合もある。
ミキシング終了と同時に棒温度計を生地に刺し込み、捏ね上げ温度を計る。この日の捏ね上げ温度は29℃。目標より1〜2℃高いので、右写真のように一回り大きなボウルに水を入れ、そこに丸めた生地を入れたボウルを浮かせている。

始めてパンを作られる方は、とりあえず細かいことは置いておいて、捏ね上げ温度が26〜32℃ならば、そのまま次の工程に移り、発酵時間で調整しましょう。まずは工程と段取りに慣れること、そして自家製のパンを食べる経験を得ることです。

捏ね上げ温度が少し低い場合はぬるま湯で湯煎とし、極端に温度が高かったり低かったりする場合は、右写真状態の生地を、ボウルの中で捏ねて温度調整を行う。私はDevelopment-Stageの前半で、手に伝わる感触から、生地温度が極端に外れていることが予想される場合は、温度計をミキシング工程中に差し込み、ミキシング工程の仕上げ段階で湯煎や冷却の捏ねを行っている。真夏や真冬は、捏ね上げ温度が大きく外れやすいので注意が必要だ。
生地は、捏ねの摩擦熱で温度が上昇し、発酵も始まっているので発酵熱も生じている。おまけに手から伝わる体温もある。私は合成大理石板で捏ねているので、上述の室温、水温、粉温度でこのような捏ね上げ温度となったが、木製まな板の上で捏ねた場合などは、このデータよりも温度は高くなる可能性がある。


丸めた生地を分量外のショートニングを薄く塗ったボウルに入れる。生地の綴じ目は下にする。乾燥を防ぐためにラップで覆う。このあたりは多くの入門書に必ず記述されていることなので、ここでは詳しくは述べない。

カラハナソウから起したパン種による
パン・ド・コンプレとパン・ド・セイグル

パン・ド・セイグル・オ・ノア

むかごパン


C発酵(一次、二次)

さてさて、ミキシングが終って生地をまとめれば一休みが出来ます。この日のパン作りは、室温がちょうど良いので、生地を入れたボウルは水道の水をはったボウルに浮かせて作業台の上に置いたまま発酵工程となりました。寒い日は、発泡スチロールのトロ箱や、キャンプ用クーラーボックスにお湯を入れたカップとともにボウルを入れ、発酵させます。暑い日は冷却しますが、冷蔵庫の中に入れるなど、極端な温度変化は避けてください。これもトロ箱に氷水をいれたカップを入れて、そこにボウルを入れるような方法をとります。このあたりも多くの入門書に記述されているので参照してください。そして風に当てないことは守って下さい。生地の中ではイーストという生物が活動をしています。私たちも極端な温度変化には体調を崩します。同じことがイーストにも言えるのです。
発酵時間は、捏ね上げ温度や発酵中の生地温度の変化、環境に左右されます。また、イーストの活性度、粉の品質にも左右されます。一概に「90分発酵」などとは指定出来ません。
オーブンの発酵機能を使用するのも簡便です。

一次発酵
私はキッチンタイマーを30分に設定し、生地から離れます。そして事務的な仕事をしたり、資料整理をしたりします。30分後の生地の膨らみ状態を確認して、この日はもう一度タイマーを30分にセットしました。このアタリは勘と経験です。一次発酵時間は80分弱と見当をつけました。60分が経過した先は70分、75分と経過を観察し、80分でフィンガーテストを行ってピッタリでした。(右写真)

二次発酵
その後、パンチを入れて丸めなおして二次発酵に入ります。一次発酵と同様の段取りで45分発酵し、生地がパンチ後2.5倍程度になったところで発酵工程を終了としました。


このあたりのパンチや丸め方なども、多くの本と内容が重複するので、詳細は割愛します。

最も大変な労働の工程は終ります。発酵が始まれば、しばらく他の仕事をしながらパン作りが出来ます。

D分割、丸めとベンチタイム

ボウルを斜めにして生地に負担をかけないように手を添えて、台の上に生地を移します。軽くガス抜きを兼ねて生地をやや平たく手のひらで伸ばし、俵型にします。生地を手前と奥から折りたたみ、軽く転がす程度で大丈夫です。決して捏ねてはいけません。
そして目分量で分割します。商売的には秤を使って正確に分割するのでしょうが、家庭でのパンは大体で問題ありません。人にプレゼントするなど、余程綺麗に作る必要が無い限り、神経質になる必要はありません。むしろ、一度分割した生地を切ったり足したりと計量を繰り返し、生地に必要以上のダメージを与えてしまうことの方が問題となります。慣れれば、目分量でも結構正確に分割できるようになるものです。
今回、私は4分割しました。カードやスケッパーを使って、スパッと分割するようにします。
分割した生地は丸めなおして、合わせ目を閉じ、その合わせ目を下にしてオーブンシートを敷いた天板の上に置きます。湿度保持のためにお湯を入れた小さなカップを一緒に置きます。部屋の湿度が高い場合はこのカップは使わない場合もあります。
(右写真のカップは日本酒用利き猪口です。ちょうど良い容量なので私はよく使います。)

ベンチタイムは10〜15分程度です。ベンチテスト法もあるのですが、まずはとにかく生地を10分は休ませてください。ベンチタイムをとることで生地は発酵を続け、分割や丸め作業で受けた生地のダメージ(加工硬化と呼ぶ)を緩和し、伸展性が良くなり、次の成型工程が作業しやすくなります。布を被せて湿度保持をする方法もありますが、ホイロ環境に置いておくことが簡便なので、オーブンの発酵モードを使用してしまう手もあります。
E成型

今回は、丸型のパンを作るので、Dの工程での丸めのまま、つまりベンチタイムを延長してホイロとしてしまい、焼成するという超手抜きも出来ますが、一応様々なパンを作る上での工程として、ここで成型を行います。
成型には丸めたり、折りたたんだり、平らに伸ばしたものを巻いたりと、目的とするパンによって幾つかのパターンがあります。
今回は丸めます。ベンチタイムを終えた生地を軽く上から抑えて、内側に丸め込むように、表面に新しい面が出るように巻き込みます。そして綴じ目は下にしてオーブンシートの上に置きます。このやり方は、多くの書籍にも詳細が書かれているので、その方法で問題ありません。

ホイロ




ホイロ終了
Fホイロ(最終発酵)

一般的には38℃湿度85%が基準です。フランスパンやドイツパンでは32℃湿度75%と、やや低温低湿度でホイロとします。デニッシュペストリーやクロワッサン、さらにはブリオッシュのような油脂の配合が多いパンの場合は、バターの融点より低い温度でホイロをとらなければならなので、26〜28℃程度にするのですが、まあ、普通の配合のパンを家庭で作って食す目的ならば、だいたい35〜38℃の多湿環境に設定するれば、ほぼ問題なく出来ます
ホイロの見極めは実は難しいのです。生地の熟成状態は、粉の質や劣化状態、発酵の経過状態など様々な要因で焼成時の釜伸びの量に関わってくるのですが、この焼成状態を予測しながらホイロの見極めを行わなければならないのです。こうした判断は、経験がものを言う世界なので、始めて作る場合は2〜2.5倍に膨らんだらOKとします。時間の目安は30〜45分といったところでしょう。
右写真のホイロは、オーブンの発酵モードで行っています。
Gクープを入れる

ホイロから出したら、直ぐにオーブンを余熱します。私の使用しているガス高速オーブンはシステムキッチン用のリンナイRBR-51Cです。今回のような小型で少量の焼成の場合は、220℃に設定して余熱します。5分程で設定温度に達します。その間に作業を行います。
ご自身のオーブンの特性をつかんでおいてください。余熱に時間の掛かるオーブンの場合は、オーブンの発酵モードでのホイロを早めに切り上げて、余熱時間を確保しなくてはなりません。その場合は、ホイロを発泡スチロールの箱や、クーラーボックス等で代用します。

パン生地に1本ずつ切り目(クープ)を入れます。クープナイフは両刃のカミソリを水に漬けながら使用しています。なぜなら、薄くてよく切れる刃が、クープを入れるのに適しているからです。包丁でも入れられますが、刃をよく研いでおいたほうが良いでしょう。
クープを入れる目的は、パン生地が焼成中に釜伸びといって比較的急激な膨張を起しますが、その時の生地内部の圧力の逃げ場を作ってやることで、パンが破裂することを避けるのです。また、内部への火の通りも良くなります。クープによってパンに表情が生まれて見た目も美しく、ボリューム感も生れます。クープの深さは、生地の膨張の度合いと、グルテン生成の量、イーストの活性度などによって変化しますが、今回のように、小型のパンで、しかも強力粉を使っている場合はさほどシビアではありません、深いところで5o程度のクープで充分です。
作業中の部屋の湿度が低い場合は、霧吹きを使用します。ただし、生地表面をあまりびしょびしょにしてはいけません。表面が濡れた生地にクープを入れるのは綺麗に入りにくくなります。
フランスパンの場合は、クープの入れ方がシビアになります。
H焼成

オープンに生地の載った天板を入れて扉を閉め、220℃設定を200℃に下げて焼成をスタートします。時間設定は15分。この15分間は扉を開けずにそのまま焼成します。焼きムラの激しいオーブンでは10分程度焼成したところで天板の向きを入れ替える必要があるかもしれませんが、生地には触れない、動かさないということが肝要です。
15分後、設定温度を180℃に下げて5分焼成。全体で20分の焼成となりました。
200℃で20分焼成した場合は焼き色が濃くなり、場合によってはクープの縁などが部分的に焦げてきます。バゲットではそれが風味を生みますが、このパンは強力粉を使用した気取らないパンが目標なので、クラストをあまり固くせずに狐色に仕上げ、なおかつクラムの中心までしっかりと火を通すために後半5分を180℃設定にしました。

200℃10分で180℃15分程度の焼成を行うと、クラストがやや厚くなってきます。パンの狙いによって焼き方を変えることも必要になってきます。

私の使用するオーブンの性能では、小型のパンなので15分に設定しましたが、イギリスパンやバゲットなどを作る場合は、230℃で余熱して210℃20分を一応の設定基準としています。
使用するオーブンの性能と設置状況、個体差によって条件は変わります。また、オーブンが表示する温度も、完璧に信頼出来るものではありません。誤差はかなりあるものと考えておいてください。「我家のオーブン温度」を把握することが大切です。回数を作ることで自然とオーブンの癖が分かってくると思います。

焼き上がったパンは、網の上等において自然冷却します。ある程度冷めるまではクラムが安定していないので静置します。カットするのも充分に冷めてからにします。


まずは作ってみましょう!

 始めから大成功するとは思わないで下さい。プロでも新作のパンを試作する場合は、10〜50回も微調整したりするそうです。完成度よりもまず、身近なスーパーなどで入手出来るシンプルな材料の配合でも、風味豊かなパンをつくることが出来ることを体験してほしいと思います。
 また、余分な添加物が、決してパンの質を向上する訳ではないことがお分かりいただけると思います。