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 油断はならぬ・・・
 腕の傷がなかなか癒えぬからして、湯治の旅に出た。十日ほど前の上腕部の僅かな刀傷 右腕が膿んでじくじく痛む 些細な傷と放置していたのがまずかった 膿んで倍程に膨らんでいる 巻いたボロ切れから膿みが滲み出してくる 傷が開いてしまったのだ 痛うても縫うておけばよかったのに つい横着してしもうたーばい菌が入り太股程にも膨れているのだ 
 春とはいえ日陰にはまだ残雪が所々に残って 葉の無い落葉樹がほぼ一列に植わった川沿いの田舎街道をわしは歩いている 二十間(約36m)も先に二人の浪人風 立ち止まっていたが わしの姿を見て ふらり歩み始めたふうに見えた 白地に赤柄の入った着流し 一人は薄汚れた綿衣に黒袴 其々二尺三寸程の刀 赤柄は脇差を持たぬ遊び人ふう  薄汚れの黒袴が不気味 二対一 この場抜けれるか どうする 逃げるか 毒が回ったわしは速くは走れぬ どころか 傷が痛いのでヨタヨタ歩きだわ 右腕は役に立たん だいいち刀が抜けん 逃げもでけん 腰の刀が重うてたまらんので 長刺しは先ほどから背負うておったのだ小次郎のようにのぉー 
 赤柄が黒袴に話かけているふうに見えるー が口が動いていぬから 風に見えるだけだ 顔は動かしても赤柄の目はわしから離れぬ 黒袴は下を向いているが わしの足元に気がある その殺気でわしの足の項は痛い程だわ
 街道の小楢・楓が一筋疎らに並ぶ枯れ草土手右翼 浅い流れのせせらぎが陽の光を照り返しているーやけに喉が渇いた 腐りかけた濡れ落ち葉を踏んでわしはゆっくりと足をすすめるしかなかった━━━━!!